異世界転生記 Lˈʌv

石田 アマノ

マックス、始動

第1話

「よし、ちゃんと有るな」


 マックスは約束が守られていたことにほっとしていた。

 異世界に転生して、まずやることと言えば状況の確認だろう。

 転生を持ち掛けてきたのは、神の如きもの。彼の印象は誰が見たところで変わらないだろう。

 胡散臭い。

 この評価はやむを得ないと思われた。

 声も話し方も態度も、実に胡散臭かったのである。

 それを完全に信用するなど流石に出来ない。

 信用や信頼とは、実績があって抱ける感情だからである。

 だからこそ約束が履行されているのか、チェックする必要があった。


「神の如きものさんもやるじゃないか」

 

 とりあえず、技術を育てるためのリソースと現地の通貨はあった。

 皮類、鉱石類に金属インゴット各種。

 魔道具作りに必要な素材。

 大小さまざまな宝石類と、その原石。

 錬金用の薬草類や作り置きのポーション類。

 干し肉を中心にした食料などが多数。

 そして馬鹿まるだしなものから、恰好良いものや、前世世界基準の下着や、おしゃれな衣服などの装備品、それらのレシピ。

 便利な道具に魔法。

 現地通貨となる金銀銅の硬貨。ざっくりと大金貨五万枚、小金貨二十万枚と銀貨五千枚。

 マックス自身も良くもこれだけ、頑張って貯めたものだと感心せざるを得ない。



「一部、アイテムは無くなってるな。流石にチート過ぎたか」


 超強化された装備やアイテムは、明らかにチートと呼べるようなものになる。


 ソロプレイのゲーム内なら、そんなものがっても良いが、ここは現実に様々な人々が苦労し切磋琢磨して生きているのだ。


「強化しすぎたか。リソース突っ込んだとはいえ仕方ないか…」


 店売りの装備品が攻撃力二十程度なのに、二千超とかになっていた。

 無くなっていて当たり前であろう。

 まぁまた作ればいいんだ作ればな!

 なんて思うマックスである。


「あ、ユニークの装備と魔法もない。クエストアイテムと報酬アイテムも無い、のは仕方ねえ」


 これもまぁ当然と言えば当然だろう。

 クエストが始まってもいないのに、クエストアイテムや、その報酬品を持ってるはずもない。

 世界中で限られた数しかないはずの、ユニーク装備とユニーク魔法も、転生者とは言えマックスが持っていては世界に矛盾が生じかねない。

 正直、ユニーク装備よりも、採掘系と生産系スキルを鍛えまくり、地球の知識を導入して生産・強化された装備のほうが、最終的な性能は上なことが多いのである。

 それに自分のキャラクタースキルやスタイルに合わせられるので、行きつくところまで行きつくと、ユニーク装備はトロフィー代わりに箪笥たんすの肥やしとなる。

 しかし、ユニーク装備の中には、世界に一つレベルの固有効果が付いているものが在るので、それらは他のスキルや魔法と同じく回収が必要である。


 とは言え、やはりゲームのセーブデータから引っこ抜いて、こちらの世界で再現してもらえたのは大きい。

 

 ユニーク類の回収という予定の変更が必要ではあるが、これで神の如きものさんからの依頼と言うか、お願いされた転生者たちの保護、に関しては手元資金を気にせず取り掛かることができるだろう。

 まぁ放っておけば、確実に死ぬか、性的な意味で酷い目に合うか、奴隷にでもなるのが目に見えているので、やれる分にはやるつもりであった。

 当然、手の届く範囲内で、だ。

 こちらも他に大事な目的があるため、一時的に保護するだけだ。

 小金貨百枚分の資金をれてやって、好きに生きさせるつもりである。

 流石にあれこれと、口や手を出すつもりはない。

 今のところは。


 でも、しかし、であるが、万が一、いや、万が一だが、転生者たちの中に、滅茶苦茶好みの女の子がいたりしたら手を出してしまうかもしれない。

 もちろん性的な意味で。

 マックスも健康有良男子であれば、そういうこともあろう。

 前世の年齢がどうであれ、今はギンギンパンパンの十六歳である。

 ナニがギンギンでパンパンなのかは考えてはいけない。いいね?


