第21話 俺はコミケでもやっぱり姫花といちゃいちゃする


 コミケ当日、俺は売り子だった。

 服装は、俺はやはり執事服である。

 姫花が絶対に執事服がいいと譲らなかったからだ。


「ありがとうございました!」


 俺は同人誌を買ってくれたお客さんに深々と頭を下げた。


 快晴のビッグサイト。

 長蛇の列が俺の視界の端でうねっている。

 夏のコミケ、地獄のような熱気の中、俺は売り子として立っている。

 

 隣には、姫花。

 珍しいことにピンクのジャージをして、眼鏡をしている、本人曰く、ぼっちちゃんモードらしい。

 

 優衣奈曰く、「ぼっちでロックなんだよ、最高すぎるよ」とか言っているので元ネタがあるのだろうが、俺にはよくわからん。


 俺に分かるのはどんな格好をしようが、やはり姫花が可愛いってことに驚くぐらいだ。


 隣に売り子のコスプレをした乃愛ちゃんがいる。

 おっぱいを強調するようなハートマークの付いたメイド服を着ていて、フリフリがついたミニスカートだ。

 文化祭の時とはちょっとだけアレンジしてあるが、大体同じだ。


 姫花の描いたイラスト本を売るために、俺は朝からここにいるわけだが――。


「すごいな、この列」


「でしょ? 乃愛も優衣奈も頑張ったもん、ね? 優衣奈」

 

 乃愛ちゃんはドヤ顔だ。

 優衣奈は「うむうむ、好調じゃ」とうなづいている。

 

 俺はすでに戦慄していた。

 なぜなら、姫花の新刊のタイトルは——「おっぱいぱいぱい、夢いっぱい」だ。

 すごいな、これ。

 思わず、じっと同人誌を見つめてしまう。


「けんちゃん、そんなに気になる?」

 

 姫花が裾を小さく引っ張って来る。

 人差し指と親指でちょこんと俺の服を弱い力でつかまれている。

 なに、この感じ。

 きゅんときちゃう。


「あ、いや」


「見ていいよ?」

 

 姫花が少しだけ首をかしげる。

 なんか、同人誌を見てほしいいう感じにも聞こえる。


「それじゃあ」

 

 俺はおそるおそる同人誌を開く。

 ぺらぺらとめくる。


「こ、こ、これは!」


 そこには——。


「おっぱい触って?」


「いいのか?」


「ふふっ、恥ずかしがっちゃだめ。 私を気持ちよくして」

 

 と書いてあった。


「ぶっ!!!」


  急いで、俺は同人誌を閉じた。


 何だこのセリフは!

 最高すぎる。

 特におっぱいが最高すぎる。

 なんて、おっぱいが夢いっぱいしてるんだ。

 おっぱいは夢いっぱい、おっぱいぱいぱい。

 挿絵の絵は俺を見つめながら上目遣いで微笑んでいる。


「なぁ、姫花、これはどういう?」


「けんちゃんのことを思ったの」


「ぶふっ!」

 

 姫花は無意識に上目づかいでうるうるとこちらを見つめる。

 姫花は俺を喜ばせる天才か。


 いや、なんかこれが売れまくるの当然だな。


「エロおにぃ、いちゃいちゃは後で」


 優衣奈ににらみつけられる。


「お、おぅ、わりぃ」


 俺は売り子に集中する。

 なんとなく、ぼぉーとたくさんいる観衆を見る。

 すると、客がやって来る。

 客が本を手に取り、開き、ぺらぺらめくる。


「全巻ください!」

「ありがとうございます、3000円になります」


 こんな感じで、また売れる。

 1時間に200冊ペースで売れている。

 内心、「や、やべぇ……」としか言えかった。

 俺は目の前で飛ぶように売れていく本を見ながら、背中に冷たい汗をかいていた。


「優衣奈、何部刷ったんだ?」


「1000部、大人気サークルが4000部だからうちもまだまだだね」


 そんなに売れるのかよ。

 商品の棚を見ると、おっぱいパットとかアクセサリーがある。

 妹の商才が凄すぎる。


 人気すぎるだろにもほどがある。

 一つだけ思う。

 お前ら、本当おっぱい好きだなぁ。

「BL本もあったりするけど」

 

