第27話 準備

 夏休みも終盤になった頃、ヒバリはカイを駅前のカフェに呼び出した。カイがカフェに着くと、そこは昼時なのもあり、かなり混み合っていた。


 カイが店に入ると、すでにヒバリが席を取っていてくれた。ヒバリはカイを手招きした。カイはヒバリの正面の席に座った。


「どうしたんですか、ヒバリさん? 急に来て欲しいだなんて」


「あのね、確かめたいことがあって呼んだの」


 ヒバリは神妙な表情で話し出した。


「ここから遠くない森であった事件は知ってる?」


「巨人の事件ですか?」


「そう、それ」


 ヒバリの言っているのは巨人による殺人事件だった。そのニュースは、街から遠くない場所で起こったということもあり、大々的にニュースで報じられていた。


 かなり凄惨な事件だったようで、三人の犠牲者が出たと報じられていた。


「その巨人をドローンで撮影した映像があったの。見て」


 ヒバリはスマホをカイに見せた。そこには巨人を上空から捕らえた映像が映っていた。巨人は森の中をさまよっていて、すぐに木の陰に入り、姿が見えなくなった。


「この映像がどうかしたんですか?」


「この巨人の左腕をよく見て」


 もう一度動画を、今度は巨人の左腕に注目しながら見ると、荒い映像だったが、左腕に赤黒い紋様があるように見えた。


 それを見てカイは声を上げた。


「もしかして!」


「そう! これってギルバートの言ってた左腕のことなんじゃないかな」


 ギルバートの話では、近くに左腕があるらしかった。それがこの巨人に宿っているのではとヒバリは考えたのだ。


「海で襲ってきた蛸の怪物と同じパターンですね」


「そうだと思う」


 ギルバートの左腕は何かしらの拍子に、蛸の怪物と同じように巨人に宿ったと考えられた。


「近々討伐隊が編成されるらしいから、それよりも先に見つけないと」


 街は人を襲い、さらには犠牲者も出した巨人を放っては置かない。また巨人は人里の近くまで姿を現しているため、早急に討伐する必要があった。


 これ以上巨人による被害を出す前に、巨人を殺そうとしているのだ。街は魔法使いを集めて、討伐することを発表していた。


 そしてすでに巨人のいる山には規制が敷かれていて、一般人は入ることが難しくなっていた。


 討伐隊より早く巨人を見つけ出さないと、左腕が別の人に宿り、面倒なことになりそうだった。


「あたしは、明日にでも森に行って巨人から左腕を取った方がいいと思うの」


「僕もそう思います」


「じゃあ決定ね。明日バスで森に向かおう」


 ヒバリの提案をカイは了承した。


「十中八九、巨人と戦うことになるから注意しなきゃね」


「そうですね」


 その後、ヒバリとカイは地図を見ながら、どこから森に入って行くかを話し合った。巨人の現れた場所の近くは規制で入れないため、少し遠くから山に入ることにした。


 そして二人は集まる時間を決めて、その日は解散となった。二人は家に帰り、山に入る準備をした。


 カイは自室でバッグに必要そうなものを詰めながら、不安を感じていた。ニュースによると、犠牲者の一人は手練れの魔法使いらしかった。


 いくらカイがギルバートの体の一部を宿して強くなっていると言っても、巨人に二人で勝てるか不安なのだ。


 またカイは自分のためにヒバリを危険に晒しているのではと考えていた。ギルバートの体の一部を集めるのは、カイをギルバートから解放するためだった。


 カイは自分のことにヒバリを巻き込むのが申し訳なかった。そんな思いを抱えながら、カイは準備を終えて、眠りに就いた。

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