第3話: 仮面の男
「こほこほっ!こほっ!こーーーほっ!」
深夜にて、おじちゃんの部屋から止まない咳き込みが聞こえてきて、心配になった俺はすぐにおじちゃんの部屋へと駆け出して行った。
「おじちゃん、大丈夫かー!?」
ーーー!?
半身になってベッドから身体を起こしたおじちゃんの身体中の皮膚を見てみると、どの箇所を見ても赤黒く腫れあがった痣があり、そこから血が微弱ながら絶えずに漏れ出てくる。
昔に医者さんから聞いたことのある【ケクル病】の最終症状だーーー!くそ!余命はまだ4年間残ってるはずなのに!一体どうして!?
「こほっ!こおーーーーーほっ!!!あぁ…オケウェーかぁ...。もう心配すーこほこほっ!する必要はぁ……ねぇ...だって、これかーこほっ!お前に迷惑をかけーこほっ!必要もなくーっ!逝けるのだからなーーこっほっ~!」
「そんなこと言わないで下さいよーー!おじちゃん!俺は何とか治療方法を見つけてくるから、今すぐー」
慌てておじちゃんの命を助けようとして、すぐに家を飛び出して未だに行ったことのないオールグリン王国へお医者さんを独りだけで連れてこようとしたら、
「いいえ、それには及ばばい」
「えー!?」
声のした部屋のドアへと向き直ると、
「夜分遅くに失礼するよ、ガランクレッド家の諸君!」
そこには顔の上半だけを隠した謎の仮面を被った男がいる。
仮面には奇妙な赤色の縞が二つ斜め下で走っていて、なんと微妙な感じのする格好だ。
「だー誰だあんた!許可もなく人の家に入ってくるなんて、泥棒甚だしいにも程があるぞー!」
思わずそう叫んだ俺だった。
彼は闇のように真っ黒いコートを羽織っていて、不気味さも感じさせるような姿をしているようだ。男は静かに微笑みながら、俺達に向かってまたも声を発した、
「我はゼナテス・アールグモンドリアという者だ。ガランクレッド殿を救命したく訪問させてもらった者だよ」
きっぱりとそう言い放った彼は、胡散臭い雰囲気を出しながらも絶えずに微笑を浮かべるばかりだった。
...............
「どれどれ……」
おじちゃんを救う方法があると言ったので、一応信じてみることにした俺達が彼を部屋の中に招き入れた。おじちゃんの容体を確かめてもらうためにベッドの近くまで接近を許した。
「こほっ!こーほっ!悪いな、こんな年寄りのためにわざわざ診にきーこほっ!」
「静かにしてくれたまえ、ガランクレッド殿。安静にしないと身体に響くのでな」
そう軽く諭したゼナテスという仮面の男の助言に、はいと頷いて本当に押し黙ってしまうおじちゃん。
「ふむふむ……なるほどな」
「え?見るだけで何か分かったの?」
「ええ。これを一個だけ彼に呑ませてくれたまえ。そうすれば症状が収まり、2年後までも持つはずさあ」
そう告げた彼は俺に一つの小箱を手渡し、透明なその中身を上から見てみれば、何個かの錠剤が入っていることを確認できた。
「これ、本当に効くかな?後、危険な成分とか……えっと、ドラッグの類ではないよな?」
「神に誓って身体に安全なものだよ。むしろ妙薬ってぐらい思ってくれて差し支えはないさぁー」
にっこりと三日月状に満面な笑みを浮かべる彼は更に胡散臭さ感が増して、こちらまで警戒せざるを得ない程の得体のしれないものに見えている。でも、おじちゃんのためだと自分に言い聞かせて彼の言う通りに錠剤を呑ませてみた。
「ごーくつ!」
「これ、水よ。飲んで、じいちゃん!」
「ありがとう」
結局のませてしまった。
この選択は本当に間違ってないかと不安に思ったりもしたけど、時間が時間なだけにそうしなくてはという焦燥感もあった。
少なくとも、何もしなくて半月も経たないうちに死なれるよりかはマシだろう。
そう博打をせざるを得ない程、今の俺は他におじちゃんの容体の悪化を食い止める方法がなかったんだ。
…………
「ふ~~。す~はっ。す~はっ……………」
数分も経たぬうちに、せき込みをまったく発しなくなったおじちゃんは眠気でも覚えたかとあくびをしたら、次は本当に寝落ちしていくみたいにベッドに横になった途端、気持ちの良さそうな息をとりながら深い眠りに落ちた様子だ。
「お~お!」
よくおじちゃんの身体を見てみれば、どうやらさっきから出血が止まない痣のすべてもなにかの働きかけにより、徐々に小さくなり消えつつあるようだ。
「こ、これはーー!」
「ほら、説明した通りに、症状が収まって2年後までも持つはずだとー」
「お、あんた!一体何者だ?なんでそんな奇跡的な薬をこんな無償でー」
「聞いてくれたまえ、オケウェーよ!」
俺が聞こうとしていたことを遮ったゼナテスなのだが、って俺の名をー!?
「!?どうして俺の名前をー」
「些細なことは後でな。今はただ我の言葉に耳を傾けるが良いぞ、記憶消失の少年よ」
こ、こいつ!何から何まで俺達のことを知ってやがるな!
