20XX年11月XX日 19:23 場所:通学路


私の実家は東京の古い寺で、地域の人が集まって行事をしたり、大晦日には除夜の鐘をついたりするような賑やかな場所だった。

そんな賑やかな実家から関西の大学へ、進学と共に引っ越してきたのだが、大学近くの私の下宿は、元いた場所と同じで「寺」だった。


ただ自分が暮らしていた賑やかな寺とは違って、下宿している寺は後継ぎがなく将来廃寺になる予定の寂れた寺だ。父の古い知り合いでこの寺の住職は、現在老人ホームに入っていた。誰も管理する人がいないからと、私が頼まれて一人で住んでいる。


だから自分の名前は西明寺だが、母屋の玄関の表札には山田と書いているし、寺の名前は真照寺だ。

そんな変わっている私の下宿先は、大学と下の駅のちょうど真ん中くらい、山の中腹に位置していた。通学にはまぁまぁ便利だが、人通りが少なく狐やたぬきのような獣がよく通るので住み心地がいいかと言われると、あまりよくはないし、当然、山の中なので周囲に民家もない。学校に近い、静か、以外のメリットはとくになかった。


斎藤さんは連れてこられた寺を見上げて、狐につままれたような顔をしていた。

学生が一人で古い寺に住んでいるのが不思議だったらしい。


友達を連れてきて、くつろげるような場所は、本堂か母屋の台所前にあるダイニングテーブルしかなかった。

下宿についた時、ちょうど強い雨が降ってきたので、今日は、もう泊まっていたらいいよと私は彼に伝えた。


泊まるなら本堂のすみに布団を敷こうと言ったのだが、寺の本堂に案内すると、焼香台やご本尊があるような場所のせいか、顔を顰められて、引かれてしまった。


別に失礼なことをしているわけじゃないし私もいつもここで布団を敷いて寝ている。仏間で寝るのと同じ感覚だったが、彼には信じられないらしい。実家で飼っている猫だって本堂で勝手に遊ぶし、気ままに寝ているのに、どうやら本堂で寝る=怖いという感覚があるようだ。

ただでさえ悪夢のせいで不安定になっている彼の状態も理解していたので、私は台所の続きにある居間まで彼の布団を運んでおいた。


別に肝試しのために彼を下宿先の寺によんだわけじゃないのだが。

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