第40話 愛の力。はたから見ると痛い

「来い。私一人でも出来るということを証明してやる」


カゲノォは手招きをしてガイ達を挑発する。


「言われなくても!」


ガイはジャンプをしてカゲノォとの距離を一気に詰める。

そのジャンプも高く跳ぶようなものではなく、真横に飛んで一気に距離を詰める強襲の一撃だ。


「シィ!」


一撃で勝負を決めるような強力な一手。

カゲノォはそれを三歩下がるだけで躱す。


「なっ!?」


ガイの一撃は地面を突き刺した。


「甘い!」


ガイの一撃を躱すと、四歩前に出てガイの胴体にパンチを二発打ち込む。その攻撃は衝撃と共に神聖術特有の魔法が込められていた。


「がはっ!」


続けて下から蹴り上げて一回転するサマーソルトキックを放つが、それはガイの右腕に防御された。軽くジャンプをしながら防御をしたためダメージは比較的軽く済んだが、それでも衝撃が身体を貫通していき、その衝撃に追い打ちをかけるようにエンチャントされた魔法が身体中に走る。

ガイは相手の攻撃の威力を利用して距離を取る。

始めに食らったパンチでガイの肋骨が折れた。


「く…!やる!」


「…私がただの死霊術師だとでも?」


「あんた…元エクソシストか…」


それは教会の悪魔専門の戦闘員のみが使える無手による神聖術を纏った戦闘術だった。

そこで疑問が生まれた。


「何故死霊術師が神聖術を使えるのです?!貴方は信仰を捨てたんじゃないのではなくて?!」


ホーリーの指摘は正しい。

神聖術とは神への信仰から産まれると、そう教えられる。だから信仰心のない者が、まして真逆の死霊術師が神の使徒たる神聖術を使うことなど出来ないからだ。カゲノォは笑った。

笑いながらホーリーを見るその目は、明らかに小馬鹿にした目だ。


「おい、聖女。では信仰とは何か?」


「神への祈りですわ!」


「違う。信じる心だ。純粋に何かを疑うことなく信じる心。それが信仰だ。そこに善も悪もない。だからその信仰するのが神でなくてもいいのだよ」


それは神聖術を習得する為の裏技だ。

事実、ホーリーがハーレム入りした時に神聖術の強化された理由として主人公を信じる力が作用したからだ。当然、それは神を信仰するかの如く絶対的な信頼関係を構築することが最低条件となる。

この話はスタッフがいつかネタとして使えるだろうということでゲームでも公式でも語られることがなかった。

その語られなかった事がカゲノォの口から語られる。

そしてそれは最近、神聖術が強化されていることを実感しているホーリーを納得させる内容でもあった。


「成程…そういうことでしたか…」


「ほぅ…小娘なりに思う所があったと言う事か?」


「ええ…とても…ですが、貴方とは違います。私は… 愛 の 力 で す !」


「…は?」


完全に滑った。

それでもホーリーは続ける。


「愛の行き着く先は究極のところ自己犠牲。自分が何かを失っても、目の前の大切な人を救いたい。楽しませたい。笑わせてあげたい。その想いを愛と呼びます。貴方のやっていることは、自分の大切な人の為ならば他人を貶めても構わないという、端的に表現するならば自分さえ良ければいいという、ただのエゴです」


「……小娘に何がわかる?私達がどれだけ辛い思いをしてきたのかわかるか!?」


「…わかりませんね。理解する気もありません。エクソシスト…神学を学んだ人ならば、まず始めに教わる筈です。私達は人の為に生き、世のために才を分け与える。それが私達の生き方だと。それを学び修めた者が自己利益の為だけにその力を使って何も恥じない者に同情する気など更々ありません」


ここにオクトがいれば「お前は何を言っているんだ」とツッコむような真っ当な言葉。そしてその言葉は冒険者学校の門を叩いた時に真っ先に教わる冒険者としての理念である。

ホーリーは確かにサイコパスではあるが、それでも聖女候補に成れる程の実力もあるし学もある。彼女の生き方は神に仕える者として冒険者としての生き方から外れるようなものではない。



多分。



「確かに私は神学を修めたよ。誰よりも学んだよ。だが、その結果が『神などいない』という結論だ!何故シノンが不治の病に侵されなければならない!誰よりも高潔な彼女が!どんなに祈っても奇跡など起きやしない!なら!悪魔の手を取ってでも起こるしかないだろ!それの何が悪い!」


思わず激昂するカゲノォ。

ホーリーの言ったことはカゲノォが意図的に目を逸らしてきたこと。それは自身の弱さの表れ。

指摘してきたのがガイやトラレッターならば不快には思いつつも認めざるを得なかっただろう。

それは彼等が大人だからだ。

だが、指摘してきたのはホーリー・サギというシスターの格好をしたいわば元同業者の見習い。

そんなひよっこに言われる筋合いなどないと、ただの小娘だとカゲノォは思っていた。

微塵にも聖女候補という聖職者同士の争いの中で苛酷なバトルロイヤルを今も尚生き残っている聖女候補生とは思ってもいない。


「世の中には貴方より酷い境遇な人はいくらでもいます。それでもしっかり前を向いて歩いている人は数多くいます。貴方の主張は自分を不遇な弱者として自らの行いを正当化しているに過ぎません」


「小娘がぁぁあぁあ!!!」


図星を突かれたからなのか、カゲノォはホーリーに襲いかかる。

ホーリーは何処までも冷静だった。


「先生!」


「任せろ!」


「避けなさい!」


後ろからガイとトラレッターの声がする。

ホーリーは身体を縮めて横へと避ける。ホーリーが横へずれると、ガイとトラレッターがカゲノォへと飛びかかる。


「インパレスドライブ!」


「パワースラッシュ!」


ガイとトラレッターの技が融合する。




「「ラララブラブパワースマッシュ!!!」」



「ぐはっ!!」


二人の合体技がカゲノォの身体を貫いて、カゲノォの身体はハート形に穴が空いた。

膝をつくカゲノォ。そしてゆっくりと右手を空に掲げた。


「すまない…シノン…」


そう呟くと、カゲノォの身体は地面へと崩れ落ち、その身体は灰となって消えた。彼もまた屍人だったのだ。


「…こんなとこになって…残念だよ」


ガイの一言に誰も何も言えなかった。

トラレッターは自分の顔を叩くと気合を入れなおす。


「生徒達がダンジョンの中へもう一人を追いかけている。急ぎましょう!私達はこんな所で立ち止まっていられない!」


「そうだな。そうしよう!」


ガイを先頭に皆がダンジョンの中へと突入する。

この時、ガイとトラレッター以外の誰もが思った。

技の名前が痛すぎると言える雰囲気ではないと。







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