「おにぃ、男同士の乳首責めもいけるよ、ここのお客さんは腹筋フェチが多いけどね!」

  

「妹よ、貴様は何を言ってるんだ」


 BL本のタイトルは「腹筋パラダイス」

 内容は男同士が恥ずかしそうに腹筋を触りあっているだけだった。

 腹筋フェチ専用のめちゃくちゃニッチなBL本らしい。


 ちなみに姫花はチラチラと売れ行きを見ていて、BL本と巨乳シリーズが売れてるたびに少し嬉しそうにしている。


「優衣奈、今日もめちゃくちゃ売れてるよ!」


 乃愛ちゃんはウキウキしている。

 その一方で、優衣奈は「我が計略に一分の隙もなし」としたり顔の笑みを浮かべている。

 客がどんどん来るので、俺は売り子に戻ることにする。


「あなたがあのわがプリ先生、応援してます、執事服かっこいいですね!」


「あ、いや、その」


 女性客に俺はキラキラした目を向けられていた。

 男女問わず、熱いファンが多い。

 俺は姫花以外の女性からこういう目を向けられるのは今は困る。


「むぅー、けんちゃんが取られちゃう」

 何か唸り声が聞こえる。

 横を見ると、姫花がリスみたいに頬をパンパンに膨らませていた。

 姫花、ちょっと怒ってるか? いや、でもなぁ。


「お客様、こちらは売り子でして、私の兄でございます、サークル主である私が対応いたします」


 俺が女性の対応に困っているのを察知してか、優衣奈がひょいと出てきた。

 まるで、俺をサポートするかのように出てきてくれた。

 助かるぜ、妹よ、ありがとう。

 心の中でそう告げておく。


「きゃあー、可愛いです、いつも応援してます」


 女性客は優衣奈の方へと関心が切り替わったようだ。


「ありがとうございます」

 

 妹はとても丁寧に対応していた。

 誰だ。こいつ。


「お兄さんお兄さん」

 

 俺は肩を叩かれた。

 乃愛ちゃんがひそひそと耳打ちしてきた。


「今、優衣奈機嫌悪いの」


 そう乃愛ちゃんが教えてくれた。

 俺はそっと耳を傾けると、なんか怨念のような言葉が聞こえた。


「なぜこんなにも近くに乳がいっぱいあるのに揉めないんじゃあ」


 やっぱり優衣奈は優衣奈だった。

 

 次の客がやってくる。


「やぁ、3冊くれないか? むむっ!」

 

 九条だった。

 なんか、わざとらしい表現をしている。


「あ、あ、あれは!」

 

 九条が姫花を見て、眼を輝かせる。


「ぼっち・ざ・〇っく」


 うん、やっぱり九条はオタクなんだな。

 対して、姫花はあまり九条に相変わらず関心を見せなかった。


「腹筋パラダイスをくれたまえ」


 きらりんと歯を光らせて、九条は俺に笑いかける。


「何に使うんだ?」


「観賞用、布教用、保存用」


「言ってる意味がわからない」


「業界用語みたいなもんさ」


 やっぱりお前ってオタクなんだな。

 九条が嬉しそうにしながら、「アディオス」と言って去っていく。

 なぜだろう、見ていると悪寒が走る。


「おにぃ、緊急ミッション」


「何だ、妹よ」

 

 優衣奈がにょきっと俺の両ひざの間から現れる。

 なんでそこから出てくるんだよ!


「軍資金」


「お前の好きなものを買えばいいのな。はいはい、売り子は平気か?」

 

 優衣奈はうなづく。


「援軍は呼んである、乃愛パパの会社員さんたち」


「毎度大変だな、いいのか? 本当に」


「大丈夫だよ、姫花お姉ちゃんの同人誌のファンだから」


 半次郎さんの会社員は姫花馬鹿なのか?

