第22話:これじゃから最近の若造はブツブツ
「兄貴、肩揉みましょうか?」
「要らん」
「兄貴、飲み物買ってきましょうか?」
「要らん」
騒がしいのがいると目立つのでクラブ見学を中断し、夕暮れ時のまばらとなった中庭のベンチに腰掛ける二人。
何故席を立ったのか、理解していないとさか男、ライトの猛口撃を前に、無敵無敗の剣豪は白旗をぶんぶん振り回してくなっていた。
「わしなんぞに構わず、あの子分どもとつるんでおればよかろうに」
「子分ですか?」
「わしが割って入った時、二人ほどおったじゃろう。ダチ、とか言うとったか?」
「ああ。それは契約が切れたんでいないですね」
「……契約?」
およそ友達付き合いでは出てこない単語に、不穏な気配を感じ取るアハト。
その直感は、
「月極で契約していて、その契約の更新が丁度入院のタイミングだったんで、まあ更新しなくてもいいかな、と」
大当たりであった。
「……つ、月極」
「金の切れ目が縁の切れ目ってやつっす」
「そ、そんな直接的な表現じゃったかのぉ?」
何か変なこと言っています、と小首をかしげるライトが怖い。むしろ自分の常識がおかしいのでは、と思ってしまうほどの迫真の普通顔である。
「兄貴との出会いで目が覚めました。漢なら上を見ろ。つまり、天に聳え立つ最強の武人である兄貴の背中を見ろ、と」
「……こやつ、諦めを知らぬのか?」
身震いする押し売りっぷり。
鞄をごそごそと漁る様を見て、アハトはこれまでの人生で感じたことのない恐怖を覚えていた。普通の、性格の終わった不良であればどれだけよかったか。
「これ、契約書でして……最強過ぎる兄貴の価値を俺は推し量れなかったので、とりあえずブランクにしてあります。お好きな数字をどうぞ」
「と、友達契約書、じゃとぉ」
「っす。まずは友人から、烏滸がましいのであれば下僕とか、下働きとか、文言も変更可能です。あくまでたたき台と思っていただければ」
とさか頭以外、真っすぐで真っ当な表情を、眼をしている。
だからこそ怖いのだ。
「ぬ、ぬしに、その、契約関係以外の友人はおらぬのか?」
「いないっすね。親父が契約を交わさない間柄は信用に値しない、と」
「それは商売の話じゃろうにぃ」
「そう言えば昔幼馴染にこれ渡したら打たれました。あっはっは」
「その時、これがおかしいと思わんかったのか?」
「最近の女の子は手が早いな、ぐらいですかね」
「終わっとる!」
「……?」
己も別に常識人ではない。が、それでも昔は仲間もおり、可愛がっていた後輩もいた。ここまで、これほどまでにコミュ障な人間が存在しようとは。
明るい感じなのがさらに恐怖をそそる。
「とにかく、わしは弟子を取る気などない。そも、この学び舎で剣を握る気もない。輝ける未来に、わしの出る幕などないのじゃ」
「兄貴!」
「あと、わしは金で何でも解決しようとするやり方は好かん。しかも、それはぬしが稼いだものではあるまい。その生き方ゆえにくだらぬ噂を流されるのだ」
「……っ」
「見返したくば改めよ。戦士の価値は力じゃ。金ではない」
少しは懲りろ、と思いながらアハトは立ち上がり身を翻す。育ってきた環境が特殊なのだろうが、それでも皆と建前の上では公平な学び舎にいるのだ。
強過ぎる指摘ではないだろう、と立ち去ろうとしたら、
「……あ」
「……」
バッタリと鉢合う同期の特待生、魔族出身のクーであった。黒髪、黒目、背丈は小さく細身であるが案外頑丈なのは先日証明済み。
そう、
「アハト・オーテヤーデ」
(き、気まずいのぉ)
その証明がまずかった。一緒にライト救出に行こう、と約束しての土壇場での反故、アハトは端からそのつもりであったのだが、相手からすれば裏切られたも同然。それ以来、顔を合わせる度に睨まれることになっていた。
仕方ないが毎日これなので気が滅入ってしまう。
「よくも、よくも……許さないぞ」
(なんじゃ、今朝よりも悪化しとらんか?)
