集団転移はデスゲームと同意義語ですか?~ライフをスローしない村づくり~

孤々奈津

導入編

第1話 夢だと思いたいです

 異世界転生ってもうちょっと夢のあるモンじゃ無かったか? ……いや、そもそもこれは転移っていうヤツだろうか。現実逃避とも取れるとりとめのないことを考えながら、女の死体に食いつく虫を見る。


 初めましての三人まとめて夜の森に転移した(らしい)は良いが、真っ先に大怪我をした俺を助けようと頑張ってくれた男女二人のうち、女はついに喉を突かれて死んだ。

 転がったスマホのライトで照らされた、目の前の虫の仕業だ。


 ……鎌のような前足と鋭い一本角を持ち、後ろ足は嫌に長いあの虫の仕業だ。


 俺は自衛官だったはずだ。歩兵としての訓練を積んでいたはずだし、日本とその国民を守る義務を負っていたはずだ。


 それが何だ、一人の女すら救えなかった。自分の身を守れるかすら怪しい。一番強くなければならない俺が怪我なんてしたから、見捨てず助けようとしてくれた二人の善意にただ乗りしたから、こんなことになってしまった。


 虫の角に深く刺されて上手く動かない足と穴の開いた腹を見て、傷より深いため息を吐く。


「……ここまで助けてもらったのにすみません。一人でも逃げてください。俺はこいつら止めます」


 一緒にここに来た中性的な見た目の男に声を掛けると、彼は戸惑いながらも逃げ出した。できることなら後で俺も逃げたいが……。まあ、無理だろうな。


 パッと翅を広げる虫を前に、俺は覚悟を決めた。


「あああッ! あッ!」

 ……と、覚悟だけは決めた俺に大声を出して誰かがぶつかる。二人同時に倒れ込み、高速で飛び跳ねた虫はその上を通過した。


「はぁ……はぁ……あああ! マジで! ふざっけんじゃありませんよクソが!」


 随分口の悪い女性に助けられたらしい。黒髪セミロングの救世主は、起き上がると棒を持って虫を見据えた。

 

 ――――


 異世界転移ってもうちょっと夢があるものじゃなかったか!? 森の中を一人で駆けずり回りながら心の中で叫ぶ。


 この森で見たファンタジーな物と言えば数匹の羽毛恐竜のようなものだけで、それが人間に襲い掛かった時の結果については全くファンタジーじゃなかった! 一緒にいた人なんて皆襲われて行方不明ほぼ死亡で確定だ! せっかく電車の脱線事故から生き延びられたと思ったのに!


 これじゃデスゲームだ。こっからチート能力でも得られるのかな?


 心の中でグルグルと思考を回して嫌な想像だけはしないようにしながら森の中を駆けずり回る。


 そんな私の目に飛び込んできたのは、黒い短髪のゴツイ男と、ライトで照らされた数匹の巨大な虫だった。人の胴体ほどはあるだろうか。鋭い角と鎌、それに長く太い脚が印象的だ。しかも、どう考えても虫は男を襲おうとしている。


 ……もう、色々と言いたいことはあるが、色々あり過ぎて言葉にもできない。


 流石に一人でこんな場所に取り残されるのは嫌だ。嫌だし、もう死ぬことなんて確定していそうだ。ならせめて、一人くらい助けてみよう。

「あああッ!」

 こんな精神状態で無言で助けるなんてできない! 大声を上げて突進するように走りだす。

「あッ!」

 だが、ここは森の中。どこにどんな障害物があるかなんて分からない。木の根っこらしきものに蹴っ躓いて、勢いそのままに男の体を押し倒した。


 シャーッと音を立てて上空を通過する虫に、上手く避けられたと安堵する。


 だけど、だけどこういう助け方は気に入らない。せっかく人生最後にカッコよく登場したかったのに!


「はぁ……はぁ……あああ! マジで! ふざっけんじゃありませんよクソが!」


 もう許さない。八つ当たりも甚だしいが、こいつも生きるためなんだろうが! ともかくよくも殺そうとしてくれたな。起き上がりざまに近くにあった棒を持って目の前の虫を見据えた。

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