第29話 討伐
巨人は轟音とともに崖を滑り降りて来た。そして巨人は崖下に降りてきて尻餅をついた。巨人は立ち上がると、ヒバリとカイを睨んだ。
二人を逃がす気はないようだった。巨人の眼光に晒されたカイは、恐怖で足が竦みそうだった。
しかしカイは恐怖を押し殺して巨人に向かって行った。
「若夏くん!?」
「僕が気を引きます! ヒバリさんは隙を窺ってください!」
「わかった!」
カイは走って巨人の横に回り込み、魔法を撃った。そのときカイの右腕の紋様が光った。
「『赤矢』!」
赤い光の矢が顕現し、巨人に向かって飛んでいった。光の矢は巨人に当たった。しかし巨人の皮膚は厚く、右腕で強化された魔法でも貫くことは出来なかった。
光の矢は巨人の皮膚に傷を付けるだけで終わった。しかし巨人の気を引くことには成功した。
巨人はカイの方を向いた。
「そうだ、こっちに来い!」
巨人はカイに近づき、優先的に攻撃をし出した。魔法を撃って来て、痛みを与えてくるカイを鬱陶しく思ったのだ。
巨人はカイに大木を振り下ろした。まともに当たれば一撃でミンチになってしまう攻撃だった。
カイは近くの木に触手を伸ばして巻き付け、勢いよくそれを引っ張った。するとカイの体は触手により宙を舞った。
まるでコミックに出てくるヒーローのような移動方法だった。しかしそれは一朝一夕で出来るほど甘くはなかった。
触手の力加減がわからず、カイは高速で移動し過ぎた。木に勢いよく体がぶつかりそうになった。
カイは触手で体を包み、木に当たる際の衝撃を弱めた。それでも痛みはあった。カイは木の枝の上に乗ると、そこから魔法を撃った。
巨人は飛んでくる魔法を左腕で凪いだ。するとまた魔法がかき消えた。
「やっぱり。左腕は魔法を消す効果があるんだ」
ヒバリとカイは確証を得た。ギルバートの左腕には魔法を打ち消す効果があるのだ。そのため魔法を撃つタイミングを見極めなければいけなかった。
デタラメに撃っても左腕に消されてしまう。そうなればヒバリとカイの魔力がいくらあっても足りなくなってしまう。
カイは魔力消費の少ない初級の攻撃魔法を細かく撃った。すると巨人はカイの乗っている木に突っ込んで来た。
カイは触手を使い、別の木に飛び移ることで避けた。巨人がぶつかった木は、そのまま根元から倒れた。
カイは魔法を撃ち続けた。巨人の標的が自身から外れないようにしているのだ。もしヒバリに標的が移った場合、ヒバリは巨人から素早く逃げられないからだ。
そんなヒバリは木の陰に隠れて、魔法を撃つ機会を窺っていた。巨人は大木を振り回しており、迂闊に近づけなかった。
ただでさえ森は木が邪魔で魔法が撃ちにくいのだ。ヒバリはじっとチャンスを窺った。
一方でカイは必死に巨人から逃げ回っていた。巨人の攻撃は、一度でも当たれば命の保障はないため、かなり神経を使っていた。
また触手の操作をしながら魔法を撃つのはなかなか難しく、それも神経をすり減らす原因になっていた。
カイと巨人は持久戦をしていた。どちらが先にスタミナ、そして集中力が切れるかの勝負だった。
そして先に限界がやって来たのは巨人の方だった。巨人はちょこまかと飛び回るカイに翻弄されて、動き回り、体力を消耗していた。
カイは巨人の動きが鈍ってきたタイミングで、巨人に魔法を撃った。すると巨人は持っていた大木を弾き飛ばされた。
さらにカイは魔法を撃って、巨人の注意を引いた。すると巨人は左腕を突き出して、魔法をかき消しながらカイに突進した。
カイはそれを避けた。巨人は木にぶつかり怯んだ。その隙にカイは巨人の左腕と木に触手を巻き付け、左腕を固定した。
カイは触手を何本も出して、それで左腕と木を何重にも巻いた。しかし巨人の膂力は凄まじく、固定された木ごと動こうとした。
カイは気力を振り絞り、何とか巨人の膂力に抗った。
そしてその隙をヒバリは待っていた。ヒバリは巨人の前に姿を現すと、杖を向けて詠唱を開始した。
「灼熱と沸き立つ血の結晶、我が敵を貫け! 『紅槍』!」
ヒバリは巨人に向かって『紅槍』を撃った。巨人は迫ってくる魔法に左腕を突き出そうとした。
しかし左腕は木に触手で絡まったままだった。
そして巨人の腹部に『紅槍』が当たった。するとそこに大きな風穴を空けた。『紅槍』は巨人の後ろの木をなぎ倒しながら消滅した。
腹部に大穴が空いた巨人は、目から光が消え、そのまま倒れた。
ヒバリとカイは肩で息をしていた。カイは息を整えると巨人に近づき、紋様の入った左腕を掴んだ。
そしてそれを引っ張った。すると紋様が剥がれ、カイの体に移っていった。カイの左腕にも、右腕と同じ紋様が入った。
カイは疲労で倒れそうになるのを耐えてヒバリに近寄った。
「ヒバリさん、大丈夫ですか?」
「あたしは大丈夫。若夏くんは?」
「僕も、何とかって感じです」
二人は地面に座り込んで休憩した。
「帰ろっか……」
「そうですね……」
二人は立ち上がると、地図を見ながら元来たバス停まで森を歩いて行った。険しい道で体力も切れていたが、何とか辿り着くことが出来た。
そして二人はバスに乗ると街に帰っていった。泥だらけの二人は、バスの中で深い眠りに就いた。
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