第15話 ……なんか、最近は――

「――いやー聞いてよ優月ゆづき。昨日、練習試合だったんだけど……もう、ほんとミスの連発。チームにめっちゃ迷惑かけちゃって……これじゃ、せっかく取ったスタメンも剥奪かなぁ」

「……そ、そっか……いや、でもほらそんな日もあるって! 大丈夫、そのくらいでスタメン外されたりしないよ!」

「……うん、ありがと優月」



 それから、一週間ほど経て。

 すっかり空が朱に染まる頃、テーブルに凭れガッカリした様子でそう口にする親友、美波みなみ。それでも、悲壮感とはまた違う明るさが窺えるのは流石だと思う。


 さて、私達がいるのは以前一緒に行ったあの路地裏のカフェ。今回も彼女から呼ばれたのだけど、どうやら気に入ったみたいでまたここにしようと。私も気に入っていたので、もちろん異存などなく。きっと、私達二人にとって今後定番になるのだろう。



 ところで、今日も以前みたく美波の部活後にこうして会っているわけで。流れや内容も前回とほぼ同じ――数十分前、話したいことがあるとの連絡があって。尤も、以前と違い少し逡巡したものの、最終的には承諾の意を示した。


 ともあれ――昨日の試合の話から始まり、最近の驚いた出来事の話など種々の話題に暫く花を咲かせる私達。やっぱり、美波と話すのは楽しいなと改めて思う。自分自身、あまり話せるタイプではないけど、美波となら何時間でも――



「……それでさ、優月。何か、余計なこと言った? りょうに」



 楽しい会話の最中さなか、ふと切り出された美波の問いに口を結ぶ。……余計な、こと。些か漠然とした問いに、ひとまず口を開き――


「……佐伯さえきくんが、そう言ったの?」

「ううん、陵は何も。そもそも、ここ最近あまり話自体できてないし」


 そう尋ねると、首を横に振り答える美波。……まあ、そりゃそうだよね。余計なこと、というのは間違いなくあの件――私が彼に美波を推した、あの件のことだろうけど……口止めなどせずとも、彼が自主的に伝えるとは思えない。だとしたら、やはり――


「……でも、その返答……本当、だったんだね」

「……それは」


 すると、そんな思考を遮るようにじっと私のを見て告げる美波。今まで一度として覚えのない、ありありと憎悪の籠もった瞳で。そんな彼女を前に、改めて自身の愚かさを思い知り……はぁ、何してんだろ、私。





「…………はぁ」



 それから、数日経た宵の頃。

 住宅街の閑散とした一本道を、溜め息と共に歩いていく。今日は、月に一度の激安タイムセールの日。というわけで、例により先生と一緒にの大型スーパーへと赴いたわけなのだけど――



『……ごめん、先生。その……今日も、先に帰っててもらって良いかな? 少し、寄る所があって……』

『……えっ?』


 帰り道、ふとそんなことを告げた私。すると、あからさまに困惑を浮かべていたが、ややあって淡く微笑み応じる先生。……うん、流石に不審だったかな。




『――ごめん、優月。こっちから協力を頼んでおいて、すっごい身勝手なのは分かってるけど――少し、優月と距離を置いても良いかな?』


 数日前、美波から告げられた言葉。……別に、身勝手なんかじゃない。彼女の言う協力が、じゃないことくらい分からないはずなかったのに。


「……はぁ」


 ……なんか、最近は溜め息ばっかり。まあ、自分のせいなので文句も言え――



「――――っ!!」


 刹那、思考が止まる。何故なら――卒然、後方から底知れぬ憎悪が一直線にこちらへ猛進してきたから。パッと振り返ると、既に憎悪は目と鼻の先……そして――



 ――――グサッ。



「…………え?」




 

 




 


 

 

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