アリーチェ・フェ・アオスレンの話、1
幼少期、わたくしにとって王城の庭は輝いて見えていました。
楽し気に風に揺れる花々よりも綺麗な、
「ヴァイオラ!ヴァイオラ、待って……!」
「リーチェ!遅いわよ!」
ヴァイオラはわたくしと同い年の女の子。いつもわたくしを引っ張ってくれて、一緒にいたずらをして怒られたり、花の髪飾りを贈り合ったりしました。
花が枯れてしまった時は、ヴァイオラまで遠くに行ってしまったみたいでとても悲しかったのを覚えています。
「そんなの、あたしがいつでも作ってあげるわよ。だってあたし、リーチェのお嫁さんになるんだから」
「……!えへへ、わたくしも、ヴァイオラのお嫁さんになりますわ!」
――安寧は、最悪の形で終わりを告げました。
「……陛下、姫君についてお話が」
「申してみよ」
「魔力の濃度が……総量も……先代〈精霊騎士〉の比ではなく――」
ある日、お母様と家臣が話しているのを聞きました。
その瞬間から、わたくしは人ではなくなったのです。
「アリーチェ様――いえ、〈精霊姫〉様。こちらです」
「〈精霊姫〉様のご加護を……!」
「ククク……これで〈精霊姫〉は私のモノだ……」
「――〈精霊姫〉様、刺客はもうおりません。はぁ……あれからもう5人目ですか」
王女ではあったけれど、それでもアリーチェ・フェ・アオスレンとして居られた数年間は、露と消えました。最後までリーチェと呼んでくれたヴァイオラさえ。
「……おはようございます。〈精霊姫〉さま」
「――ッ」
その目が、もう、合わなくなって。
ああ、ヴァイオラ。この世界に来て、わたくしは〈精霊姫〉の仮面が剥がれました。皮肉なものです。〈精霊姫〉としての責務を果たすために来たこの世界で。
それでもわたくしが戦うのは、誇りと矜持――そして、愛しい人のため。
ヴァイオラ、今のわたくしだから、気づけたのです。
「……アリーチェ・フェ・アオスレンが死んだのは、貴女にリーチェと呼ばれなくなった日、だったのですね」
わたくしは、去っていく貴女の後ろ姿を見て初めて気づきました。
貴女はきっと、最初から分かっていたのでしょう?
魔物の返り血で濡れたその青紫の髪が、貴女の後悔を語っているように、わたくしには見えてしまったのは――
「わたくしがまだ、貴女を好きだから、でしょうか」
あの時の想いとは形を変えていても。
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