第38話

 電車がかたたんこととんと通り過ぎていく。エスカレーターに群がる人が落ち着くと、静かなホームに残っているのはベンチに座るオレ達二人だけになった。線路を挟んでフェンスの向こうにはマンションの灯りが見える。蒸し暑い空気が風に押されてゆるゆる動いた。

「はー…………」

 長い溜め息が横から聞こえる。センパイは放心したように白っぽいホームの屋根を見上げていた。いつどう降りたのかは分からないけど、とりあえず地元の駅には着いたようだ。

 なんとなく両手を前に出し、ぐっぱっと動かしてみる。いつも通りの手。あのゴツくてトゲトゲの姿とはぜんぜん違う。そういえばメフィは、と見回したが、どこにも見当たらなかった。

──契約、してしまった。

 それ自体はまあ、自分で選んだことだ。センパイとこうして帰ってこれたんだから後悔はない。変身した後の格好も……まあ、やけに可愛らしかった気がするけどフリフリのドレスとかじゃなかったから良しとしよう。

「柊真はさあ」

 センパイが前屈みになって、両手で顎を支えている。そのまま独り言のように言葉が続いた。

「ずるいよね、ほんと」

「はい?」

「普段はさ、こんなに可愛いのに」

「はあ」

 唐突にディスられてどうしたもんかと思っていたら、センパイはぱっと立ち上がった。そのままぐいーっと大きく伸びをする。そうしてこちらを振り返った時には、もういつもの顔をしていた。

「帰ろ。ちょっと今日は色々ありすぎた」

「はい」

 色々ありすぎたのは実際そう。一日のイベント量としては特盛もいいところだ。エスカレーターを上り、改札を出たところでセンパイと別れた。

「また連絡するね。じゃ」

 ひらひら手を振るセンパイを見送って、オレも歩き出す。夜になっても、昼間の熱をじっとり吸い込んだ道路のせいですぐに汗が吹き出てくる。キャップを脱いでそれでぱたぱたあおぎながら、少し頭を落ち着かせる。

 最後に、こっちを見ていたアクイの顔。潰れて消えるその瞬間まで笑っていた。とても楽しそうに。

 そういえば、あいつが攻撃らしい攻撃をしてきたことって一度もなかった気がする。ただセンパイを待ってて、近付いて、手を伸ばすくらい。オレの攻撃は避けていたけど、センパイの振るう剣はそんなに避けていない、ような。

 負ければセカイに取り込まれ、その一部になる。メフィの言っていたこと。何かが繋がりそうで、うまく繋がらない。

じいい、とセミがどこかで鳴いている。七月が終わろうとしていた。

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