Ep.02 再起動
悪魔を倒した後、エミリーは俺を「基地」に連れて帰ると言った。俺とエミリーは基地で暮らしているらしい。
道中で、俺は幾つかの廃墟を見た。逆を言うと、人が全く見当たらない。
3km近くは歩いたが、車は走ってないし、電車も駅も機能していない。
「…他の街もこんな感じなのか?」
「そうですよ。現代では過半数の人々が基地で暮らしています。」
「––––思い出した。楽園の領主による大災害か。」
「はい。」
楽園の領主は、この世で最も強力な4大悪魔の1人だ。
その契約は、死後、永遠に見たい夢を見せる代わりに、契約者を核爆弾級の破壊兵器にするという悍ましい内容だ。
楽園の領主によって、一夜にして、世界人口が半分以下まで減らされた。
軍事、インフラ、あらゆる設備と機関が破壊された。
そこから始まったのが、「人間に代わり、悪魔が地上を支配する時代」だ。
*○*○*○*
基地の姿は、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
建物の塗装は剥げ落ち、コンクリートの路面はひび割れている。
あちこちで立ち昇っている蒸気の出所は、発電所か何かだろう。
比較的高い建物の屋上には、見張りらしき兵士が見える。
「–––ここなら安全です。私を含めて擬似人間が2人駐在してますから。」
「…2人いれば安全? そんなに強いのか?」
「はい。––––チケットは持ってますか?」
エミリーの唐突な問いに、俺は首を
エミリーは俺を見た後、心情を察したように説明する。
「シャワールームのチケットです。1週間に5枚配布されて、1枚で20分使用できます。–––持ち合わせてなければ、私のを貸しますよ。」
「じゃあ遠慮なく。」
この憎々しい制度について何となく思い出しながら、エミリーから赤いチケットを受け取る。
––––シャワールームは狭かったが、使いにくくはなかった。
湯上がりのエミリーを見た時、見てはいけないものを見たような気がした。
俺は謎の罪悪感に襲われて、エミリーから距離を取る。
「どうかしました?」
「ごめん、エミリー。」
「–––何の話ですか。」
風呂を上がった後、エミリーは俺をテントに案内した。
「ここが私達の寝るテントです。」
「–––ベッドが1つしかないぞ。」
「共用ですからね。」
「あー、そゆことね。うん、うん……?」
「そういう事です。」
「?????。」
思わずエミリーを二度見する。自分の耳を疑って、もう一度エミリーを見る。
「ご飯にしましょうか。」
「………うん。」
レトルト食品を食べたが、細かいことは何も覚えていない。
美味しかったか不味かったかすら覚えてない。
何故なら、ご飯を食べるエミリーが可愛い過ぎて、小さな口でモクモクと一生懸命に食べてる姿が可愛い過ぎて、それ以外何も覚えていないからだ。
「…いつまでボーッとしてるんですか? 早く寝ますよ。」
「殺す気か!?」
–––この可愛い過ぎて脳殺系殺戮ロリです天使ちゃんと同じベッドで寝ろと言うのか?
死ぬんだが。……死ぬんだがァ!?
「何言っ––」
「ごめん、俺はまだ死にたくない。」
「また意味の分からない事を…。疲れてるんですね。早く休むべきです。」
俺が必死に首を横に振ると、エミリーはため息をついた。
「…分かりました。今夜は一緒に寝てあげますから、もう休んで下さい。」
「あ、あ、あ……。」
翌朝目が覚めると、エミリーはいなかった。俺の隣で寝ていたのは、裸の中年のおっさんだ。
いびきはうるさいし、雑に伸びた髭も汚い。
「–––いや、誰だよッ!?」
「ふぉ…?」
おっさんは目を擦ると、俺の方を見る。
「先生、どうかしましたか?」
「お、お前……まさかエミリーか!?」
「はい?」
「–––エミリーなのか!?」
「シュガーですよォ。寝ぼけてもそうはならんでしょ。」
「誰だよ…。」
「いや、だから––」
「記憶喪失なんですよ、先生は。」
「へ?」
エミリーの声に、シュガーとかいうおっさんが振り向く。
俺はシュガーを押しのけて、エミリーの姿をようやく見つけた。
「エミリー!! 良かった、おっさんじゃなくて…。」
「––あの、何の話ですか?」
〜カクカク、シカジカ〜
「…寝ぼけてもそうはならないと思います。」
「だよなぁ?」
シュガーとエミリーは、親しげに話している。
俺に対する言動からして、シュガーも俺の部下だろう。
「…で、何故エミリーとシュガーが入れ替わってたんだ?」
「昨日、ベッドは共用って言いませんでしたか?」
「…言ってたけど。」
「なぁ先生、本当に記憶喪失なんですか?」
「うん。–––少しずつ思い出してきてるけど。」
「俺の事、––––覚えてないんですか?」
「……ごめん。」
「シュガーさん、服を着たらどうですか? 戦闘服の方が先生には馴染み深いと思います。」
「そうだな…。」
シュガーはベッドから降りて、物干し竿に歩み寄る。
パンツとシャツを着て、穴だらけのズボンを履いた。
防弾ベストを装着し、ズボンの穴–––左右対称に空いていて、近くに金具まで装備されている––––に、装甲らしき物を接続。
分厚い上着を着て、鉄の輪っかをベルトのように腰辺りの金具に着けた。
