『エモーショナル・クエスター』 感情(こころ)を照らす異能力バトルファンタジー

ソコニ

第1話 色づく世界



夜明け前、星野陽は不思議な夢を見ていた。


無数の色とりどりの光が、まるで万華鏡のように空間を舞う。その中心で、一枚の古びたカードが浮かんでいる。手を伸ばそうとした瞬間、目が覚めた。


「また、あの夢...」


枕元の古い懐中時計に目をやる。祖父の形見だ。最近、この時計が妙に気になって仕方がない。文字盤に刻まれた不思議な模様が、どこかで見たような...。


ふと、窓の外に目をやると、水無月神社の鳥居が朝もやに包まれていた。陽の家は神社の参道脇に建っている。子供の頃から見慣れた風景なのに、今朝は何か違和感があった。


制服に着替えて階段を降りると、キッチンからは母の声が聞こえてきた。


「おはよう、陽。珍しく早起き...あら?」


母の言葉が途中で途切れる。陽も足を止めた。母の周りに、淡い青色の靄のようなものが漂っているのが見えた。それは母の表情に合わせて、ゆらゆらと形を変えている。


「どうかした?顔色が悪いけど...」


母が心配そうに近づいてくる。その瞬間、青い靄が濃くなり、陽の胸に直接飛び込んでくるような感覚があった。


「心配」「不安」「愛情」


まるで母の感情が直接心に流れ込んでくるような感覚に、陽は思わずよろめいた。


「大丈夫!ちょっと寝不足かも」


急いで朝食を済ませ、玄関に向かう。背中には母の青い靄が追いかけてくる。深呼吸をして家を出た。


通学路に差し掛かると、そこかしこで様々な色の靄が漂っているのが見えた。登校中の生徒たち、通勤中の会社員、商店街の店主たち。誰もが自分だけの感情の色を持ち、それらが街全体をカラフルに彩っていた。


「なんだろう、この...」


言葉を探していると、背後から声がかかった。


「おい、陽!」


振り返ると、幼なじみの佐々木翔が駆けてくる。その周りには、鮮やかな緑色の靄が若葉のように広がっていた。


「珍しいな、こんな早く...って、どうした?顔色悪いぞ」


翔の緑色の中に、黄色い光が混ざる。心配の色だ。


その時、二人の前を通り過ぎる女子生徒たちの群れ。様々な色の靄が交じり合う中、陽は一つの異質な色を見つけた。


中心にいる川島さやかの周りを、漆黒の靄が渦巻いていた。


「川島さん...」


翔も同じ方向を見る。「ああ、最近元気ないよな。部活のことで何かあったって噂...おい、陽!」


気付けば、陽は川島さんに向かって歩き出していた。漆黒の靄の中に、かすかに見える光。その小さな輝きに、どうしても目を背けることができなかった。


陽の懐中時計が、かすかに温もりを帯びる。文字盤の模様が、まるで脈動するように。


これが、すべての始まりだった。

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