英雄を探す旅

あたりめ

第1話 託された剣

「…このつるぎを使える者を探してくれ」

その言葉を最後に、動かなくなった友と別れ極寒の山から命からがら下山した。

山の麓にたどり着くまで何度も意識が途切れかけ、岩場に足を取られ転びそうになっても、託された剣は胸に抱えて離すことは無かった。

近隣の街に続く道を見つけたときに、安堵からか身体からだの力が抜け、地面に突っ伏してしまった。

(…ここまで……なのか)

疲弊して声にならない思いを悔やみながら意識が遠くなっていった。



「……んな!…だんな!…【オズ】の旦那!!」

どこからか俺の名前を呼んでいる気がした。

雪山で冷え切っていたはずの身体は暖かく、まるで何かに包み込まれているような感覚だった。

「……ぅう、あぁあ」

唸るような声が自分の口から発せられ、ゆっくりとまぶたを開いた。

「あぁ!オズの旦那!意識が戻ったんですね!!」

窓から差し込む日の光が眩しくて周りの状況がまだ把握しきれていないが、どうやら人に救助されなんとか命を繋ぎとめる事が出来たらしい。

まだ身体に力が入らないので、ゆっくりとだけを動かして部屋の中を見回すと、山に登る前に立ち寄った小屋だと分かった。

大きな暖炉にはまきがくべられ、赤々とした火が部屋全体の温度を暖めている。

それに横たわっているのはベッドの上で毛皮か何かの布団が身体を覆っているため

、雪山で凍えていたとは思えない程まで体温が戻っていた。

「…助けてもらってすまない」

俺はベッドの横で心配そうに覗き込んでいる青年に声を掛けた。

「そんな!気にしないで下さい!…それよりもケガとかは大丈夫ですか?」

間髪入れずに身を乗り出して叫んできた。

この青年は【エーカー】と言う名で、帝国から山の麓までの道のりを案内してくれたいわゆるナビゲーターだ。

普段は羊飼いを生業としているらしく近隣の土地に詳しい、帝国を出るときに俺たちを先導して貰ったのだが、過酷な登山に同行させるのは危険が多いということで引き返してもらったのだ。

「身体は動かしずらいが…ケガは無いようだ」

おずおずと両手を少し上げて身体を確認するが外傷は無い。

続けて気になった事を質問する。

「俺たちが山を登ってから何日経ったんだ?」

「旦那たちを見送ったあとに途中で休んだ小屋へ戻り、帰りを待ってました!今日で4日目の昼になります!」

「4日か……、と言うことは丸1日気を失っていたのか…」

天井を見つめながら、山での記憶を頭の中で思い出してハッとした。

「剣…!俺が持っていた剣はどこへ行った!?」

無理やり身体を起こそうとするが、上半身を少し起こすだけなのに身体がいうことを聞かない感じだ。

すぐさまエーカーが止めに入ってきた。一回りは大きいはずのオズの身体を手で押さえる。

「落ち着いてください!剣はあります!あそこの机の上に!」

そう言って指差された方向に目を送ると、確かに友より託された黒い剣が机の上に置かれていた。

無事に剣を持って帰れたことに安堵を覚え、再びベッドにどっしりと身体を預けた。

「…あった。落としてなくて良かったぜ!」

エーカーもオズが再び横になったのを確認し、机の上にある剣の方に顔を向けた。

「あの剣って…アリエ様のですよね…?それに他の方々が帰って来られていないって事は……。」

最後の方の声は弱々しく、か細く聞こえる。

一瞬の静寂、部屋には焚火の薪がパチパチと燃える音だけが響いた。

「ほかのヤツらは戻って来られなかった…」

その一言だけ答えるのがやっとだった。

再び部屋の中では薪の燃える音と風で窓が揺れる音だけになった。



冒険者トレジャーハンターとして旅をしてきた俺達4人パーティーはライラット帝国から更に北へ上った山に数百年程前に滅びたとされる国の跡地があると聞きつけた。

なんでも「ドラゴンに滅ぼされた国」として語り継がれていて、現在もドラゴンの住処すみかとなっているらしい。

【ドラゴン】ってのを実際に見たことは無かったが、襲われた村があり他の土地へ移住する人々の話や、子供用の絵本で災厄として出てきたりだとかでその脅威は聞いたことがあった。

「ドラゴンに会ってみたいんだ!!」

ある日、酒場で晩飯を食べているとアリエがそんなことを言い放った。

俺と他2人のパーティーメンバーは「また始まった…」っという顔で、お互いの顔を見合わせた。

いつも突拍子の無い事を言う為、皆慣れているからか一度はスルーする。

俺も手に持ってるグラスが空になっていたので近くの店員を呼び止めビールのお代わりを注文する。

アリエが無理難題を言い出した時は聞かなかった事にした方が良い、ってことにメンバーの誰しもが気付いていた。

今までも振り回されて、盗賊の根城に乗り込み囲まれたり、人喰い怪鳥の巣に宝探しに行き危うくエサになりかけるなど、その好奇心旺盛さに何度窮地に陥ったかは数えきれない。

どうせ今回もろくな事にならないと話題を変えようとすると、アリエがバンッ!と机を叩き勢いよく立ち上がった。衝撃で座っていた椅子は後ろに倒れ、雪の様に白い長髪と藍色のスカートが大きくなびき、机の端にあったビール瓶が床に転がりこぼれ落ちる。

「いいか!お前ら!!私たちは確かに強い!!だがその強さは他の国にまで響き渡るほどではない!最強災厄と名高いドラゴンを退治してその名を世に知らしめたくはないか!!」

椅子に座っている俺たちは呆気に取られながら彼女を見上げた。いや、立っていてもそこまで身長が高くないので若干視線を上げた程度だったが。

(おい!演説が始まったぞ!)

(酒飲ませすぎたんじゃねーか?オズなんとかしろ!)

と言われ、ため息交じりに席を立ち、彼女が倒した椅子を元通りに戻し席に座るようにうながした。

零れたビールを拭き、替えの飲み物を頼むと再び席に着く。

アリエの顔に目をやってみるが、不服そうな表情をしていた。

酔っている為か普段は透き通るように白い頬が赤くなっているのが分かる。

はたからみれば可憐な女の子にも見えなくはないが、剣を持たせると魔物も逃げ出すほどの化け物だと知っているので頭が痛い。

「どうしてドラゴンなんだ?そこら辺の魔物でも十分に実力を示せるのはいるだろ?」

俺はこめかみを抑えつつ、彼女のをみながら質問を投げかけた。

「さっき言っただろ!最強の災厄なんだよ!ドラゴンは!退治しなきゃいけないんだ!!」

そう言うアリエのひとみは少しのかげりりがある気がした。長い付き合いだ、何か別の理由がある感じもするがそういう事にしておこう。

俺は他の2人に目配せして伺ってみた。いくらなんでも俺ひとりの判断で決断はできないからだ。

2人はやれやれといった表情でビールを飲みほし、

「お姫様がそういうなら仕方ねーや!リーダーだしな!」

「今までで何度死にかけた事か…次も無事だといいですねぇ…」

そう言いながらも笑いながら再び飲み直した。

こうしてドラゴン退治の旅が始まったのだった。


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