第27章: 選択と決着
タクとショウヘイがホテルの部屋に入ると、ドアが背後でカチリと閉まった。部屋は標準的なツインルームで、小さなテーブルがベッドの間に置かれ、窓の外には夜の街明かりが広がっていた。遠くで車の流れる音が静かな空間に響く。
ショウヘイは大きく伸びをして、長い欠伸をした。「あー、やっと着いた。バスの旅は永遠に感じたよ」。何も考えずにベッドに倒れ込む。「明日早く起きなきゃいけないなら、仮病使うかも」。
タクはベッド脇に鞄を置き、ネクタイを緩めた。「どうぞご勝手に。優香先生ならベッドから直接引きずり出すだろう」。
ショウヘイは枕に顔を埋めてうめいた。「そりゃそうだ。真面目モードの先生は怖いからな」。
タクはかすかに笑みを浮かべたが、何も返さない。代わりにベッドの端に座り、スマホを確認した。クラスメイトからのルーム割り当てに関するメッセージや、バス旅をネタにしたジョーク——特に変わりない内容だ。しかし一つ、目を引くメッセージがあった。
不明番号:おやすみ。
一瞬見つめてから、タクはスマホをロックした。心当たりはあったが、深く考えないようにした。
すでにリラックスモードのショウヘイが、タクの方に顔を向けた。「で、ヒマとの関係はどうなんだ?」
タクは眉を上げた。「何が?」
ショウヘイはニヤリとした。「よせよ。ずっと隣に座ってたじゃねえか。それに眠っちまったんだろ? 何かあるに決まってる」。
タクはベッドにもたれ、腕を頭の後ろで組んだ。「疲れてただけだ」。
ショウヘイは「わかってるくせに」という表情を浮かべた。「あの子、お前のこと好きなんじゃねえの?」
「多分な」
「……じゃあ知ってたのか?」
「当然だ」タクは涼しい顔で言った。「見え見えだ」。
ショウヘイは一瞬タクを見つめてから、爆笑した。「落ち着きすぎだろ! ヒマみたいな子に好かれてたら、普通はあれこれ悩むもんだぜ」。
タクはそっけなく肩をすくめた。再びスマホを取り上げ、ヘッドボードにもたれながら画面を操作した。拇指がメッセージの上で一瞬止まり、短い文を打ち込む。
タク:おやすみ。
送信を押し、既読が表示されるのを確認してからスマホを置いた。
一方、自分の部屋で優香が翌日の予定表を確認し終えた時、枕元のスマホが振動した。他の教師からの連絡かと思い手を伸ばす——だが送信者名を見て、動きが止まった。
指先が画面の上で宙を舞う。一瞬、どう返すべきか迷った。
タクの部屋では、ショウヘイが彼の表情の微妙な変化を見逃さなかった。「誰に送ってんだ?」
タクはスマホをロックし、テーブルに伏せた。「別に」。
ショウヘイは目を細めた。「へえ。そうかい」。
優香の部屋で、彼女はようやく息を吐き出し、返信を打った。
優香:早く寝なさい。
タクのスマホが再び振動した。画面を一瞥し、口元に笑みが浮かぶと、そのまま無視した。
ショウヘイは全てを目撃し、肘をついてニヤリとした。「なぁ……お前と話せば話すほど、無口な『優等生』の裏に何か隠してるんじゃないかと思うぜ」。
「親密な仲じゃない」タクは淡々と言った。
「きっつ!」ショウヘイは頭を振りながら呟いた。「冷たいなあ」。
翌朝、急ぎの朝食と教師たちからの「行儀良く」という注意を経て、生徒たちは再びバスに乗り込んだ。博物館までの道のりは前夜よりも活気に溢れていた——おそらく皆、多少は睡眠を取れたからだ。
到着すると、生徒たちはグループに分かれて降り、期待に胸を膨らませながら話し声を響かせた。博物館は巨大で、威容を誇る入口には円柱が立ち並び、最新の展示を告げる垂れ幕がかかっていた。
タクはグループと共に歩き、ポケットに手を突っ込みながら館内の展示物を見渡した。ヒマが彼の横を歩き、いつもの落ち着いた表情に軽い好奇心が混ざっている。
「博物館って好きなの?」彼女が上を見上げながら聞いた。
タクは小さく肩をすくめた。「中身次第だ」。
ヒマは考え込むように頷いた。「まあ、授業よりはマシか」。
タクが返す前に、聞き覚えのある声が響いた。
「全員、グループから離れないように」
数歩先で優香がクリップボードを持ち、生徒たちに指示を出していた。彼女の視線が一瞬、タクとヒマの方向へ流れたが、すぐに目を逸らして説明を続けた。
タクはその視線を感じ取ったが、何も言わない。
グループが博物館の各エリアに散らばると、ヒマが彼を軽く肘で突いた。「気付いたでしょ?」
「何が?」
ヒマは意味深に笑った。「先生があなたを見てたこと」。
タクは反応せず、静かに鼻で息を吐いた。「気のせいだ」。
