第5話 タイムリミット


 俺が魔王として覚醒したのは、つい昨日の事だ。



 それまでの俺は、人畜無害な『冴えない男子』だった。


 女に対して、強引に迫るなど──

 天地がひっくり返っても、するような奴ではない……。

  

 瑠美の奴が、俺に対して、こうも無防備になったのも無理はない。



 そのくらい俺は、女を性的な目で見たり、アプローチすることが無かった。



 自分で言うのも情けない話だが、冴えない俺は──

 女に積極的に迫り、気持ちをぶつけて、相手から拒否されるのを恐れていたのだ。



 女から見れば、さぞ安全な生き物だったことだろう。


 だがそれは、『昨日』までのこと……。


 ────今は違う。

 



 そう──


 今の俺は、魔王として覚醒している。

 まだ封印は完全に解かれておらず、扱える力は微々たるものだが、意識はこうして目覚めている。




 ────覚醒のきっかけは、キスだった。


 俺は女とキスすることで、その対象を自分の『眷族』にすることが出来る。


 眷族が出来たことで封印が弱まり、力の解放に成功した。


 

 悪魔として覚醒していた『リリス』が、手紙で俺を呼び出して、自ら眷族となる事で、俺に施されていた封印にヒビを入れたのだ。



 そして、力を少しだけ、扱えるようになった。


 ……でも、少しじゃダメだ。


 

 俺はこれから封印を完全に破壊し、魔王としての力を解放しなけばならない。



 それが出来なければ──

 封印されている魔王の力が行き場を失い、体内で暴走して、耐えきれずに、俺は死んでしまう。


 この忌々しい封印は、魔王が現世に顕現するのを防ぐために施されている。




 封印で力を押さえられた俺は、『冴えない男』になっていた。


 女とキスすることなく、早死にするように……。



 下手に攻撃すると、一気に覚醒してしまう恐れがあるので、自滅させようという訳だ。





 ────厄介な上に、意地の悪い仕掛けだ。


 だが、封印に綻びが出来た。




 

 封印を解く方法は、とにかく『眷族』を増やすしかない……。



 俺の身体が持つのは、恐らく、あと一年────


 一年以内に封印を破壊できるだけの眷族を従え、魔王として完全復活しならなければいけない。



 それがこの俺、池野面太が背負った宿命だ。





 ……という訳で、早速──

 目の前の幼馴染を、俺の『眷族』にしよう。




 ピピピピピッ──── ピピピピピッ──── ピピピピピッ────


 目覚ましが、部屋に響いた。


 間が悪い……。



 これから、大事な話があるってのに────



 俺は目覚ましを止める為に、抱きしめていた瑠美から手を放す。


 すると瑠美は────


「じゃ……、じゃあ、ちゃんと起こしたからね。……朝食はリビングに置いてあるから、勝手に食べて、────私は、もう行くから」


 この部屋から、出て行こうとする。



 この俺が抱きしめてやったのに、逃げる……だと?


 ────何故だ?


 意味が解らん……。



 まだ完全に、封印が解けていないからか……?

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