11.

大河のことを覗き込むように見ながら、そう言ってあげた。

その間、大河はこちらを一瞥することなく、ガラスの方を睨みつけるようにじっと見ていた。

やはり、母親の前ではカッコイイと思われたいのか、意地でもその上に足を踏み入れようと葛藤しているのか。


どうしたものかと思わず伶介と顔を合わせていた時、不意に手を離した。

姫宮と繋いでいたその手を、今度は空いていた伶介の手に自ら繋いだ。

その急な行動に伶介までも驚いていたが、何かを察したように「むりしなくていいよ」と声を掛けた。


「たーちゃんがこのうえにのりたいなら、きょうりょくしてあげるね」


やはり顔を見ようとせず下を見ている大河を、されどにっこりと笑いかけていた。


「まずは、みぎあしからね。さきだけでもいいから、さわって。ちょんって」


こうやってやるんだよと、伶介は自身の足先をガラスに触れた。

一拍置いた後、大河は触れるか触れまいかと上下に動かした後、引き気味でありながらも触れた。

が、本当に「ちょん」と触れた程度ですぐに引っ込めてしまった。


「たーちゃん、すごい! がらすにふれられたね!」


それでも伶介がこれでもかと褒めちぎってくれたものだから、最初のうちは驚いて目を丸くしていた様子の大河であったが、褒められて気を良くしたのか、すぐに足先だけ何度も触れていた。


「お手て繋いで、足先でちょんちょんしているの可愛いですね⋯⋯」

「⋯⋯あ、はい。そうですね」


いつの間にか隣に同じようにしゃがんでいた玲美が、「可愛い」と呟きながら携帯端末で連写していた。

その時になって、貴重な瞬間を逃していたことに気づいた姫宮は、慌ててポケットから取り出し、携帯端末を構えた。

その少しの間に大河は慣れてきたようで、足先で触れていた右足がガラスの上に乗っていた。

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