第34話 枸杞路の里

列車に乗って2日。雑魚寝で体中がバキバキになりながらもどうにか枸杞路の里から一番近い街へと到着した。

ここから更に船と徒歩で半日かけて枸杞路の里へと到着するわけだが……


「センパイ〜ボク〜センパイとまだイチャイチャしたいな〜♡」


「こいつめ〜静香の故郷に行けばいくらでもできるだろ?それまで我慢しようぜ」


「センパイが言うなら〜ボク〜我慢する〜♡」


コイツラ殴っていいよな?

いいよな?


「二人の世界に入り浸っているところ本っ当に!申し訳ありませんが!さっさと行くぞ」


必死に自分を抑えて2人を促す。

アヴァが俺の腕の裾をグイグイと引っ張る。


「アタシはにぃと一緒で嬉しかったよ?」


ニッコリ笑ってアヴァが言う。

天使や…………………汚れを知らない天使や。


アイツラとは違って。


その後も何かある度にイチャイチャする二人に殺意の波動が目覚めそうになるのを抑えて枸杞路の里へと向かう。

着いた枸杞路の里は一言でいえば田舎だ。

言い換えれば古き良き里山だ。不造作に生い茂っていそうな山の森もよく見れば剪定がちゃんとされていて、太陽の光がしっかりと大地に降り注いでいる。


「へ〜長閑で良い所じゃないか」


それが初めて見た枸杞路の里の感想だ。

家の造りも冬になれば雪が多いためなのか、合掌造りの屋根の家が立ち並ぶ。


「ここが…静香の故郷…いいな…」


越前は感動すらしている。それもそのはず、彼は傭兵暮らしが当たり前で、こんな所には住んだことなどないのだから。


「学校を卒業したら、静香とここで暮らすのも悪くないな」


「センパイったら!ボクはセンパイが言うなら良いですよ♡」


なあ?俺、帰っていいか?


「……なあ?俺、帰っていいか?」


思わず声に出てしまった。


「い!いやいや!それは困ります師匠!?」


「そ、そうだぜ!お前が居てこその旅なんだ!頼むよ!?」


「いや、気を使わなくていいんだよ?後は若い2人に任せておいちゃん達は適当に散策して帰るからさ…」


「待って!待って下さい!師匠〜〜〜!!」


「頼む!お前も来てくれ!頼むよ!」


必死に止めてくる2人に引きずられながら枸杞路の生家へと向かう。

枸杞路の家は里の最奥にある広い敷地のある里で一番大きな家だ。家に着くと奥の大広間へと通される。そこには最奥の中央に枸杞路の父親、枸杞路又次郎が座り、そこから左右を取り囲むように20人ほどの老若男女が座りこちらを試すように見る。


「お父様。お母様。静香、只今冒険者学校より帰参致しました。両隣におります。右より学校でお世話になっております越前権兵衛様とオクト様に御座います。そして最後にオクト様が事情によりお預かりしておりますアヴァ様に御座います」


静香は姿勢を正して座り挨拶をする。俺たちもまた名前を呼ばれた時に深々と礼をする。

ゲームではオクトが礼を欠いた描写があった。そのため相手に不評を買ってなし崩しに決闘を挑まれたようにも見られたため、枸杞路静香より予め礼節を学んでおいた。アヴァには俺の見様見真似をすればいいとだけ伝えている。

当然、それで決闘そのものが無くなるわけではなさそうだが。


「ほう…若いのに二人とも礼儀を弁えているな。結構。私はその娘の父親である枸杞路又次郎と申す者。以後、よろしく頼む。して…静香、お前と恋仲というのが」


「はい、こちらの越前センパイです」


「はじめまして。申し遅れましたが私、越前権兵衛と言います。両親はこの国の生まれでありますが、私の生まれは別になります。傭兵という卑しい身分ではありますが、万事万端、よろしくお願い申し上げます」


そう言って越前は持っていた鞄から手土産として買い込んだお酒を差し出す。それは事前に父親が気に入るであろうお酒を静香からリサーチして選んだ、こちらで言えば洋酒だ。


「ふむ、これは見たこともない酒だ。この後、皆で頂こう」


「よろしければ、此方を肴に是非に」


そう言って俺はツマミとして干し肉とチーズを鞄から出して差し出した。


「これはこれは!なかなかに話がわかる若者達ではないか!おい!堅苦し挨拶はもう良い!酒宴じゃ!この酒と肴で酒宴を開くぞ!」


当主の言葉で一気に緊迫した空気から賑やかな空気へと変わった。こちらから差し出した酒と肴は好評のようだ。

閉鎖的とまでは言わないが、田舎の枸杞路の里ではこういった外からの物が入って来ることが少ない。そのためこういった、外からの嗜好品が好まれる。それが自分達が好きな物なら尚更だ。

夕方頃から急遽始まった宴会は、その日の内に渡された酒と肴を飲み、食べ尽くしても終わらず深夜まで続いた。



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