「あら、そう?」ヒマは戯れるように首を傾げた。「じゃあ、私が監視してあげる」。
タクはため息をついた。「好きにしろ」。
タクとヒマが展示物の間を歩くと、生徒たちの囁き声と足音が大理石の床に反響し、空間に活気を添えていた。
彼らは厚いガラス越しに古代の遺物——複雑に彫刻された像、古びた巻物、儀式用の武器——が並ぶ大型展示の前で立ち止まった。
ヒマは腕を組み、展示物を興味深そうに見つめた。「昔の人々の生活ってどんなだったんだろう。全てがすごく……複雑そう」。
タクは少し首を傾げた。「今と大差ない。テクノロジーがないだけ。人々はまだ争い、記録を残し、従うべきルールを作った」。
ヒマは眉を上げた。「そう思う? 私たちより高度な技術が失われたとかないの?」
タクは肩をすくめた。「歴史の記録からすれば、ないだろう」。
博物館内を移動しながら、タクの視線がふと泳いだ。ツアーは十分に面白かったが、彼は歴史遺産に過剰な興味を抱くタイプではなかった。一方のヒマは時折説明文を読んだり、独り言のように仮説を呟いたりと没頭している様子だ。
その時、タクの視界の隅で慣れ親しんだ人影がグループから離れるのを捉えた。
優香だ。
彼女は静かに博物館の奥へ進み、ツアーコース外の通用口から外へ出た。
タクの視線が一瞬止まった。休憩? 理由はわからないが、彼女の去り方に何か引っかかるものを感じた。
ヒマが彼の心変わりに気付き、軽く突いた。「どうかした?」
タクは瞬きしてから首を振った。「いや。何でもない」。
ヒマは怪訝そうな顔をしたが、追求しなかった。
数分後、他の生徒が展示の議論に夢中になっている隙に、タクはさりげなくグループから離れた。注意を引かぬよう、優香が通った通用口へ向かう。
ドアを押すと、そよ風が顔を撫でた。
優香が博物館裏の小さなバルコニーの手すりにもたれ、空を見上げていた。腕を組み、生徒やガイドの喧騒から離れた街の音だけが遠くに響く。
彼女は……疲れているように見えた。
タクはポケットに手を突っ込みながら近づいた。「もう逃げてるのか?」
優香はすぐには振り向かなかったが、唇の端が微かに震えた。「教師だって息抜きは必要よ」。
タクは手すりにもたれ、涼しい外気を博物館の淀んだ空気と入れ替えるように深呼吸した。
優香はゆっくりと息を吐き、依然として水平線を見つめたまま言った。「皆と一緒にいるべきじゃない?」
「数分なら気付かれない」彼は肩をすくめた。
彼女がちらりと横目で彼を見て、微かに笑った。「ツアーをサボるつもり?」
「サボりじゃない。何時間も遺産を見てたんだ」。彼は軽く首を傾げた。「それに先に抜けたのは先生だ」。
優香は壁によりかかりながら腕を組んだ。「ただ……長い一日だったの。あなたも楽しんでるんでしょうね」。
タクは悪戯っぽく笑った。「先生がいるといつも楽しいよ」。
優香は瞬きし、組んだ腕に少し力が入った。そっぽを向いて苦笑した。「その口説き文句、もうパターン化してるわよ」。
タクはニヤリとした。「つまり一貫性があるってことだ」。
優香が返す前に、新しい声が割って入った。
「……なるほど。二人結構仲良しなのね」。
二人が硬直し、声の主の方へ振り向く。
ヒマが数歩離れた場所で腕を組み、表情を読めないまま彼らを見ていた。
優香はさっと姿勢を正し、教師らしい中立の表情に戻った。「ヒマさん、皆さんと一緒では?」
ヒマは数歩近づき、軽く首を傾げた。「そうしてましたが、誰かがこっそり抜け出すのに気付いて。好奇心に負けました」。視線が二人の間を行き来する。
タクはため息をつき、ポケットに手を突っ込んだ。「こっそりじゃない。息抜きだ」。
「優香先生と一緒に」ヒマが指摘し、声に可笑しみを滲ませた。
優香は咳払いした。「大したことじゃないわ。生徒の休憩も認められてる」。
ヒマは考え深げに頷いたが、追求せず、代わりにタクの隣に手すりをもたれた。「まあ、お二人が休憩中なら私も混ぜてもらおうかな」。
タクが横目で彼女を見た。「グループ休憩のつもりはなかった」。
ヒマはニヤリとした。「残念ね」。
優香はゆっくりと息を吐き、こめかみを押さえた。「いいわ、もう戻りましょう。他の教師に気付かれる前に」。
タクとヒマは視線を交わしたが、反論せず。三人は館内へ戻り、外で過ごした静かな時間が博物館の喧騒へと消えていった。
継続します。
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