昔の記憶
植木 苗
同窓会
俺の中学の同級生が立て続けに3人殺害された。犯人と噂されるのは、黒沼 剛。3人にいじめを受けていた被害者だ。
俺の3年時のクラスメイトでもある。しかも、今は行方不明らしい。
そんななか、数ヶ月前から開催予定だった同窓会が開かれようとしていた。
同級生が殺されたというのに、中止しないのかと驚きはあったが、気になる俺は予定通り出席することにした。
もしかして、黒沼まで来ないよな……?
「おお! 一ノ瀬じゃね?」
「おお〜久しぶり??」
誰だっけ? 何となく見たことはあるけど、名前がわからない……
「お前、俺のこと忘れたのか? 野崎だよ! もう受付した?」
「あぁ! 野崎! 受付はまだ」
「あっちに美穂がいるから出席取ってもらって」
「お、おう!」
野崎か……聞き覚えはあるけど、あいつあんなキャラだったか? あと、受付の美穂って誰? 女子を下の名前で呼ぶ人間じゃなかったから、マジでわからん。
俺が最後に同窓会に出席したのは成人式の日。だから、もう15年ぶりかぁ。顔だけではわからない奴も多いはずだ。
受付でもらった名札に名前を記入する。一応、これで同級生の名前は把握できるな。
名札に「一ノ瀬」と書いた俺は、とりあえず適当な席に座った。そこに見覚えのある顔が話しかけてくる。
「よう! 久しぶり」
「おぉ〜藤井!」
藤井は中学の同級生で唯一、今も交流がある。顔見知りに会えたことで、ホッとする。
「名札がないと誰が誰かわからんくらいに、みんな変わったな」
「一ノ瀬、それはお互い様だろ。俺もほとんど覚えてないけどな」
そこに、風間という名札をつけた男がやってくる。見た目がチャラいから思い出すのは簡単だ。
「久しぶりっ!」
「おお! もしかして、風間凌介?」
「そうだよ。覚えててくれたのか?」
「そりゃあ! お金持ちで実写版スネ……」
俺は言葉を止めた。多分、中学の時、こいつとはこういうノリはやっていないはず。いやぁ、関係性を思い出すのも簡単ではないようだ。
「ん? 一ノ瀬、お前何か言ったか?」
俺は話を遮るように、会場をキョロキョロ見回す佐藤という名札をつけた男に話しかける。
「おい! お前、佐藤か!」
正直全く覚えていないが、とりあえず風間をスルーするにはこれが最善だ。
「おお! 久しぶり……なのかな? ごめん。正直覚えてなくって」
大丈夫。俺も覚えていない。でも、佐藤という男子がいたことは確かだ。
「そういえば、佐藤って成人式の同窓会、来てたっけ?」
「いや。行ってないな」
「それじゃ、中学卒業以来か。もう20年も会ってないんだから、そりゃ覚えてないよ」
「僕、アルバムもなくしちゃって。ちゃんと復習してこれば良かったよ」
一同で笑った。確かに、俺もそうして来れば良かったな……そこに、深瀬という名札をつけた男も入ってくる。
「みんな久しぶり!」
「おおお〜!」
だれぇ〜?俺は藤井に目配せする。藤井も覚えていませんという表情だ。
深瀬は空気を読んで自己紹介を始めた。こういうのは助かる。
「深瀬晃司だよ。西公園の近くに住んでた」
ああ〜そういえば、そんな奴いたなぁ。
「みんな変わったな!」と風間はその場の雰囲気を取り繕うように言った。いや。本当にそうだ。何となく面影がある奴もいれば、全くない奴もいる。
かっこよくなった奴、可愛くなった奴、反対に太った奴、禿げた奴。
とりあえず、この5人で俺が座るテーブルは埋まった。まだ開始時間まで少しあるけど、俺たちはすでに用意されたオードブルに手をつけていた。
昔話に花を咲かせるために、とりあえずの話題を考えていると、風間が率先して話題を振った。
「みんな、今は何してるの?」
え! 今の話するの? 今の話をすると、マウントの取り合いみたいになるから、適当に昔話をしておきたかったのに。そこで口を開いたのは、藤井だった。
「俺は新卒から寝具メーカーで働いてるんだ。睡眠は大事だぞ」
藤井は昔からスポーツマンで、体のことをよく考えていたからな。そういう会社に勤めていてもおかしくない。というか、俺は知っていたんだけど。
「へぇ〜いいじゃん。なんて名前の会社?」と風間は社名まで聞き出した。
「老舗の東川だけど。野球選手の小谷翔也がCMしてる会社だよ」
「おお、結構大きい会社じゃん! 俺の会社に商品のパンフレット置いてもいいぞ。社員には睡眠を大事にしてほしいからさぁ」
俺は何となく、嫌な予感がした。
「ん? 社員って、どういう意味だ?」と藤井が聞くと、風間はニヤリと右の口角を上げて得意げに話し始めた。
「俺、経営者なんだ。まぁ親父が不動産業やってたって知ってるよね? 俺が継いでからその会社、PRにも力入れてて〜見てみろよ! フォロワー10万人。もはやインフルエンサーよ」
風間はスマホをチラつかせる。あぁ、今日はこういう会話をしに来たんじゃないんだよ。昔話を、誰か話題を変えてくれ〜と思っていると、深瀬が風間を制止するように話を始めた。
「あのさ。今日はせっかくの同窓会なんだから、昔話でもしない?」
ありがとう。深瀬。中学時代の君のことは覚えていないけど、今日の君の記憶は残り続けるだろう。俺はすぐに応戦する。
「そうそう! 昔話、しようぜ!」
藤井も「そうだそうだ」と俺に合わせる。風間は不満そうな顔をしたが、まぁ仕方ないなと納得したようだ。
佐藤は……相変わらず周りをキョロキョロと見回している。初恋の相手でも探しているのか?
またも風間がみんなを驚かせる話題をぶっ込んできた。
「昔話って言ったら……黒沼のことだろ?」
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