「【ケクル病】というのは、南大陸に住む者のみに発生する病気であるということは知っているのだな?発症が確認できる最初の症状は左胸に大きくて無害な赤色の文様が浮かび上がるもので」
「ええ、そればかりは既におじちゃんから聞いたことがあるんだけど?」
なんでも、この世界において【ケクル病】を患うことになる可能性があるのは、この南大陸であるフェクモに住んでいる住民だけだと聞いたことがある。そして、どういう原因で患うことになるか、研究がたくさん積まれてきても一向に解明されることはないままで。
「そして、それを患うことになる患者は寿命が縮んで、発症してから8年か10年後に大量な痣を身体中に発生させ、大量出血で死ぬことになると、聞いたこともあるのだな?」
「当然だ。患っている本人と診にきた医者さんが教えてくれたのだからな」
「でも、まだ余命が4年間も残っているはず。なぜ今でも最終段階に入っているのか、疑問に思わないのかい?」
「それは……」
そう言われると確かに変だなと思う。なんでなん……はっ!?もしかしてー?
「どうやら心当たりがあるのだな、記憶消失少年よ」
「ああ……ま、まさか...」
でも、【死霊魔術】使いになってからの影響でおじちゃんの余命がもっと縮んできたとか、言えるわけないじゃんー!
だって、【死霊魔術】は忌避扱いの禁じられた魔術で、使える者がいると発覚した場合、重罪扱いになり処刑されるのだと、どこの国にいても同じような適用される一般的な法律だとおじちゃんがー
「その通りだぞ、記憶消失ボイー!君は【死霊魔術使い】であり、日常生活において毎日ガランクレッド殿とひとつ屋根の下で過ごしてきた。で、君の鼻と口から吐き出されている【死の吐息】の総量が極小でありながらもガランクレッド殿の患っている【ケクル病】とあまりにも相性が悪くて、悪化させてしまった原因とも言えようー!」
「なーーーー!?」
一体何だってんだ、こいつ!
俺のもっとも隠したかった秘密をああも堂々と見破っているとでもいうのかぁ!?
くーっ!これで終わりかぁー。俺の人生………
そして、おじちゃんのことも………
最後までお役に立てないで、罰されて殺されるだなんて………
絶対に嫌だ!
「あんたが何を言っているのかまったく見当がつかないんだが…」
悪あがきでもしよう、最後まで。
最後の瞬間まで白を切ろうとする俺へ、
「ははは!安心してくれたまえ、記憶喪失ボイーのオケウェーよ。別に取って食ったりしないから安心してくれたっていいじゃないかい?」
「どういうつもりだ?」
「我からの提案は簡単なものなのさあー。君はおじちゃんのことを助けたいのだろう?いくら我のくれてやった妙薬、【ミラクル・ピール】で最終段階の症状を2年間後で先送りにできたとはいえ、最終的には2年間後もすれば、君のガランクレッド殿は【ミラクル・ピール】をまたも呑もうが呑まなかろうが、最後の最後まで運命を覆すことは出来まいー!」
「だから一体何が言いたいのかって聞いてるんだよーー!助からないならどうしろってんだよー!」
思わず声を荒げた俺に、
「我の提案は至って簡単なものなのさあー。【ミラクル・ピール】をずっと服用させていっても最後までガランクレッド殿を助けることは出来ないと断言できるが、それ以外の方法なら彼を救えることだけは言い切れるよ?それも『かもしれない』と済まされるようなものではなく、『絶対に』だ」
「も、勿体ぶらずに早くその方法ってもんを教えてみろよー!ただでさえ胡散臭い恰好して素顔を見せようとしないくせに、いつもに増して詐欺師っぽく聞こえるようなこと口走ってんじゃないぞ、あんた!」
複雑な気持ちと混乱した心情になっている俺はこんな風に荒ぶることしかできずにいる。
無様に映るかもしれないんだけど、こうする事しかこの訳の分からん状況に動揺している俺が自分自身を落ち着けられないんだ。
「まあ、焦ってる必要はないよ、記憶喪失ボイー。別に君を誰かの正義ぶる連中に引き渡したりはしないし、君が死霊魔術使いであるという事実も別に何とも思わん。何故なら、我にとっては君の力が如何なるものであろうと知ったことではないからだ。せかしてきてるようなので今すぐ言うのだが、君の育てのおじさんガランクレッド殿を救う方法はただ一つだ。それはー」
これから、ゼナテスの口から出された言葉は今度、俺と数多くの人達の運命を大きく変えるようなものになるとは、今はまだ知る由がなかったが……彼が言おうとすることは、
「北大陸ギャラールホルーツの【聖エレオノール精霊術学院】に通ってくれたまえ。そこで精霊と契約し、それで習得した【精霊魔術】を頂点まで極め、それと君が得意としている持ち前の【死霊魔術】と融合した【新型の治療魔術】を発明してくれたまえ。そうするしか、君にガランクレッド殿を救える方法がないと言えよう!」
……………
どうやら、これから俺を待っていたのは、とてつもない試練と冒険の組み合わせのものであると、この時点にいる俺でさえ予感することも出来よう、うん。
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