 とは言え、今回の転生目的は前世で為し得なかった事、イチ押しだった女性キャラの運命を捻じ曲げることである。

 それが無けりゃ転生なんかしていないのだ。

 だから借金漬けにして言うことを聞かせるとか、援助を口実に体を求めるとかそんなことはしない。しないはずである、多分。

 だって、男の子だもん。わかって? ってなものである。


「いや、ねーよ。しねーよ。しないって。ま、ちょっと覚悟はしておけっ、てくらいか…」


 この世界、ゲームの世界と言えばそうなのだが実は逆だった。

 現実の異世界を、ゲームの機能を持ったシミュレーターで、プレイヤーが世界に干渉した場合の結果を体験させる、ゲームのようなもの。だったらしい。

 胡散臭い、神の如きものさんの言葉を借りれば、だが。

  

 なるほど、わからん。 だとか、分からないことが分かった、と言いたくなるかもしれないが、要するにここは現実ではある。

 同じ世界観であれば、ゲームの中と同じようなことが、当たり前に起こりうるということでもあるわけだ。


 そしてこの世界は、アテスターという名のオープンワールドリアル3DアクションR18+ゲーム世界の現実版だったのである。

 細かく書くとキリがないが、モラルが崩壊しかかっている世界であった。

 なぜか女性の普段着や装備品の露出度が高い、R18+レーティングの世界となればだ、あれとかこれとか、あんなことやそんなことが当たり前のように起こりうる。

 え!? そんなことまで!? マジで!?(ドン引き)なんてことも起こりうるし、出来る。

 そう、出来ちゃうのである。

 ちなみに、ゲームの時は起こっていたし、出来ていた。


 外道や、クソ野郎大歓喜の世界である。

 ベートーヴェンの交響曲第九番をバックミュージックにして、だ。


 そんなわけで、二年後、やりたい盛りの十八歳健康男子のイライラ棒が、十五歳とは言え、露出度高めの魅力的な女性を見て我慢できるのか? ということなのであった。

 やらざるを得ないような事情があれば、情事にはしってしまう自信はちょっとはあった。

 いや、自信なんて持つなよ、頑張れよお前、と言いたい。


 我慢はする。我慢はするが出来るとは言えないし言わないのである。 むしろ、我慢したくないまである。

 サイテーである。


「タチの悪い媚薬なんかの犠牲者でもいない限り大丈夫だと思うけど」


 大体、推し彼女がそんな下衆ゲスを認めてくれるだろうか、と考えれば無理な話だ。

 推し彼女は育ちの良い、おしとやかな、武家の娘という風情ではあったが、内面はどう考えても、武門の娘に相応しい気性も持ち合わせている。

 うん、これは駄目な奴ですね。としか思えないので頑張って我慢するしかあるまい。

 とてもつらい。


 それは置いておいて、今いるのはゲームでは割と使った拠点で、必要な設備は一通り揃っている。

 生産に必要な炉と研磨機、旋盤、ボール盤、皮の鞣しに必要な設備等は既にある。

 時代背景に合わない機械類もあるが、これは頑張ってゲーム内の精密クラフトメニューで作っておいたものだった。


 この拠点は木炭の材料になる木も、大量に得られる森の中にある。

 弓矢とクロスボウの矢クロスボウボルトも、威力のあるもの(貫通矢とか貫通焼夷矢とか)は、少なからず自作するため実に都合がいい。

 〈鍛冶〉で鏃の原型を作り、〈工作〉で工作機械を使って鏃の生産を加速、〈弓矢制作〉で矢とボルトを作れば、両方のスキル熟練度と肉体レベル経験値を得られるのだから。

 

 マックスはウィジェットを弄り、現在の時刻と生命力バイタル魔力マナ、スタミナの各ゲージを表示させる。

 現実の異世界でありながら、ゲームと同じ感覚で情報が表示されるのは、これも実に有難いものであろう。


 一年三百六十日。一ヵ月が三十日で十二ヵ月。一日二十四時間。

 そして恐らく、一Gの重力。

 これは、この世界が地球とほぼ同じ大きさ、公転周期と自転周期で存在しているということだろう。

 とは言え、恒星の質量によっては違うのだろうと予測はしていた。

 ただ、月の大きさ、つまり見かけの大きさは、地球の月よりも大きくえる。

 地球の月よりも大きいか、軌道が近いか、その両方かは知らないが、潮の満ち引きは大きそうだ。波も高いだろう。


 海沿いに拠点を構える場合は、港の桟橋さんばしは浮き桟橋にしないと駄目だ。そして、桟橋と陸とは吊り橋で繋ぐ必要がある。

 海沿い拠点の構想自体はマックスも持っている。

 ゲームの時には、とんでもない労力と時間が掛かったため今回は作らないだろう。

 もっとも、転生者たちを隔離保護する場所としてはありかもしれないな、とは思っている。

 トーザント大森林なら他国の干渉も撥ね退けやすいし自治権を持つにも都合が良さそうである。

 その場合、小国家か独立領としてヴェネフィラー帝国に所属することになりそうだが。

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