俺のラブコメはまだ負けてない

@rereretyutyuchiko

第1話 俺のラブコメは負けから始まる

ラブコメ、それはアニメや漫画の世界だとキラキラしたものだ。


誰かと誰かがいじらしい恋を始めて、席が隣り合ってドキドキしたり、修学旅行の班を同じにしてウキウキしたり、ラッキースケベでまたドキドキしたりする。


そして最後にはきちんとその恋は結ばれる。


いつだってラブコメの主人公は誰かしらのヒロインと結ばれる運命にある。


でも、現実は漫画やアニメなどのラブコメほどうまくはいかない。


叶わない恋の方が多いし、なんなら女子と喋る機会自体少ない。


それでもやっぱり些細なきっかけで人は人のことを好きになるもので、俺もその例に漏れなかった。


加藤結衣かとうゆい、今友達としゃべって笑顔を咲かせているあの女の子が俺が好きな人だ。


綺麗な黒髪を最大限利用して形成されている完璧なショートボブ、透き通った綺麗な目、すっと真っ直ぐに通った鼻筋、少しだけ朱に染まっている頬、俺的には丁度いい肉付きの胸、最早どれを切り取っても美しいと言える。


俺はそんな加藤結衣の笑った顔が特に大好きだ。一度昇降口であの花咲くような笑顔を向けられたとき俺は完全に恋に落ちたのだ。


だが………


「あ、一茶君おはよ」

「うーん、あーおはよ加藤」

「げ、元気?昨日はよく寝れた?」

「ふっそりゃあこの目を見ればわかるだろう?」

「ふふっ隈だらけだよ」

「そういうことだ、昨日はゲームやりすぎた」

加藤はクラスメイトの千寿一茶のことが好きなのだ。これは多分きもいくらい加藤のことを監視している俺しかしらない事実だろう。


加藤は千寿と喋るときあの花みたいな笑顔をさらに輝かせている。


今の会話中も見てられないくらい加藤は綺麗だった。


ここまで言えばわかってもらえると思うがあえて言おう。


”俺のラブコメは既に負けている”と。


そのことを自覚はしているのだが、どうにも加藤のことを諦めきれなかった。まだ加藤と千寿が付き合っているみたいな情報はないからワンチャンあるんじゃないかっていつも観察し続けてしまうのだ。


………正直言って自分でもきもいと思う。

「なぁなぁ裕太、お前部活どこ入ってたっけ?」

俺は現実から目をそらすように目の前に座る小学校来の友人である高橋に目を合わせる。


「テニス部だけど?てか一緒じゃん忘れんなよ」

「冗談だって」

「ふっ俺より番手下のくせによくもまぁそんなこと言えましたねぇ」

「おっ、やるかぁ?ここでやっちまうか?あん?」

なんてたわいもない会話をしている間も、俺は見飽きたと言ってもいい高橋から視線をずらして加藤の方にちらっ、ちらっと視線を向けていた。


そしてちょくちょく見せる笑顔を見ては見惚れていた。


「なぁところでよぉ、お前このクラスで誰が一番かわいいと思うよ?」

出たなその手の話題!俺はあまり格付けみたいなことをしたくはないのだが、まぁこいつになら言ってもいいか。


「か、加藤さん、かなぁ」

「わかる!まじかわいいよなぁ加藤さん、ありゃ男子が放っておかないぜぇ」

くっそんな言い方じゃまるで俺が加藤のことを好きみたいじゃないか!………まぁ嘘ではないので否定はしないが。


「そういう高橋は誰なんだよ」

「俺ぇ?俺はなぁ、佐藤だな」

佐藤とは俺と高橋と同じ小学校を卒業している女の子だ。まぁ確かに高橋がよく話しかけてはいたが。

「佐藤?へーお前佐藤みたいな子がタイプなんだ」

「まぁ、タイプっていうかぁ?付き合ってるからこう言わないとだめっていうかぁ?」

気持ち悪い動きをしながら高橋は衝撃的なことをのたまった。

「………は?お前佐藤と付き合ってるの?」

「そうなんですぅ、昨日告白して、無事、ね?」

「無事、ね?じゃ、ねーよ!俺を置き去りにしやがって!ぼかぁ悲しいよぉ」

「ふっふっ、俺は一歩先に進ませていただくよ裕太君」

高橋は余裕たっぷりと言った表情で俺が来ているブレザーのボタンを指ではじいた。


「おまっ、ずるがぁ」

「ずるじゃねぇよ、俺は勇気を振り絞っただけだ」

「くっそ、何も言い返せないのが余計にむかつく」

「はっ、はっ、はっ!俺は高みの見物とさせていただくよ、せいぜい君も頑張り給え」

そう言って高笑いしながら高橋は自分の席に戻っていった。


今更ながらただ自慢するためだけに近くに来たのだと思うと余計に腹が立ってきた。


ちらっと気づかれないように視線を加藤に向ける。


俺も加藤に告白したいところだが、加藤は千寿のことが好きだ。


だから振られるのは明白、しかもどうやら千寿とは小学校から一緒らしく経験値的にも千寿の方が圧倒的に上、たった一回笑顔を向けられて惚れた後、特に何をするわけでもなくただ無駄に一年同じクラスになっただけの凡夫では太刀打ちできないのだ。


