第25話

 斉藤センパイのマップ画面下には、大きく黒い花のマークが表示されている。センパイがそれをタップすると、ぶわっと舞い散った黒い花弁が辺りを包み込み、それが消える頃にはもはや見慣れたドレス姿になっていた。こんな感じで着替えて?変身して?たんだな……。

「……さて」

 センパイがすいすいマップをスワイプしていく。オレも自分のスマホを取り出してマップを開いた。見た感じ、この間の時と同じ。リアル学校のフルコピーだ。体育館……も、ある。そこだけぽっかり空白とか公園になってるとかではなさそうだ。アクイを示す赤い点も、今のところ無し。

「とりあえず、中に入ってみようか」

「はい」

 センパイに続いて靴箱の横を通り抜け、廊下に出る。灯りが全部消えて薄暗い校舎の中は、雨の音以外何も聞こえない。壁に貼ってあるポスターが原色盛り盛りで立体的になっているが、だいたいいつもの学校だ。マップ画面から顔を上げたセンパイが、ぐるりと左右を見回す。

「うーん、アクイはどこにいるんだか」

「マップには何も出てこないですね」

「前みたいにうろついてれば出てくるかな?どっか行きたいとこある?」

「いや、べつに」

 このヘンテコなセカイの中に行きたい場所は無い。むしろ早く帰りたい。センパイはもう慣れっこなのか、前回は一階しか見ていない校舎を探検する気満々だ。

「じゃ、図書室行ってみようか。きっと本も滅茶苦茶になってるよ」

「はあ」

 すたすた先を行くセンパイの後にくっついて階段を上り、図書室のある階に出た。誰もいないのと、所々色合いがおかしい以外は本当にいつもの学校だ。図書室の前には「図書室」と読めなくもない感じのピンク色のプレートがぶら下がっていた。

 扉を開けて中に入る。棚に並ぶ本が虹色のグラデーションになっているが、他はさっきまで居た図書室と変わらない。カウンターの内側にはパソコンが並んでいて、モニターには意味不明の表が映っていた。

 センパイが本棚から本を抜き出してパラパラめくる。オレもオレンジから黄色に移り変わるあたりの本を一冊抜き出してみた。文庫本サイズのそれのページには、大きく数字が書いてある。なんかこう、隅っこにあるはずのページ番号の自己主張が激しすぎて本文が無くなった感じだ。それに数字が逆に振ってある。ページをめくる毎に小さくなっていく数字を、なんとなく追っていく。

 そろそろページが尽きる頃になって、ふと気付いた。徐々にゼロに近付いていく数字。これ、なんだかカウントダウンみたいだ。横のセンパイを見ると、いつの間にか赤錆びた大剣を右手に握っていた。オレの手から落ちた文庫本のページが、勝手にめくれていく。

 十。

 九。

 八。

 七。

 六。

 五。

 四。

「柊真」

 センパイがオレの方を見ずに呼びかけると、右手に慣れた重さを感じた。グニャグニャ曲がった鉄棒を握りしめる。三。二。図書室の引き戸の向こうに、何かの影が映った。

 一。

 扉がゆっくり開こうとしたその瞬間に、錆びつき歪んだ鉄塊がそれを吹き飛ばした。

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