第40話

 むわっと暑い教室には誰もいなかった。エアコンのスイッチを入れるが、すぐには動き出さない。なんとなく自分の席に座ると、じわりと汗が浮いてきた。柚菜も自分の席、オレの後ろに座る。サンドイッチのお弁当を広げるのをなんとなく見ていると、ごわーっと派手な音を立ててエアコンが風を吐き出すようになった。

 柚菜は何を言うでもなくサンドイッチをつまんでいる。お昼を食べてから学校に来たオレは、何もすることがない。何のためにオレを連れてきたんだコイツ。仕方なく眺める窓の外には、アホほど晴れた空が広がっていた。

「合唱部、どうなの」

 黙っているのも気まずくて、結局オレから口を開いた。柚菜は目も合わせずにハムときゅうりのサンドイッチを齧っている。

「どうって、普通」

「そっか」

「ん」

 再び沈黙が訪れる。……いや何か言えよ。何もないはずないじゃんか。二ヶ月くらい休んでて、全部が今まで通りですなんてあるわけがない。こいつは妙なところで強情だ。自分から弱音を吐くなんてことは滅多にない。どうしたもんか。

「そっちこそ」

「ん?」

 目を合わせないまま、柚菜が口を開いた。たまごのサンドイッチに手が伸びる。

「凛音先輩とどうなの?」

「…………何が」

「ふーん」

 勝手に何かを納得して、柚菜がゆっくりサンドイッチを咀嚼する。さっきとは質の全く違った無言が重い。

 どう、と言われて答えられることがない。一緒に出掛けて「あの子」と出くわして博物館に行った後電車に乗ってたらセカイに入り込んでオレも契約しました。どこをどう取っても話せない。どう頑張っても何かをごまかすことになる。柚菜が水筒を傾けて飲んでいる時間が、ものすごくゆっくりに感じられる。せめて何か宿題持ってくればよかった。オレの気持ちに合わせてか、晴れていたはずの空が急激に曇っていく。どんどん暗くなる空から、ついにぽつぽつ雨が落ち始めた。

 いや、ちょっと待て?

 降り始めた雨はどんどん強くなり、窓の外は全く見通しが効かない。時々真っ白に光るのは雷のせいだろうけど、何の音もしない。これだけ土砂降りなのに、雨の音も、何も。ただ、エアコンが風を吐き出す音だけが、教室に響いている。

「何これ。すご」

 柚菜がサンドイッチを飲み込んで呟いた。立ち上がって窓に近付いても、雨が降っている以外何も見えない。グラウンドも、フェンスも、その向こうの家も。ポケットに突っ込んでいたスマホを取り出すと、案の定というか、そこには見慣れたマップが表示されていた。

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