その輪っかに、見るからに重そうな
弾帯を2本肩から下げて、アサルト型キラーと酸素ボンベを背負う。
首元にゴム製の保護具を、前後左右に2つずつ組み合わせて装着。
下面だけのガスマスクをつけて、ゴーグルとキャップ帽を被った。
「テキサス前線維持大隊、コード10201 KS・シュガー。…改めて自己紹介です。」
中身さえ見なければ、シュガーの姿は歴戦の兵士だ。
そこに立っているだけで圧倒されるほどの迫力がある。
そして、どこか懐かしい雰囲気でもある。何か思い出せそうな気がした。
「何か思い出しました?」
「–––いや、特に何も。」
「そうですか…。」
シュガーが肩を落とした時、サイレンの音が聞こえた。
–––警報だろうか。
やたらとテンションの低いシュガーが、エミリーに言う。
「行ってくる…。」
「先生も連れて行って下さい。私は待機所に行くので、先生を置いて行けません。」
「え、俺エミリーと一緒に––」
「先生、行きますよォ!」
「う…うん。」
俺は渋々とシュガーの後ろを走り始める。
アサルト型キラー以外何も装備してないが、いいのだろうか。
「何があった?」
「襲撃です。悪魔の手先、つまり契約者です。」
シュガーは言いながら跳躍し、建物の屋上に着地する。
–––8mは跳んだよな? あの重量級の装備で。
俺は驚いて、地上で立ち尽くす。
「–––先生、早く来てください!」
「え、えぇ…?」
自分にあんな芸当ができるとは思えないが、ひとまず跳んでみることにした。
「うおー!」
膝を曲げて、思いっきり地面を蹴る。すると、ふわりと身体が舞い上がった。
ボールが跳ねるような着地で、勢いを殺さずに走り続ける。
「スゴいぞ俺! ヒュゥー!!」
俺とシュガーは、街を飛ぶ鳥のように敷地内を駆け、目的地に到着した。
「クソッ、遅かったか……!」
シュガーが舌打ちする。残念ながら、もう既に戦いは終わっていたようだ。
「あ……シュガーだ…。」
おぼつかない、どこか虚しそうな少女の声。その声の主は、木馬の頭のような物を被っている。
彼女の足元には、どこの馬の骨とも知らない男が横たわっていた。
「私は今……休憩中なの…。擬似人間にも、人権はあるよね…。」
「遅くなってごめんよ、イリアちゃん。」
「いいけど……次から、もっと早く来て…。私が敵、殺しちゃうから……。」
彼女の、返り血が飛び散った白いパーカーが、冷ややかな風になびいた。
その少女の左手は紅く染まっている。
「あ……あと、まだ敵が最低3人は、侵入してるから始末してきて………エミリーにまで、迷惑かけないでね……。」
「分かった。」
シュガーはゴーグル越しに、俺に目配せ(?)すると走り始めた。俺はシュガーについていく。
「あの子は?」
「イリアちゃんの事、忘れたんですか…。あの子は貴方の事を、本当に慕っていたのに。」
俺はシュガーの言葉を聞いて、何も返事を出来なかった。
「すいません、悪く言うつもりは無かったんです。」
シュガーの言ってる事は、恐らく本当だろう。
––––だがそれなら、イリアが俺を見向きもしなかったのは何故だ?
疑問と不甲斐なさが、胸の奥で渦を巻く。
やがて俺とシュガーは、現場に到着した。
侵入者は一目見ればそれと分かった。
両手の爪がナイフのように鋭く長い老婆。長い白髪は乱れ、剥き出したような目は爛々と光っている。
俺はその禍々しい女の姿から、
爪の魔女は、左脇に泣いている男の子を抱えている。
しわ枯れた声で、周囲の兵士に脅迫した。
「もう一度言うよ。この小僧を、アタシの右手の爪で殺されたくなければ、お前たち全員、自殺しな。」
「「「……………。」」」
兵士は据銃したまま、指揮官の指示を待っている。
そして現場の指揮官は、子供1人の命と基地の損害を天秤にかけようと悩んでいるようだ。
––––悩むまでもないと思うが。
俺は携帯連射砲、通称アサルトキラーで魔女の体裁を照準に捉えた。
「シュガー、撃っていいよな。」
「待ってください、キラーの砲撃だと子供が巻き込まれます!」
「そうだな、最小限の犠牲だ。」
俺はキラーを抱え込んで、引き金を引いた。風船を割ったような音と同時に、猛獣に食いちぎられるような痛みが右肩に来る。
–––ガァンッ!! キラーの砲撃は狙いから大きく外れて、地面に着弾する。
吹き飛ばされたのは、脆くなっていたコンクリートの細かい破片だ。
そして魔女が怯んだ隙に、もう1発の砲撃を叩き込む。
–––ガァンッッ!! 再び外れた砲撃は、魔女の足元を吹き飛ばした。
倒れた魔女は、思わず子供を放す。
俺は子供が逃げていくのを待たずに、もう一度魔女を狙う。
「–––当たれ。」
–––ドシャァッ!!
魔女の右肩辺りを砲弾が貫き、余波だけで胴体を破壊する。
俺はキラーの殺傷能力の高さを目の当たりにして、少々驚いた。
「…ほ、ほら。最小限の犠牲……だろ?」
「そうですね…?」
さっきの男の子が、ガタガタと震えながらこちらを見ている。
俺は苦笑いを見せながら頭をかいた。
基地に侵入した敵、残り2人くらい。
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