第22話 悪魔の右腕
カイと男の目が合った。男は感情を読み取らせない冷徹な目をしていた。
「悪魔の触手、頂くぞ」
そう言うと男は紋様の浮かんだ右腕で、カイの肩を強く掴んだ。指が食い込むほどの強い力だった。
するとカイの体から触手が現れた。男は触手を掴んで引っ張った。
「ぐああぁぁっ!」
触手を引っ張られたカイは叫び声を上げた。カイの叫び声は廃墟中に響き渡った。触手を引っ張られたカイの体には激痛が走った。
まるで体を引き裂かれているかのような痛みだった。
触手はなかなかカイの体から離れなかった。カイは触手を引っ張られている間、激痛に苦しんだ。カイは痛みで意識が飛びそうだった。
「若夏くんから、離れて!」
するとヒバリが杖を取り出して、男に向かって呪文を唱えた。
「『爆灼』!」
男は魔法の気配を感じ、その場から飛び退いた。すると男のいた場所に小規模な爆発が起きた。
『爆灼』は指定した場所に小規模な爆発を起こす魔法だった。通常、対人では危険過ぎるため使われない魔法だった。そんな魔法をヒバリは躊躇なく男に使った。
それだけ切羽詰まっていたのだ。
触手から男の右腕が離れたことでカイは痛みが収まっていた。
「ヒバリさん、ありがとうございます……」
「若夏くん、大丈夫!?」
「な、なんとか……」
カイは触手を体の中に戻した。そしてヒバリとカイは男と相対した。男も右腕に杖を持ち、構えていた。
「悪いな、苦しませるつもりはなかったんだ。すぐに終わらせてやる」
そう言うと、男の右腕の赤黒い紋様が光り輝いた。男はその腕で杖を振るい、呪文を唱えた。
「『赤矢』」
男は初級の攻撃魔法を唱えた。それに合わせてヒバリは防御魔法を展開した。
「我を攻撃から守りたまえ! 『青盾』!」
そして男の放った攻撃魔法が発現した。それは普通ではなかった。赤い光の矢は普通のものより太く、煌々と光を放っていた。
赤い光の矢はヒバリの張った防御魔法の青い障壁にぶつかった。そして赤い光の矢はその障壁を簡単に貫いた。
「嘘でしょっ!?」
防御魔法を貫通した赤い光の矢はヒバリとカイの間を抜けて、壁に向かって飛んでいった。壁に当たると、そこに大きな穴が出来ていた。
どう見ても初級の攻撃魔法の威力ではなかった。上級の攻撃魔法並の威力だった。そしてヒバリは初級の攻撃魔法が防げなかったことに驚いていた。
(どんだけ魔法の練度が高いの!?)
戦慄するヒバリとカイに、男は続けて魔法を撃ってきた。
「『赤矢』」
男の複数の赤い光の矢を撃ってきた。防ぐことが出来ないと理解したヒバリとカイは、横に飛び退けることで、魔法を避けた。
二人のいた場所には光の矢が深々と刺さっていた。これを食らったらと思うと、二人は気を引き締めた。
ヒバリとカイは立ち上がって杖を構え直すと、男に反撃した。
「食らえ! 『赤矢』!」
男は二人の魔法が飛んでくるのを見て、冷静に防御魔法を唱えた。そのときも右腕の紋様が光った。
「『青盾』」
男の前に青い障壁が生まれた。それはとても分厚く、濃い青をしていた。ヒバリとカイの放った攻撃魔法はあっけなく防がれた。
(魔法が強力過ぎるっ!)
ヒバリとカイは攻撃魔法を撃ちながら、ジリジリと後退した。男は防御魔法を張りながらズンズンと近づいて来た。
そして男は二人の隙を突いて、強力な攻撃魔法を撃ってきた。
「『紅槍』」
男の右腕が光り、魔法が発現すると、廊下を埋め尽くすほどの太さの赤い光の槍が飛んできた。
(躱せないっ!)
カイは一か八か上級の防御魔法を唱えた。初級の防御魔法を唱えても防げないのは明らかだったからだ。
「『海壁』!」
海のように濃い青をした分厚い壁がヒバリとカイの前に顕現した。カイは土壇場で上級の魔法を扱うのに成功した。
カイが張った壁に男の紅い槍がぶつかった。『海壁』は男の魔法と拮抗していた。しかしそれは少しの間だけで、すぐに紅い槍が青い壁を寝食し始めた。
そして紅い槍が壁を貫いて、ヒバリとカイに迫った。カイは咄嗟にヒバリを抱きかかえて魔法を背中で受けた。
「若夏くん!?」
ヒバリを抱きかかえたまま、カイは大きく吹き飛ばされた。幸いなことに男の撃った攻撃魔法はカイの防御魔法で大幅に威力を軽減されていた。
そのためカイは意識を失うだけで済んでいた。
「若夏くん!? 大丈夫!? くっ! 『爆灼』!」
ヒバリは向かっている男ではなく、その男の真上の瓦礫に向かって爆発を起こした。すると天井が崩れ、男に瓦礫が降り注いだ。
ヒバリの機転で少しだけ時間が稼げた。ヒバリはその間に気を失ったカイを遠くに運ぼうとした。
するとカイが突然起き上がった。痛みに顔を歪ませながら、眉をしかめ、口をへの字にして不満そうな表情をしていた。
「やれやれ、まさかもう来るとはな……」
カイが発したその言葉に、ヒバリは喋っているのがカイではなくギルバートだと察した。
「ギルバートね! あいつは何なの!?」
「私の右腕を持っている奴さ。少し厄介だな」
ギルバートは立ち上がって埃を払うと、触手を一本顕現させた。その触手で落とした杖を拾った。
(私の右腕? 何のこと?)
ヒバリは疑問が尽きなかったが、今はそれどころではないと、聞くのをぐっと我慢した。そしてヒバリはギルバートと共闘することにした。
「あいつを何とか出来る?」
「もちろんさ。人間の魔法使い如きに遅れは取らん。任せておけ」
ギルバートはニヤリと笑った。
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