第15話 一緒にこれからを歩いて行きたいんだ、
あまり外には出ない方がいいかな、と週末は好きな旅行動画を見たりいおちゃんと通話したり、そういえば忘れてたけどテストが近いからテスト勉強をしたりして過ごした。
そして、高校に入ってからの何度目かの月曜日。
「いおちゃん!おはよ」
「めぐる。おはよ」
私はいおちゃんと電車に揺られていた。
お母さんには別だけど、二人には事情を説明するにはアリーちゃんと話し合わなきゃだし、何より巻き込みたくないから。
「いおちゃん、今日も髪飾り可愛いねぇ」
「ありがと。であんたのその首輪は何?」
「へへー、いいでしょ!おしゃれです」
「ああ、そう……。あ、そういば水族館のお土産ありがとう。美味しかったよ。あとで青笛さんにもお礼言わなきゃ」
「……えへへ」
私はいおちゃんとお揃いの髪飾りに触れ、その存在を確かめる。ここにちゃんとある。隣にちゃんといる。
いおちゃん、私の大切な幼馴染。
「いおちゃん。いつもありがと」
「何、突然?……これからも一緒でしょ」
「――そうだねっ」
もしいおちゃんが知ったら、なんて言うかな。案外、「あっそ。ねえ、そういえばあの時のカフェオレは」とかだったりするかな。
あっ、カフェオレ。
「……いおちゃん?私って、結局何本ジュースおごることになってたっけ……?」
「ん?あー、覚えてたんだ。そうだね、3本くらい?」
「よ、よかった……最近ばたばたしてたから気づかぬ間に10本とかになってなくて」
「あでも、ウチのアイス食べたしプラススイーツおごりね」
「え!?」
自業自得とはいえ、お慈悲をください……。
いつも通りきゃいきゃいやりながら学校につくと、最強の席にはもう
「あっ、おはよ!澄玲ちゃん!」
「……!お、おはよ、めぐるちゃんっ。って、今日はなんかいつもと雰囲気違うね!」
「ふふーん、いいでしょ!」
私たちは数秒見つめ合って、意味もなく「うんっ」と頷き合った。なんか、ここ数日の毎朝の恒例になってる、澄玲ちゃんとの。
あれかな、名前呼びが新鮮だからかな?
「め、めぐるちゃんっ、あのねっ。この前言ってた旅系の小説なんだけど――」
「え!前お出かけした時のやつ!?」
「あ、うん。その、読み終わったから、持ってきたよ」
「~~~!!澄玲ちゃん!澄玲ちゃん!」
「えっ、あ、めぐるちゃん!?」
澄玲ちゃんは前の放課後途中下車お出かけの時、本屋で新しい
アニメ化もしていたようで、旅行動画好きにとっては超気になる作品だったから読み終わったら貸してって言ってたんだ。
「え、見せて見せて!」
私は気が急いて澄玲ちゃんも座っている椅子に半分座らせて貰って「は、半分っ、めぐるちゃっ」、澄玲ちゃんと一緒に本を眺めた。
「いいなぁ……私もこういうところ行ってみたい」
「あ、そうだ。あんたにも言っとこうと思って忘れてたんだけど、ねえ、夏休みさ、4人で海行こうよ」
「……夏休み」
いおちゃんが私の隣に座って(いおちゃんの席だから当然だけど)そう言ってきた。澄玲ちゃんを見ると、小さくこくこく頷いている。
なるほど、二人の間では話が出てたんだ。
「……うん!!行きたい!!!アリーちゃんにも早く言おっ」
そう、か。皆と海。
未来の、話。
「めぐるちゃっん、楽しみだね」
「そうだね」
そのためにも、私は――
『めぐるさま。おはようございます』
三人で談笑していると、HRギリギリで〈念話〉が聞こえてきた。
私は口の方でも挨拶を返しながら、自分の席に戻り、『おはよう』と返す。
『めぐるさまに、お伝えしておくことがあります。実は今日はリネンも来ていますの』
『リネンさんも?』
『――はい。恐らくヴァイオラは早くて今日にも、来ます。初デートの日、公園で誰かが使役した魔物を見つけました。あの時は誰からの襲撃かは分かりませんでしたが……』
