第20話
レジーナの元に向かう2人は戦場の激しさを物語る光景を目の当たりにしていた。
おびただしい数の魔獣の死体が平原に広がっている。
「これ、全部レジーナがやったのか」
「正確に言えばレジーナ様とケルベルステック騎士団だ」
レジーナに近づくにつれて魔獣の死体の数は増していく。
その中には騎士の死体も混ざっている。
ボロボロになった軍旗が風に吹かれてなびいていた。
「まさか、負けたわけじゃないよな」
「聞こえないのか?まだ、戦闘状態だ」
平原の何処かで戦っている音が聞こえている。
少し進んでいくと騎士団のテントが見えてきた。
「良かった。おーい!!」
ケインは騎士団に向けて手を振った。
騎士達が現れて馬に乗った2人を心良く引き入れる。
「レジーナは一緒じゃないのか?」
「魔獣はあらかた倒した為、我々に待機を命じられた。レジーナ殿は残った天使を倒しに向かわれた」
「なるほど、天使を倒せる者だけで向かったわけか」
騎士は積み上がった魔獣の死体の山を指差す。
「死体の山を辿ればレジーナ殿に会えるだろう。すぐそこだ」
2人は騎士に礼を言うと死体の山を辿り、レジーナの元へと急ぐ。
「騎士の話ではレイファン様と魔導騎士が一緒に向かったらしい」
「レイファンって未来予知できる魔法使いだろ。もしかしたら終わってるんじゃないのか」
幾つもある死体の山を見ながらケインは期待を込めてそう言った。
「気を引き締めろ。何が起こるか分からないぞ」
しかし、女騎士の表情も和やかになっている。
魔法使いが2人いると言う事実に絶対的な信頼を寄せているように見えた。
その時、死体の山が勢いよく崩れる。
「危ない!!」
馬の手綱を引き寄せて女騎士は急停止をした。
目の前で魔獣の死体が転がる中を2人は呆然と眺めていると見知った顔が現れる。
「レジーナ様!?」
崩れた死体の山からレジーナが姿を現した。ボロボロの姿でレジーナは死体から這い出す。
「2人共、何故ここに!?」
「レジーナ様が心配で来たんです」
女騎士とケインは馬から降りると彼女の元へと駆けつける。
2人はレジーナに被さっていた死体をかき分けて彼女を救出した。
死体の山から抜け出したレジーナは周りに防御結界を張る。
「思ったよりかなりの強敵でね。リチャード殿が負傷したのにも納得がいくよ」
「そんなに強いのか。魔法使いが2人もいるんだろ」
「レイファンは亡くなったよ」
レジーナの表情が曇る。
「レイファンは真っ先に狙われてね。それが彼女の弱点だったんだよ」
「弱点?どう言う事だ?」
「彼女は自分自身の未来を予知できなかったんだ」
その時、近くの死体の山を貫き、鋭利な刃物がレジーナに向かってくる。
防御結界により刃物は彼女の目と鼻の先で止まった。
その刃物はよく見ると白い羽根である。
目の前の死体の山が吹き飛び、1体の天使が姿を現した。
ケインはその天使がゲルナリスであることに気が付く。
ゲルナリスは4枚の翼を持ち、人の姿をしている。翼の1枚が黒く染まっており、それ以外は真っ白であった。
「ゲルナリスの翼には気を付けて」
レジーナは風の玉をゲルナリスに向けて撃ち出した。
ゲルナリスは虫を払うかのように翼を一振りして風の玉を打ち消す。
その隙にケインは素早くゲルナリスの懐中に入り込んだ。
ゲルナリスは真っ直ぐとケインを見る。
「ケイン、よせ!!」
ケインは剣を勢いよく振るった。刃が風を切り、ゲルナリスの喉元に迫る。
しかし、ゲルナリスは翼で刃を受け止めた。
もう一方の翼をケインに向ける。
その時、ゲルナリスとケインの間に短剣が突き刺さり、女騎士が姿を現した。
「だから言ったろ!」
女騎士はケインに迫り来る翼を持っていた短剣で防いだ。
レジーナは風の刃をゲルナリスに放つ。
しかし、ゲルナリスは簡単に向かってくる風の刃を避けた。
「ダメか……」
その時、死体の山から矢が放たれ、ゲルナリスの頭に刺さった。
ケインは翼の力が弱まったのを感じる。
剣に力を入れて翼を跳ね除けるとゲルナリスの頭を一刀両断した。胴体から頭が落ち、地面に転がる。
「やったのか……」
ケインは矢が放たれた死体の山に視線を移した。
弓を携えた1人の女性が死体から這い出してくる。
「隠れて隙を伺っていたんだ」
女性は弓に矢をつがえてゲルナリスに近寄った。
「レイファン様の仇だ!」
女性はそう言うとゲルナリスの頭を蹴り飛ばす。
「彼女はレイファン殿の魔導騎士だよ」
「魔導騎士か、どんな魔装具なんだ?」
ケインは彼女の弓を指差して尋ねた。
「この矢で貫かれた者の予知ができるのよ。そしてこいつの未来はここで終わり」
レイファンの魔導騎士は再度、ゲルナリスの頭を蹴った。
レジーナはゲルナリスの死体を確認する。
「とにかく、これで当面の危機は去ったね。あとは残った魔獣を片付けるだけだ」
「片付けと言えば何個もある死体の山はどうするんだ?」
「騎士団と私達が片付けるんだよ」
その時、ゲルナリスの翼が光を放ち始める。
ケインは驚き、ゲルナリスの死体から距離を取った。
レジーナも予想外の状況に珍しく狼狽している。
「ま、まずい!復活するわ」
魔導騎士はゲルナリスの死体から距離を取る。
「どういうことだ!?倒したんだろ」
「ええ、でも未来が見えたの。ゲルナリスは蘇るわ」
ケインはリチャードの言葉を思い出した。彼はゲルナリスのことを不死身であると語っていた。
「レジーナ!こいつは不死身だ!!」
「ああ、リチャード殿の言っていたことは比喩ではなかったね」
辺り一面に眩い閃光が走る。
ケインは眩しくて目を開けていられなかった。
ゆっくりと目を開けるとそこにはゲルナリスが立っている。切断したはずの頭は元に戻り、無傷であった。
「ま、まずい。奴は私を攻撃してくる」
魔導騎士は青ざめると震える声で言った。
ゲルナリスは翼を振い、彼女に向けて羽根を飛ばす。
レジーナは急いで防御結界を張った。
しかし、急ごしらえで作った結界は脆く、簡単に突破される。
「ダメだ、予知ができない」
魔導騎士は切り裂かれて地面に倒れた。
ケインは急いで彼女に近寄る。
「おい、しっかりしろ!?」
「つ……翼……」
魔導騎士は最後の力を振り絞りゲルナリスの翼を指差した。翼の1枚が新たに黒く染まっている。
「翼がどうしたんだ?」
「……」
それ以上の言葉を発する事なく、魔導騎士の命は尽きた。
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