第2話:青森の海と山の恵み
青函トンネルを抜け、本州最北端の青森県に足を踏み入れた早瀬真希。冬の寒さが骨身に染みる中、列車の窓から見える雪景色に感動を覚える。東京の喧騒から離れ、この静謐な風景に心が洗われるような気分だった。
「ここが青森…寒いけど、空気が澄んでいて気持ちいい。」
真希は大きく息を吸い込み、次の目的地へと足を進めた。最初は、青森市内の「りんごカフェ彩果」。青森と言えばリンゴ。その魅力を存分に堪能するため、彼女は地元で評判のこのカフェを訪れた。
店内に入ると、甘酸っぱいリンゴの香りがふわりと漂い、真希を包み込んだ。木の温もりが感じられるインテリアは、どこかほっとさせる雰囲気だ。席に着くとカウンター越しに店主が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。寒かったでしょう?温かいアップルサイダーはいかがですか?」
咲子の優しい声に誘われ、真希はアップルサイダーと看板商品のアップルパイを注文した。ほどなくして運ばれてきたアップルサイダーは、湯気とともにシナモンの香りが立ち上る。ひと口飲むと、身体の芯から温まり、リンゴの甘さとほのかな酸味が口いっぱいに広がった。
「これは美味しい…優しい味ですね。」
「ありがとうございます。このリンゴは地元の農家さんから直接仕入れているんですよ。紅玉という品種で、酸味がしっかりしているのが特徴です。」
続いてアップルパイにフォークを入れると、サクサクの生地の中からリンゴのフィリングが顔を出した。一口食べれば、バターの香ばしさとリンゴのジューシーさが絶妙に調和し、真希は思わず目を輝かせた。
「これが青森のリンゴの力なんですね。全然違います。」
咲子は微笑みながら頷いた。
「青森の気候と土壌が、美味しいリンゴを育ててくれるんです。」
真希はメモ帳を取り出し、咲子の話を丁寧に書き留めた。この地の人々がリンゴに込める思いを、読者にも伝えたいと心から思った。
次に向かったのは、浅虫温泉。真希は列車を乗り継ぎ、青森の海沿いに位置するこの温泉街に到着した。雪化粧をした温泉街は、どこか懐かしさを感じさせる趣があった。
まず彼女が向かったのは、地元の名物「ヒラメ漬け丼」が評判の食堂「漁火亭」。
「いらっしゃいませ。今日は新鮮なヒラメが入っていますよ。」
店主の勧めで注文した漬け丼が運ばれてきた。透明感のあるヒラメの切り身が美しく盛り付けられ、特製のタレが全体に絡んでいる。真希は一口頬張り、その滑らかな食感と旨味の濃さに驚いた。
「これ、すごい…ヒラメって、こんなに甘いんですね。」
「この時期のヒラメは特に脂がのって美味しいんです。それに、この漬けダレは代々受け継いできた秘伝の味なんですよ。」
店主の誇らしげな表情を見て、真希はこの土地の食文化に対する深い愛情を感じた。
昼食後、真希は浅虫温泉の公共足湯を訪れた。温かい湯に足を浸しながら、旅人同士や地元の人々と会話を楽しむ。80代の地元の女性が、幼い頃の温泉街の賑わいについて語り始めた。
「昔はもっと観光客が多くてね、毎日お祭りみたいだったんだよ。でも、今はこうして静かに過ごせるのも悪くないね。」
彼女の穏やかな笑顔に、真希は心が癒されるのを感じた。
「旅先でのこういう出会いが、一番の思い出になるんですよね。」
その言葉に、地元の人々も頷き合った。
夕方、真希は青森市内に戻り、地元の市場を訪れた。ここでは、新鮮なホタテやイカ、しじみなど、青森の海の恵みがずらりと並んでいる。真希は市場内の食堂で、ホタテのバター焼きとイカの塩辛を注文した。
「ホタテは青森を代表する味のひとつです。甘みが強くてジューシーですよ。」
店員の言葉通り、焼きたてのホタテは口の中でとろけるようだった。塩辛は程よい塩気とイカの旨味が引き立ち、地酒との相性も抜群だった。
「青森は海の幸も本当に豊かなんですね。」
その夜、ホテルに戻った真希は、ノートを広げて記事の下書きを始めた。リンゴカフェでの感動、浅虫温泉での出会い、そして市場で味わった海の幸。そのすべてが、彼女の心に深く刻まれていた。
「次はどんな土地と味に出会えるんだろう…。」
真希は次の目的地、岩手への期待を胸に抱きながら、眠りについた。
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