そんなこと言っておきながら俺は加藤から視線を離すことができなかった。



なんてことない日常が過ぎていき、放課後になった。

授業という呪縛から解放され中学生たちが部活に励む時間だ。


「おし、じゃ部活行こうぜ」

「おー、そうだ高橋テニスラケットはもったか?」

「お前俺のこと舐めてるよね!?」

俺と高橋は足並みをそろえて教室を出る。


ふと、加藤の方を向く。どうやら加藤も帰りの準備をしているようで、近くにいる千寿の方を幾度となく見ている。


「あ、じゃ、じゃあね一茶君!」

すると加藤が勇気を出して千寿に別れの挨拶をした。

「おー、じゃあな加藤」

千寿は流れ作業のように適当に返してから教室を後にする。

何回も繰り返したであろう慣れた手つきで行われたその恒例行事に悪態をつきたくなる。


もういっそ二人が付き合えばこんなに執着することはなくなるのにと舌打ちをしてしまった。


「おい、急に舌打ちすんなよ怖いだろ」

「あ、ごめん」

「なんかよくわかんないけどとりあえず早く行くぞ、じゃないと先輩にどやされる」

これから先自分に降りかかるかもしれない未曾有の恐怖におびえた高橋は体を震わせている。


俺達は少し駆け足でテニスコートに向かった。


そして練習が始まろうとしたそのとき

「げっ、水筒忘れた」

「おい何してんだよ、はよとり行け」

俺はバッグにあると思っていた水筒がないことにテニスコートに到着してから気付いてしまった。


運動部にとって水筒は必需品だ、もしも持ってくるのを忘れた場合数百メートルも離れた水道までいちいち戻らないといけない。


そんなことは絶対に避けたいので部活仲間と顧問に断りを入れてから俺は教室に戻った。


そこで俺は衝撃的な光景を目にしてしまった。


「………千寿君好きぃ」

それは明かりもついていない人の気配がない教室で千寿の席に座り、机に自分の頬をこすりつけている加藤の姿だった。その目はとろんっと溶けていてとても幸せそうだった。


俺はその見てはいけない光景を前に茫然と立ち尽くしてしまった。


すると俺の存在に気付いたらしい加藤と目が合ってしまった。

「あ、あの……い、いつから、いたぁ?」

加藤は目に涙をため、口を閉じてプルプルと震わせ頬をりんごかと勘違いするほど赤く染めている。


………正直に言えば、ほんの少しでも加藤と話せるだろうか?


確実なのは嘘を言ってごまかせば会話はここで終わってしまうということ。でも俺はもっと加藤と話したかった。


それは最低な選択だ、あまりに自己中な選択だ、加藤のことを考えていない選択だ。


けどたとえその選択が加藤を羞恥の嵐に落とすことになったとしても、俺はやっぱりそっちを選びたい。


「………”千寿君好きぃ”のあたりから」

「もうだめだぁぁぁぁぁ!私は死ぬんだぁぁぁぁぁ!」

急に発狂しだした加藤は千寿の机に何度も自分の額をぶつけだした。


「お、ちょっそれ痛いでしょ」

俺は急いでその自傷系ヘドバンをやめさせた。


「うぅぅ」

涙をためた瞳が俺の心臓を射抜く、弱弱しい子犬のような愛らしさに思わず抱きしめたくなったがそこは中二の理性でなんとか抑えた。


というかイメージと違う、なんか加藤ってもっとお淑やかな感じだと思っていたのに………。


「うぅぅ君確か、同じクラスの………」

「あぁ、えっと、前田裕太」

「私、加藤結衣よろしく前田君」

泣きっ面は依然変わらず弱弱しい瞳で俺を突き刺してくる。その度に心臓の音が高鳴っていく。


「あ、あぁよろしく、てかっ見て悪かったな」

だめだ、どうにも緊張して声が裏返ってしまう。

「ううん前田君は悪くないよ、ただ私の運がなかっただけ」

一瞬で生気が抜けた表情になった加藤は明後日の方向を向いている。


「せ、千寿のこ、とが好きなんだ、な」

くっそ!俺の馬鹿!もうちょっとしゃんと喋りなさい!

「…………うーまぁこの場合誤魔化しとかできないよねぇ、あーあー誰にもばれたくなかったんだけどなぁ」

「あ、安心して、俺結構口硬いかっら」

「おー、言うねぇ」

どんっと胸を叩いて堂々とそう宣言した俺に加藤は目に涙を溜めたままニヒルに笑いかけた。


「はぁぁぁぁ、ま、ずっと恥ずかしがってても仕方ないよね」

スカートを払いながら立ち上がった加藤は千寿の机のフックにかけてあった自分の通学用カバンを持ち上げる。


「信じてるぜ前田君、じゃあねまた明日!」

軽く笑った加藤は人差し指で俺を指差した後背中を見せた。

「あ、うん、また、明日」

俺はきちんと手を広げることすらできていない不完全な手を振って加藤を見送った。


「こ、こんなに話せたの初めてだ」

胸の高鳴りが俺を殺しに来ていた。


もしかしたら俺のラブコメはまだ負けていないのかもしれない。


なんて考えは甘すぎるか、でもきっとまだ項垂れる時間じゃないと思った。





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