第4話

──それから三日後の夏の終わりに田辺は姿を消した。


工藤は田辺が姿を消してから暫くは、田辺が大金を見せびらかせにまた自分の元に現れると思っていたが、河川敷にコスモスの花が咲き終わっても田辺は戻ってこなかった。


「……やっぱ、ヤバい仕事だったんじゃねぇのかよ……」


季節はもう十一月。


すっかり肌寒くなり、工藤は田辺が段ボールの住処に残していったくたびれたジャンパーを羽織ると拾ってきたタバコを蒸しながら曇天の空を眺めた。


(やっぱ死んだんだな……)


その時だった。背後から懐かしい声が聞こえてくる。



「──久しぶり」


(え……っ?)


工藤が聞き覚えのある声にすぐに振り返れば、質の良さそうなスーツを身に纏い、上品なネクタイを締めピカピカの革靴を履いた田辺が立っていた。


「おい……っ、田辺?! 嘘だろっ!別人みたいじゃねぇか!」


工藤が思わず駆け寄ると田辺がすぐに後退りした。


「あ、わりぃ……臭うよな」


「いや、こっちこそ久しぶりに会ったのに、

失礼だよね」


田辺がニッと笑えば犬歯の銀歯が光る。


「マジかよ! 例の秘密の仕事うまくいったんだな!」


「うん、この通り」


「なぁ、今日はその話聞かせてくれるんだよな?」


「勿論。そのためにここに戻って来たんだ」


田辺がその場にしゃがみ込むのを見て、工藤も少し距離をとってしゃがむ。


「まず確認。この秘密の仕事、工藤もやるよね?」


「ああ。勿論だ」


(田辺がこんなに、こ綺麗ぎれいになって帰ってくるとはな)


田辺のボサボサだった長髪は、短く切り揃えられておりワックスで整えられている。


「じゃあ、まずこの番号に電話してくれる?」


田辺が工藤にチラシを手渡す。工藤はチラシを受け取るとそれを隅々まで眺める。


「でさ、電話口の奴の指示に従って指定された日の夜に、ここから少し離れた◯△ビルに行くんだけど工藤、場所分かる?」


(◯△ビルか。確か裏通りの先の……寂れた商店街の裏手にある、廃墟ビルだ)


工藤はチラシに視線を落としたまま黙って頷いた。


「で、そこに行くとまず顔写真を撮られて、他言しないという旨の守秘義務についての誓約書にサインさせられる。あとは片足に命綱をつけてバンジージャンプするだけ。撮影が終われば、金が現金で手渡される」


工藤はチラシから顔を上げると目を輝かせた。


「マジで!! それだけで500万貰えるのかよ!?」


「あぁ、俺もビックリだったよ。次は工藤が生まれ変わる番だね」


田辺が百円玉を工藤に手渡した。公衆電話から電話をかける電話賃だ。


「さんきゅ。この百円玉が五百万に変わるんだな」


気持ちが昂るのを抑えられない工藤を見ながら、田辺が歯を見せて笑った。


(ん?)


工藤は田辺の笑顔を見ながら、どこか一瞬、記憶の糸が引っ張られる感覚があった。


「工藤どうかした?」


「……いや、なんでもない」


「工藤なら絶対大丈夫だよ、頑張って」


田辺の笑顔に工藤は頷くと百玉をぐっと握りしめた。

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