第12話
翌朝、学校に着くと柚菜が話し掛けてきた。
「あのさ、文芸部って何やってるの?」
「いや、あんまり何も。今は斉藤センパイに言われて図書の整理してるけど」
斉藤センパイがきちんと図書室担当の先生に話を通したので、オレ達は蔵書リストを点検してラベルを貼り直すという仕事を与えられている。その数一万冊以上。先週から始めて、完了したのは六百冊。まだまだ道のりは遠い。
「ふーん。ヒマそうだね」
「ヒマっつーか、うん、まあ」
毎日練習している運動部や柚菜の合唱部に比べたらヒマかもしれんけど。言い方。カバンを置いて椅子に座ると、柚菜はまだ何か言いたそうにしていた。
「何?」
「ん、ちょっと」
「何だよ」
オレに対しては遠慮なくズバズバ言ってくる柚菜には珍しく、妙にモゴモゴしている。オレが眉を寄せると、柚菜は何かを決心したように口を開いた。
「それ、私もできない?整理」
「は?何で?」
「いいじゃん。凛音先輩に聞いてみてよ」
「いや……合唱部は?」
「それは、まあ」
まあって何だよ。様子のおかしい柚菜からもう少し聞き出そうとしたら、先生が入ってきてホームルームが始まってしまった。柚菜は何事もなかったかのように普通の顔をしている。その後もなんとなく聞けないまま、午前の授業が終わった。休み時間に例のアプリで斉藤センパイに聞いてみると、『いいよー』というシンプルで軽い返事が返ってきた。まあ、図書の整理でセンパイと一緒に活動していたところでセカイの話をしたりするわけでもない。二人で行動する理由付けというだけだ。納得できないものはあるにしても、センパイがいいと言うならオレが拒否できる話でもない。
柚菜に伝えると、早速今日からやると顔を輝かせた。そんなに楽しみにするようなことか?勢いに負けて、結局なんでそんなことを言い出したのかは聞けずじまいになった。
「凛音先輩ー」
図書室に入ると、柚菜はまっすぐ斉藤センパイに向かっていった。そのままきゃあきゃあ言いながらパソコンの使い方を教わっている。連れてきたオレは完全無視だ。いいけどさ。オレはオレで続きをやるだけだ。
奥の棚から本を持ってきて、バーコードが付いているならそれをスキャンして蔵書リストと照合。なければタイトルで検索して該当する管理ラベルを貼る。蔵書リストに無いものはいったん除けておく。その繰り返しだ。リストとの照合は大した手間ではないが、一括で印刷された管理ラベルを探すのに時間がかかる。事務の人って一日中こんなことやってるのかな?大変そう。
ラベルを貼り終えた本を奥の棚に戻していると、柚菜が本を取りにやってきた。センパイはスキャンしてたからお使いか。
「あのさ」
「ん?」
手を止めて、柚菜に向き直る。並ぶと若干見上げる形になるのがムカつくな……。
「なんかあったの?合唱部」
そう聞くと、柚菜はぷいと本棚の方を向いてしまった。ぎゅっと力の入った固い表情。小さい頃から、柚菜はすぐ表情に出す。分かりやすくてオレは良いと思うけど、それでトラブルにもなりやすい。
「言いたくないなら、いいけど」
「…………あのさ」
柚菜が本棚を向いたまま口を開いた。片手を本にかけたまま、ぽつぽつ語り出す。
「渡辺先輩がさ。三年の」
知らん。誰?
「わりと人気あるんだけど。優しいし。ちょっとかっこいいし。それでさ、告られた」
「うん」
「でもさ、私はぜんぜんそういうのじゃなくて。『え?』ってなったら向こうも『え?』ってなって。そしたら、『は?』ってなって」
「うん……?」
よく分からんけど、その渡辺先輩に告白されて、そんな気無いからお断りしたら向こうが怒って合唱部に行き難くなったってことでいいか?
「それ、柚菜は悪くないじゃん」
「でもさ、渡辺先輩と会いたくないし。告られたのに調子こいてるって皆思ってるし」
「言われたの?」
「べつに。誰にも言えるわけないじゃん、こんなの」
「だったらさ」
「いいの。夏になれば先輩は引退だし。それまで、こっちやらせて」
言いたいことだけ言うと、柚菜は本を両手に抱えて戻っていった。残されたオレの中で、言いたいこと達が置いてけぼりになる。
なんだよそれ。勝手に告白してフラれたらキレて相手に当たるって最低じゃんか。柚菜は堂々としてればいいじゃん。周りがどう思ってるかなんて分かんないだろ。そもそも知らないんでしょ?誰にも言ってないならさ。とにかく、柚菜は悪くない。
オレも本を抱えて戻ると、柚菜は何事も無かったかのように斉藤センパイときゃあきゃあ作業していた。何だよもう。むすーっと続きをやっていたら、柚菜がまた本を取りに行ったタイミングでセンパイがグッ!と親指を立ててきた。
「……何すか」
「応援してるよ」
「何考えてるのか分かんないすけど、違います」
「えー」
なんで女子って恋愛ネタ大好きなん?
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