 少しだけ心配になる。

 優衣奈がじっと目を見つめてくる。


「なんだよ?」


「そうだ、間違ってもこの建物の裏側みたいな2人きりでなれる場所でいちゃいちゃしちゃダメだからね、意外と人が来るからね、周りをよく見て気を付けてね」

 

 近くにいる姫花が目をぱちくりさせた。

 すると、姫花の目がキュピーンと光る。


「なぁ、妹よ、それってさ」

  

「アディオス、エロおにぃ、ごゆっくり」

 

 俺が言いかけたことを妹はさえぎった。


 がしっ。


 いつの間にか、俺の右腕は姫花のおっぱいにいつも通り陥没していた。


「いこっ、けんちゃん」

 

 姫花は今日一番の上機嫌な様子を見せていた。


 え、何これ? いや、まさかな。



 姫花に誰もいないところに連れてかれる。

 ここは、妹が言っていた誰もいない建物裏だ。

 姫花はいきなり眼鏡をはずして、顔を近づけてきた。


「けんちゃん」


「んっ! んぐっ!」

 

 姫花に激しくキスをされた。


「けんちゃん、けんちゃん!」

 

 姫花の目はとろんとしている。

 やばい、やばい、やばい。


「ここじゃまずいから、な?」


「どうして?」


「いや、だって」


 姫花がやたら積極的だ。

 どうする? 俺。


「もう私我慢できないよー」


「あ、あ、あれはだなぁ」


「けんちゃんは私のものだもん」


 やっぱり女性客に話しかけれたの気にしてたか。


「家帰ったら、な?」


「いやだ」

 

 姫花に拒絶をされる。

 あれ? 珍しい。


「けんちゃん、私を誰だと思ってるの」

 

 姫花が頬を膨らませながら、にらみつけてくる。


「わがままプリンセスだよ」


 姫花は今日1番のキメ顔を見せた。

 

 そうして、また激しくキスをしてきた。


 ちなみにこの後も何回もキスをする。

 キスの回数はたぶん、7回だったと思う。

 すっげぇハッスルしてしまった。



「姫花お姉ちゃんはスッキリしたみたいだね」


「おまえ、わかってたのか」


 優衣奈がにやにやしながら、俺を出迎えてきた。


 ちなみに姫花は「えへへ」と頬に手を当てていた。

 あの後、ずっと顔面崩壊して、笑顔がキープされている。


「全く毎回姫花お姉ちゃん、欲求不満で大変なんだよ。これから夏コミと冬コミ必ずきてね、姫花お姉ちゃんが参加する限り義務だよ」

 

 優衣奈は口に手を当てて、うししと笑う。


「もうやめてくれ」

 

 コミケは無事終了した。

 売上は絶好調すぎて、無事完売した。

 優衣奈はご満悦だ。

 だが俺は、「俺はこれでよかったのか?」という妙な気持ちを抱えながら帰路についた。


「お疲れ様会しよ、おにぃ」


「どこで?」


 優衣奈がドヤ顔をする。


「うちんち」


 つまり、3人とも俺たちの自宅にやってくるようだった。


◆◆◆あとがき、お礼・お願い◆◆◆


最新話までお読みいただきありがとうございます。

コミケ回をお楽しみいただけましたか?


姫花ちゃんがやっぱりかわいい

姫花ちゃん、エロいよ

姫花ちゃんの同人誌やっぱりエロいんだなぁ

健太君、お疲れ様です

〇っち・ざ・ろっくやないかい、2期決定おめでとう(関係ないっすね笑)


と思ってくださいましたら、

♡、☆☆☆とフォローを何卒お願いいたします。

レビューや応援コメントを書いてくださったら読みますし、返信も速やかに致します。

次回の投稿は2月23日6時頃です、次はお疲れ様回です。

お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る