第2話 ヘッセへの問とその答

 現在、四反田五郎及びヘルマン・ヘッセ両氏の書簡によるやり取りを活字化しております(以下敬称略)。

 ヘッセはスイス在住のドイツ人、四反田は広島在住の日本人。

 この時点で、言葉の壁だけにとどまらず、文化の壁、世代の壁といったものが大きく立ちはだかっていることは明らかです。

 それでは、彼らはどのような形で交流をしたのか。


 著者が拝聴した講演では、四反田はもともとロシア文学を専攻していたという。外国語としてまず学んだのは、例にもれず英語。それに加えてロシア文学と、およそドイツ文学はもとよりドイツ語を学んだわけでもない。

 それが縁あってヘッセの作品に触れることになった。

 四反田がヘッセの作品で最初に読んだのは「クヌルプ」だという。それまで学んでいたロシア文学とは全く異質のものであったが、牛にひかれて善光寺参りよろしく、クヌルプにひかれてヘッセ詣で、とあいなったといえようか。

 当時終戦から5年ほどしか経過しておらず、日本人が国外へ容易に行ける時代ではなかった。よしんば今のように容易に外国に出向けたとしても、相手は世界に名だたる大文豪。しかも数年前にノーベル文学賞も受賞したほどの人物である。例えは難だが、私が生前の種村直樹氏や竹島紀元氏にお会いするよりもはるかに難易度は高い話である。さらなる僥倖があって会えたとしても、言葉の壁はお互い如何ともしがたいのは火を見るよりも明らかである。


 となれば、当時取り得る唯一にして無二の手法としては、手紙でのやりとり。

 その後両氏間では物品のやり取りも割に頻繁に行われるのであるが、それはひとまず置いておくとしても、手紙以外に手段はない時代である。

 今であれば、例えば医師になられた元広島東洋カープ選手のゲイル・ホプキンス氏とやり取りしたいと思えば、電子メールでお互い余分な費用なしでやり取りをすることもできないではないかもしれない(実際しているわけではない)。

 無論、そんなインフラなど開発されていない時代ですからね。電話にしても国際電話などそうそうできた時代ではないですからね。

 何だかんだで、手紙という手段を主軸に介してやり取りしなければならない。時間も手間もかかるが、致し方ないであろう。幸い現在のように個人情報が云々ということで連絡先が分からないとか何とか、そういうことはなかった時代。なんせ当時はプロ野球選手の住所が公開されていて、子どもがサインをもらいたくて往復はがきを出して、それに選手がサインを書いて送り返してもらえたような、そんな時代であったのは救いかもしれませんね。

 少し前置きが長くなりましたけど、そういう時代だからこその、外国の大作家との手紙でのやり取り。タイムラグが発生はするが、その時間を使ってお互い慎重かつ正確にやり取りできるのは幸いであったといえましょう。


 さて、四反田が思い立ってヘッセに手紙を送るにあたり、一番聞きたかったことは何かというと、西洋の作家がなぜ、東洋の仏教思想の影響を受けたのかということでした。これに対しヘッセは、彼の親族にインドと縁のあった人がいたからという趣旨の回答を返しています。

 そのあたりは、ヘッセつながりのサイトを確認していただければある程度判明するものと思われます。


 当時四反田はアメリカに親族がいたようで、英語で書かれた手紙が比較的頻繁に自宅に来るような環境であったという。そんな中、その日もその方面から誰かまた送って来たのかなと郵便物を確認すると、

なんと!

世にも有名なる大文豪・ヘルマン・ヘッセ本人からの肉筆の手紙が来ていたというのです。今どきの国内のプロ野球選手どころか、世界的に有名な外国の文豪からの郵便物がはるばる海を渡ってやってきたものですから、そりゃ、いくら当時でもさぞかしビックリだったでしょう。


 翻訳された手書きのデータを現在いただいて電子化しているところですが、それを改めて確認するほどに、ヘルマン・ヘッセという人物の几帳面さと繊細さが時空を超えて伝わってきます。

 次回はさらに、この話の続きを差し障りない範囲で進めていきます。

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