第38話 カゲノォ
「思ったより勘の良いガキだな。油断したよ」
「アンタ達を中にいれるわけにはいかない。帰ってもらおうか」
カゲノォから殺気と魔素が溢れ出す。
魔素とは平たく言ってしまえば魔力だ。
神聖術を使う時に使用するのは神聖力だが、これも平たく言ってしまえば魔力だ。
早い話がLawとChaosの違いのようなものだ。殆どの人がその真ん中のニュートラルでニュートラルの範囲内でどっちよりかに分かれる。
本来、魔素は人から出ることは無い。あるとするなら…つまりそういうことだ。
俺は槍を構えて襲撃に備える。
一触触発の雰囲気。そして
「待って。兄さん」
シノンがカゲノォと俺の間に立つ。
シノンは真っ直ぐ俺の目を見つめて語りかける。
「お願い。見逃して。私はあなたと戦いたくない」
「シノン!お前!」
「兄さんは黙って!お願い…私達にはどうしても必要なことなの…こうするしか…ないの…だから!」
「そのためなら、世界中の人達を地獄に叩き落しても良いと?」
「……!!!」
それは彼等が目を背けてきた事実。
俺はソレを突きつける。
「そりゃのっぴきならない状況だろうし、他に手段がなかったのかもしれない。だからといって無関係な人を大勢巻き込んでまでやるようなことか?」
「で、でも!これしか…!」
「シノン。もういい。もういいんだ」
カゲノォがシノンの肩に手を置く。
カゲノォの「もういい」とはやろうとしてきることを諦めるということを指しているわけではない。
「分かってもらおうとは思わない。謝る気もない。その先が地獄だろうと構わない。邪魔はさせない。だから…」
「死ぬがよい。そしてさようなら」
カゲノォは死霊術を使い、屍人を召喚させる。そんなカゲノォを見てシノンも覚悟を決めたのか、腰に下げていた剣を抜いた。
「たった一人で俺たちを止めようとした心意気は評価しよう。その身体は後で有効利用させて貰うから、安心するといい」
「悪いが遠慮させてもらう。そしてアンタ達も止める」
カゲノォが屍人達を動かして襲いかかる。
「シィ!」
俺は槍で屍人を倒していくと、横からシノンが斬り掛かってきたのを槍で受け止める。
「完璧な不意打ちだったはずだけど…」
シノンの剣を弾き返すと、今度はカゲノォが片手棍で殴りかかる。俺はそれをステップをして回避しながらの横一閃。カゲノォは上半身を反らせて回避するが、服が斬られる。
「これは…想定外に強くなっているな!」
「アンタ達が鍛えてくれたおかげでな」
流石は最終ボス手前の相手だ。
もう少し深手を負わせるつもりだったが、そうは問屋が卸さないようだ。
2人は距離を取ると、その間を埋めように屍人達が並び、襲いかかる。
戦闘で動き回った為にダンジョンの入口はガラ空だ。
「だが…所詮は一人。数で押せばどうということは無い。こいつらに任せて、俺達はダンジョンに潜るぞ。シノン」
「ええ…」
「くっ!しくじった!」
なんとか前に出て阻止しようとするが、屍人の数が多すぎて対処が出来ない。
そうこうしているうちにダンジョンの封印が強引に破られて大爆発を起こした。
「くっ…こんなに爆発するなんてな!」
咄嗟に地面に伏せて衝撃を逃がしたとはいえ、ダメージがないわけじゃない。鞄からポーションを取り出すと一気に呑み込む。
俺の周りを囲むようにしていた屍人は先程の爆発に巻き込まれて吹っ飛んでいる。
じゃあ、あの2人も大ダメージを負ったのかといえばそうではない。
一度だけダメージを完全防御できる魔道具を使って逃れているからだ。
「ふむ、なかなかの威力だったな。さて、封印は解いた。もう一度屍人を召喚して足止めをさせようか」
カゲノォはもう少し大量の屍人を召喚する。
「殺せ。さあ、シノン行こうか」
「くそ!待て!」
2人の動きを阻止しようにも大量の屍人を前にして阻止が出来ない。
2人がダンジョンの入口に差し掛かったその時。
突如、空から何かが落ちてきて屍人達を吹き飛ばした。
「くっ!なんだ?!」
土煙の中から現れたのは槍を持ったガイ先生だ。
「爆発音がして何事かと思いきや…貴様、何をしている」
「お前は…竜騎士…ガイ…」
「ほう?俺のことを知っているのか」
ガイ先生は傷だらけの俺を見ると、ポーションを投げ渡した。
「後で話をしてもらうぞ。先ずは…こいつらを阻止しないとな」
槍を構えるガイ先生。先生に続いて続々と仲間達が到着し始めた。
「ちっ…増援か…ここにきて。シノン。先に行け。俺はこいつらを足止めする」
「兄さん…わかったわ」
ダンジョンの中へと消えるシノン。カゲノォはその入り口に立ち塞がり行く手を遮る。
「ここから先は通さない。ここで全員死ね」
カゲノォは再び屍人を召喚する。先程召喚した数よりも遥かに多い。それだけ空いても必死なのだ。
俺達はダンジョンの中へと入って行った彼女を追いかけるべく屍人を倒していくが、倒した矢先に数が増えていくせいで前に進めない。
「全員伏せろ!」
トラレッター先生の合図で全員が伏せると、トラレッター先生は全体範囲攻撃を仕掛ける。
「サイクロンスラッシュ!」
風を纏ったその攻撃で屍人達は倒され、その余波でカゲノォも吹き飛ばされ、ダンジョンの入口への道が開いた。
「行け!オクト!」
「はい!」
俺と、ロン、越前と枸杞路、ミナがダンジョンの入口へと飛び込んで行く。
「行かせるか!」
カゲノォはダンジョンの中へと入って行ったオクト達を止めようとするが、ガイが立ち塞がる。
「邪魔はさせねぇよ」
「貴様…」
追いかけるオクト達。カゲノォと対峙するガイと仲間達。
それぞれの戦いが始まった。
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