そういえば、あの、ファーストキスになりそうだった時。アリーちゃん、何かに気を取られていたような。
『わたくしの〈探知魔法〉に敢えて引っかかるように、魔物を配置していますわ。これは、ヴァイオラからの宣戦布告でしょう。一旦引いたのは、魔物の調整に時間をかけていたのでしょうか』
アリーちゃんの口ぶりだと、ヴァイオラは今度は魔物と共闘してくるってことだろうか。四人の雑談の方にてきとーに相槌を打って、私はあの日のヴァイオラの言葉を思い出そうとした。
だって、あの日は私の記憶でこんがらがってたから……確か、まとめて相手しても勝てるぞ、みたいなことを言ってたっけ。それは、自分にも味方がいるぞってことだったんだ。
『リネンは、アオスレン家に仕える家の出ですわ。戦闘能力もとても高く、わたくしがここに持ってこれた触媒全てを渡してあります。魔物は、リネンにお願いします』
『わ、私は?』
『めぐるさまは危ないので下がっていてください。ヴァイオラが来たら、授業中であろうと、〈認識阻害〉を使って迎え撃ちますわ』
戦力外通告を受けた気分だけど、でも仕方ないよね。だって相手はアリーちゃんと互角に戦えるヴァイオラと魔物。私なんか赤子みたいにやられそう。
――でも、多分ある程度戦える気がしてるんだ。
科学者Yは、クローンを作る時に身体能力の強化を施している、って記憶もあるから。それはきっと、
だとしたら、
『それから、めぐるさま。わたくし、『黒幕』の仮説でもう一つ気づいたことがありますの』
『気づいたこと?』
『はい。めぐるさま、安心してください。恐らく〈曇天の乙女〉の予知は、異なる世界と関わる予知を見たせいで、きっと精度が落ちて抽象的になってしまっただけですわ。わたくしが〈精霊姫〉の仮面を取って、めぐるさまと恋人になる。それは〈精霊姫〉の死――王国にとっては、終焉のような出来事ですわ』
確かに、考えてみればアリーちゃんの世界とこの世界は全く別の世界。アリーちゃんの〈未来予知〉が絶対でも、違う世界で起きることは正確には予知出来なかった。
そう考えることも出来るんだ。
『じゃあ、私……』
『ええ。めぐるさまはずっと、めぐるさまですわ』
「――うぅ」
「め、めぐるちゃん?大丈夫?」
「何、あんた急にどうしたの」
「あっ、ご、ごめんね。ちょっと、昨日見た動画を思い出して」
そっか。〈曇天の乙女〉なんて、最初から居なかったんだ。
じゃあ、アリーちゃんは私を殺さなくても良くなる?私の、「黒幕」の任務だけになる?
ううん、まだ仮説だからなんとも言えない、けど。
そうだったら、いいなと思う。
『その、めぐるさま』
『どうしたの?』
『あ、いえ……いきなり、色々言ってすみません』
『全然。色々、考えてくれてたんだよね――ありがと』
「……はい」
私にだけ聞こえるように現実の方でそう口にしたアリーちゃんの表情が、ほんの一瞬後に険しいものになって。
私はそれで、時が来たことを知った。
『今日来るかもって、こんなに早くなくても良くない!?』
『いえ、魔力エネルギーの出力は身体の調子によって左右されるもの……調子の整っていない朝はむしろ好機なのです!めぐるさま、〈認識阻害〉をかけますわ!』
その瞬間、光が奔った。
アリーちゃんの、もう見慣れた魔法だ。そのまま私に目で「行ってきますわ」と伝えたアリーちゃんは、すぐさま窓から飛び降りて行ってしまった。
私は、私は――
「……一緒にこれからを歩いて行きたいから」
私はアリーちゃんの後を追うため、教室を後にしようとして。
「……待ちなよ、めぐる」
「えっ」
「いお、ちゃん……?」
髪飾りから光を散らしたいおちゃんが、私の手を掴んできたのだった。
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