第4話「王宮の影と初めての任務」
「神崎勇斗様、至急、謁見の間へお越しください」
朝の訓練を終えたばかりの俺の元に、騎士が突然現れた。謁見の間? 嫌な予感しかしない。
(まさか、王女に何かバレたか? それとも、いよいよ俺を戦場に送り込むつもりか?)
逃げる手立てもなく、俺は仕方なく謁見の間へと向かった。豪華な部屋に入ると、玉座に座る王とその側近たち、そしてエリス王女の姿があった。
「お呼びとのことで……何でしょうか?」
俺がそう尋ねると、王は厳かな口調で切り出した。
「勇者よ、そなたに初めての任務を与えたい。王国の北にある村で魔物の被害が報告されている。そなたにはこれを調査し、村を救うために力を貸してほしい」
「え……」
いきなりの展開に俺は言葉を失う。
「いや、その……まだ訓練中で未熟ですし、騎士団の方々の方が適任かと……」
「訓練を通じて、そなたの成長は我々も確認している。だからこそ、この小規模な任務から始めてほしいのだ」
王は俺の言い訳を一蹴する。周囲の貴族や騎士たちも頷いており、断る余地がない空気だった。
「……わかりました」
仕方なく了承すると、王は満足げに微笑んだ。
「エリスも同行する。王女としてそなたを補佐しつつ、村の状況を見極めてくれるだろう」
「えっ、王女様も?」
俺は驚きの声を上げた。エリスは淡々とした表情で頷く。
「はい。村の救済は王族としての重要な務めです。勇者様、よろしくお願いしますね」
(おいおい、本当に俺を逃がす気ねぇな……)
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その日の午後、俺とエリス、それに騎士団数名の小隊で北の村へ向けて出発した。道中、エリスが俺に話しかけてくる。
「勇者様、初めての任務ですが、緊張していますか?」
「まぁ、多少は……」
適当にごまかす俺を、エリスはじっと見つめる。
「大丈夫です。私は、勇者様にはきっとやれる力があると信じています」
「……そっすか」
適当な返事をしつつ、俺の頭の中は別のことでいっぱいだった。この村への任務が終わった後、どうやって王都に戻らずに逃げ出すか──そればかりを考えていた。
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村に到着すると、予想以上に悲惨な光景が広がっていた。家々は破壊され、農地は荒らされ、村人たちは不安げに震えている。
「勇者様、どうかお助けください!」
村長らしき老人が必死の形相で俺にすがりついてくる。
「どんな魔物が出たんです?」
俺が聞くと、老人は震える声で答えた。
「森の奥から、巨大なオオカミの群れが現れたのです。普段はここまで来ないのに、最近は村を襲うようになり、家畜も多く奪われました……」
「なるほど……」
俺は適当に相槌を打ちながら、内心でうんざりしていた。
(クソ、なんで俺がこんな面倒なことに巻き込まれなきゃならねぇんだ)
だが、ここで逃げるわけにはいかない。村の外に出るための金や物資を手に入れるには、この任務を適当にこなして報酬を得るしかない。
「……まぁ、やるだけやってみます」
俺がそう答えると、村人たちは安堵の表情を浮かべた。エリスも微笑みながら頷く。
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その夜、俺たちは村の近くで野営を張り、オオカミの襲撃に備えることになった。騎士たちが周囲を警戒する中、俺は一人焚き火のそばに座り、剣を磨くフリをしていた。
「勇者様、少しよろしいですか?」
突然エリスが隣に座ってきた。
「どうしたんです?」
「あなた、本当に『異世界の勇者』なのですか?」
その問いに、俺は思わず息を飲んだ。
「な、なんでそんなこと聞くんです?」
「直感です。あなたの目には、何か違うものを感じます。まるでここにいるべきではない人のような……」
彼女の言葉に、俺は心臓がドキドキするのを感じた。
「まぁ……正直、俺もよくわかんねぇよ。召喚されたと思ったら、こんな世界にいたしさ」
適当にごまかすと、エリスはそれ以上追及せず、微笑んで立ち去った。
(危ねぇ……)
彼女の直感が鋭いことを改めて痛感した俺は、早く逃げる準備を整えなければと決意を新たにするのだった。
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