第8話 決勝戦

 ヒバリの上級魔法によって相手の防御を突破したことで、相手は戦闘不能になり、ヒバリとカイの勝利となった。


 一年生で上級魔法を使ってみせたヒバリに、会場は驚いていた。


「すごいな、まだ一年だろ?」


「可愛いだけじゃないんだなー」


 素晴らしい魔法を見せたヒバリに会場は拍手と歓声を送った。ヒバリとカイは歓声を背にして、控え室に戻っていった。


 控え室に戻ったヒバリは椅子に座って項垂れた。上級魔法を使ったことで魔力のほとんどを使い切り、魔力切れになったのだ。


 魔力切れになると、疲労や吐き気に襲われる場合がある。ヒバリはそれが両方とも来ていた。


「若夏くん、あたしのバッグから魔法薬取ってくれない?」


「はい、わかりました!」


 ヒバリはカイに魔力回復の魔法薬を取るように頼んだ。カイはヒバリのバッグから魔法薬を取り出して、それを渡した。


「どうぞ」


「ありがとう」


 魔法薬を受け取ったヒバリはそれをチビチビと飲み始めた。魔法薬は味がマズいため、全てを飲むのに時間が掛かった。


 しかしヒバリはそれを無理して飲み干そうとした。そうしなければ魔力が足りずに魔法が撃てないからだ。


 辛そうなヒバリをカイは見ていることしか出来なかった。そして魔法薬を飲みきったヒバリだったが、魔力は完全には回復していなかった。


「うぇ、気持ち悪い……」


「ヒバリさん、大丈夫ですか?」


「ちょっと大丈夫じゃないかな……」


 ヒバリは魔力は回復出来ていないが、流石にもう一本魔法薬を飲むのは無理そうだった。


「ちょっと寝てるね」


「わかりました。時間が来たら起こします」


「ありがとう、若夏くん」


 ヒバリとカイが出る決勝戦は三位決定戦の次のため、少しだけ休む時間があった。そのためヒバリは休息を取り、少しでも魔力を回復させようとした。ヒバリは目を閉じて睡眠を取り始めた。


 ヒバリが休んでいる間に三位決定戦が始まった。中々の激闘が続いたため、試合時間が長引いた。


 そして三位決定戦が終わった。カイは眠るヒバリに近づいた。一瞬ヒバリの寝顔に見惚れたカイだったが、すぐにヒバリに声を掛けて起こした。


「ヒバリさん、そろそろ時間です」


「……ん、わかった」


 眠りから覚めたヒバリは立ち上がると、大きく伸びをした。その時に豊満な胸が強調され、恥ずかしさからカイは目を逸らした。


「ちょっとは魔力回復したかな」


 少しでも休めたことでヒバリの魔力は回復してきていた。万全ではないが、十分戦えそうだった。


「よし! 頑張ろっか!」


「はい!」


 そう言うとヒバリとカイは決勝戦の舞台へと足を運んだ。



          ※



 ヒバリとカイが入場すると、二人を大歓声が迎えた。


「ヒバリ! 頑張ってー!」


「ヒバリちゃん! カイ! 頑張れー!」


 クラスメイトの応援も熱が入っていた。決勝戦ということもあり、かなり注目されていた。上級生も先生も釘付けだった。


 ヒバリとカイが入場すると同時に、逆サイドから相手となるクラスの代表が来ていた。相手は女子生徒二人だった。


 ヒバリとカイは相手の女子生徒に礼をすると、距離を取り、杖を構えた。校庭を静寂が包み込んだ。そして審判の合図で試合が始まった。


「『赤矢』!」


 先手はヒバリが取った。ヒバリは最初から全力で魔法を放った。魔力が完全に回復していないため、短期決戦を仕掛けたのだ。


 ヒバリの攻撃魔法の嵐に見ている生徒は驚いた。


「すげぇな、これはすぐ決まるかもな」


 しかし相手の女子生徒はヒバリの波状攻撃を上手く防いでみせた。相手の女子生徒は息がピッタリと合っていて、見事な連携でヒバリの魔法を防いでいた。


 片方が見せた隙はもう片方が消しており、堅牢な守りをしていた。そしてヒバリの魔法が途切れると、その隙を突いて攻勢に転じた。


 女子生徒は時間差を付けて攻撃魔法を撃った。ディレイの効いた攻撃は防ぎづらく、カイは苦戦していた。


 それでもカイは自分の役目を全うしようと、全力で攻撃を防いだ。


 息もつかせぬ激しい攻防が続いた。観客の生徒たちはそれを見て非常に盛り上がっていた。どちらが勝ってもおかしくない攻防に生徒たちは見入っていた。


 そして激しい攻防の末、先に限界を迎えたのはヒバリとカイの方だった。ヒバリは突然魔法を打つ手を止めた。


 魔力切れになったのだ。ヒバリは杖を構えることも出来なくなった。ヒバリは地面に膝を付き、肩で息をしていた。


 相手の女子生徒はそんなヒバリを狙って魔法を撃った。


「させない!」


 カイはヒバリの前に立ち、防御魔法を展開した。カイはまだ魔力に余裕があった。しかし攻撃の手段を失ったヒバリとカイのペアは、このままではジリ貧だった。


 このままカイをジリジリと削っていくだけの試合展開になりつつあった。会場の誰もがヒバリとカイの勝利を諦めていた。


 クラスメイトからの応援も小さくなり、相手のクラスの応援にかき消されそうだった。


 そんな中、ヒバリは何とか立ち上がってカイに近づいた。そしてヒバリはカイに一つの質問をした。


「若夏くん、あたしのこと好き?」


「え!?」


 カイはヒバリの質問に動揺して、防御魔法が疎かになった。数発の攻撃魔法が防御出来ずに近くに着弾して、砂埃が舞った。


「あたしのこと、好き?」


「と、突然どうしたんですか!?」


「いいから、答えて」


 ヒバリは真剣な目でカイを見つめた。それを受けてカイは恥ずかしがりながらも、素直に答えた。


「す、好きです。大好きです」


「私も、若夏くんのことが好き」


 そう言うとヒバリはカイの頬に手を伸ばした。そしてヒバリとカイの距離はゼロになった。

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