プルプル震えながら、クーは内ポケットから一通の手紙を出す。
「今日、姉様から手紙が届いた。貴様が告げ口したせいで、全部バレた!」
「な、何をじゃ?」
「しらばっくれるな! 僕を気絶させたことを先生に言っただろ⁉ 僕は、僕は人間に不覚を取ったことが恥ずかしくて、眠気に耐えられなかったって言ったのに」
「そ、そんなバレバレの嘘をついたんか? さすがにそれは通らんじゃろ?」
「通したの!」
「……たぶん、突っ込む気にもならんかっただけじゃろ」
顔を真っ赤にし、頬をぷくぷく(アハトが好きな魚。村でもよく釣れる。触ると膨らむ)の如く膨らませ、アハトをギラギラと睨みつける様は、普段クールの割におこちゃまであった。たぶん、こっちが素であろう。
「お母様の耳に入った。お叱りの言葉も、添えられていた。全部貴様のせいだ! 人間の方が早熟でも、七大貴族を継ぐ者が……んもー!」
「……ごめんの」
「謝っても許さない! 弁償しろ!」
「な、何をじゃ?」
「ぼ、僕の名誉だ!」
(どう弁償しろって言うんじゃ、それ)
現在進行形で醜態をさらしとるじゃろ、とアハトは呆れ果てる。地団太を踏み、感情を制御し切れないお子様魔族はぷんぷんと切れ散らかしていた。
そこに、
「おうおうおう、テメエどこの誰にそんなナマほざいてんだ、オオ!?」
「あ? 誰だよ、とさか人間」
己の常識は他者の非常識、とさか頭のライトが割り込んできた。
(……へ?)
なんでそうなるの、とアハトは目を丸くする。
「兄貴の一番弟子になる男、ライト・ゴールドだ」
「!?」
「ああ。雑魚しかいない洞窟で迷子になった雑魚人間か」
「ハッ、そりゃあ世を忍ぶ仮の話よ。俺と兄貴にはとんでもねえ冒険譚がある。中坊のおこちゃまにはちと刺激が強めのな」
「わしも中坊じゃ」
「兄貴は別腹っす!」
「あと、いつわしが一番弟子と――」
「とにかく!」
ライトがびしっとクーへ指をさす。
「兄貴への暴言は許せねえ。撤回しろ、チビ助!」
(あんまりわしと身長変わらんがのぉ)
「人間風情が不敬な。撤回などしない。僕の名を汚したアハトは許さない。そして、僕に喧嘩を売った貴様も許す気はない」
「ほう、やる気かよ?」
ライトは背負った槍を手に取り、構える。
「貴様こそ」
クーもまた腰より剣を抜き放つ。
「「……」」
一瞬の沈黙、そして同時に動き出し、挨拶代わりに剣と槍が衝突する。
そして、
(ッ⁉ これが中坊の剣か? 鋭くて重い。存外やりやがる!)
(こいつ……これがファリアスの、高等部か。思ったよりも出来る)
互いに力を推し量り、これは本気を出さねばと魔力を漲らされた瞬間、
「そこまでじゃアホたれィ!」
拳骨二閃、二人とも思考する前に意識が彼方へぶっ飛んで行った。
(最近の若造は血の気が多過ぎじゃあ。世も末じゃぞ、まったく)
きゅう、と地面に倒れ伏す二人。
これではあまりにも不憫、と言うかまた恨まれたり面倒になるだけなので、二人をよっこいしょ、と担ぎ上げて、
「人目のないとこ、どこじゃあ?」
どこぞへ運び去る。
その様相は誘拐犯のそれであったそうな。
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