あなたの魂は21gありますか? ~ほかほかご飯に黒猫を添えて~
ゆるり
第1話 あなたの魂をはかります!
人間の世界では、死した者は審判を受けて『天国』『地獄』のどちらに行くか決まるとされているらしい。
確かに天国も地獄も存在する。どちらに行くか決める審判らしきものもある。
けれど、おそらく人間が抱いているイメージと実際は少し違うだろう。
「——はい、あなたの魂は天国行きですね。おめでとうございます!」
私は天秤に載せたビー玉のような魂に明るく告げた。
21gのおもりは高く上がり、反対の皿に載せた魂は喜色を示すように白く輝いている。
その魂をそっとすくいとって、カゴに入れる。そこには天国行きを待つ魂がすし詰めになっていた。
そろそろ運んでもらわなくちゃ——そう思ったところで、バサッと羽ばたく音が聞こえる。
「あ、ちょうど呼ぼうと思ってたんですよー。ユーテピさん、皆様のお送りよろしくお願いしまーす」
『確かに承った』
白鳩のような姿のユーテピさんがキリッとした雰囲気で頷き、カゴの持ち手を掴んで飛び上がる。
ユーテピさん、今日もカッコよくてイケメン……!
「善き魂の皆様、天国までいってらっしゃいませ~」
魂を詰めたカゴを持ったユーテピさんが飛んで行き、小さくなるのを手を振って見送った。
天国は転生を待つ人間の魂の憩いの場である。あの魂たちは、きっと穏やかに過ごせることだろう。
ちょっと羨ましい。私も仕事を忘れて、天国でバカンスをしてみたいものだ。
『ヴィオ、いつまでぼんやりしてるにゃ。次の魂が来てるにゃー』
「ちょっと休憩するくらい許してくださいよー……」
肩に乗っている上司のネクロに注意されてしまった。ネクロは黒猫のような姿で可愛らしいのに、時々悪魔のように思える上司である。
しょんぼりとしながら魂の列に向き直った。そして、遠くまで続く列を見て気が遠くなる。
最近、仕事が増えすぎじゃないかな?
「はぁ……次の魂の方、おはかりしまーす」
列の先頭に並んでいる魂を天秤に載せた。反対側の皿には21gのおもりが載っている。
私の職場は『人間の魂計量課』。私はそこで、文字通り、死した人間の魂を天秤に載せて重さをはかる仕事をしているのだ。
人間が提唱しているらしい『閻魔大王』なんて、実際はいない。
魂の行き先を決めているのは、私の前にある黄金の天秤だ。
生まれた時、人間の魂の重さは基本的に21gと決まっている。
そこから善行を重ねて生きていると魂は重くなる。反対に、悪行を重ねると魂は軽くなる。
21gのおもりより重い魂は善き魂として天国に行くが、軽い魂は悪しき魂として地獄に行くことになるのだ。
先ほども言ったが、天国とは転生を待つ善き魂が転生を待つ憩いの場である。大変素晴らしい場所だそう。
私は行ったことがないので、伝聞形式でしか語れない。
では、悪しき魂が行く地獄とは何か、というと——。
「あ、21gより軽い。残念ですが、あなたの魂は地獄行きですねー」
『相変わらず、不味そうな魂にゃー……』
ネクロがお腹をさすって嫌そうに言った。
——地獄とは、この黒猫のようなあやかしである上司ネクロのお腹の中に存在する。そしてそこは、魂が消化されるまで苛まれる場である。
ネクロの中で悪しき魂は消化され、純粋なエネルギーとして、新たな魂を生成する糧になるのだ。
「後で美味しく調理しますから、我慢してくださいよ」
『にゃー……善き魂の方が美味そうなのに、にゃー』
「善き魂は食べないでくださいね! 始末書どころじゃ済みませんよ!?」
慌てて注意する。
渋々頷く上司ネクロをジトッと見下ろした。
この上司、隙を見て善き魂を食べようとするから困る。私の仕事に上司の監視が加わったのは、確実にその悪癖のせいである。
悪しき魂は不味いらしい。反対に善き魂は美味しそうに見えるようだ。
実際に美味しいかはわからない。幸いなことに、これまでネクロは善き魂を食べたことがないから。
ネクロは悪しき魂を食べるのが仕事といえども、不味いのは嫌なのだそう。
毎回、食べさせるのに苦労する。
以前は、他の職員が魂をスムージー状にして、ネクロの口に流し込んでいたらしい。想像すると恐ろしいから、深く考えるな。
重要なのは、私が現在、魂を調理してネクロに食べさせる食事係を兼任していることである。
不味い食材を
魂を計量する業務よりも遥かに難題であり、私は日々頭を悩ませているのだ。
——♪
「あ、窓口業務終了時間ですね!」
日本で閉店を促す際によく使われるという楽曲を流用した音楽が聞こえてきたので、天秤に布を掛ける。
はかった状態で放置していた魂は、『本日の悪しき魂収容箱』にポイッと投げ入れた。
そして、天秤の前に『本日の計量業務は終了しました』と立て札を置く。
次の魂の計量はまた明日。魂の状態では時間の概念がほとんどないそうだから、待たせていても罪悪感を抱かずにすむ。
「さて、これからはお料理の時間です~」
『不味い飯は食わないから、がんばれにゃー』
「うぅん、お残しはダメですよ……?」
グルメな上司を持つと、大変である。
悪しき魂を詰めた収容箱を両手で抱え、今日こそは美味しいと言わせてみせようと気合いを入れながら、調理スペースに向かった。
今日は魂をどう料理しようかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます