第7話 貴族令嬢がツンデレのチョロインなのはテンプレなのだろうか

ふと、こんなことを考えたことはないだろうか?


『貴族令嬢がツンデレのチョロインなのは、テンプレなのだろうか』


ということを。


まんまタイトルである。

この世界は階級社会が受け継がれて文明が現代並みに頭の悪い世界である。

当然、貴族もいる。


クーデレ・ツンデレナ


目の前にいる伯爵令嬢である彼女。

彼女もまたハードルメンバーの1人であり、ツンデレ要員である。

そして、これまたテンプレなのか金髪縦巻きロールという、見事なまでにテンプレを踏襲している人物だ。


彼女との出会いは二つパターンがある。

メインの武器に射撃を選び、授業で射撃を選択する。

または、夏休み中に起こる強制イベント。


この二つだ。

そして、今は夏休み真っ盛りである。

冒険者学校では宿題として授業で習ったことを復習として渡されたテキストをこなす。この描写はゲームでは出てこなかったが、まあ当たり前だろう。学生なのだから。

それだけではない。冒険者としての経験を積むためにギルドから紹介された簡単な依頼を複数回こなすことが宿題とされている。

それらを複数回こなすとあるイベントが発生するのだ。それが彼女のイベントなのだ。


俺は考えた。


"どうにかしてこのイベント回避できないものか"ということを。


結論。


できませんでした。


それは冒険者ギルドに行った時だ。

いつもなら選べるくらいにあるはずの依頼がない。現実的に見ればこういう日もないことはないだろう。だが、ギルド職員に紹介されたものが彼女からの依頼なのだ。

内容は『鍛錬の為に一緒に来てくれる冒険者を募集』という心底どーでもいいものだ。

仮にも彼女はそこそこ有力な貴族なのだ。個人で傭兵を雇うくらいは出来るはずなのに何故に冒険者ギルドに依頼をするのか?

全くもって謎だ。

そして、そんな依頼に誰も応募していないのはもっと謎だ。


「これしかないんですよ〜報酬も悪くないですし〜」


断りましたよ。ええ!断りましたよ!

何度か………………

しかし!なんで日を改めてもこの依頼しかないのぉ?!受けるしかないじゃん!


「はあ………帰りてえ……」


受けたからには最後まで責任を持つ。それは前世でサラリーマンをやっていた頃からの仕事に対するポリシーだ。それを投げ出したくなる。


「何をしておりますの?!次に向かいますわよ!」


護衛対象であるクーデレ嬢は俺を家来か何かと勘違いしておられるようだ。


「待ってくださいよ。まだ解体が終わってないって」


「早くしなさいよ!本っ当!ノロマよね!」


解体している獲物の内臓を顔に投げつけてやりたい衝動を必死に抑えて解体作業に勤しむ。

このイベント。なんやかんや言っても彼女の身に危険が迫り、最悪殺されるかもしれないイベントなのだ。ここで帰ったりしたら彼女の身どころか自分がどうなるか分かったものじゃない。

ここで主人公に助けられた事で主人公のことを気になり始め……という流れだ。


それは面倒なので却下。むしろぶった斬る。


そういう関係にはならなくても、彼女のような有力者と強いコネがある人物と友好的な関係を築くのは今後の人生において有効であることには変わりはないから目をかけてもらう程度の交流はするとは思う。

彼女ではなくて彼女の父親だけどな。

これが上手くいけば貴族階級である父親に気に入られることは間違いないだろう。


(これは仕事。仕事なんだ)


心の中でそう呟きながら、俺は解体作業を済ませると彼女の後へと続いた。



「ふーっ。こんなところですわね」


懐中時計で時間を確認すると既に17時を回っていて段々と日が落ち始めている。もう暫くすれば辺りは夜の帷に包まれるだろう。

程よい疲れで気が抜けそうになるが、ここからが本番なのだ。このイベントの。

このイベント、彼女にむけて魔獣がけしかけられる。そのけしかけた相手はこのゲームの黒幕の下っ端なのだ。


黒幕としては本当なら彼女ではなく、この国の忠臣であり有力者でもある彼女の父親を狙いたいが、武勇に優れた父親を襲うのは現状では厳しいため、まずは溺愛する娘を狙い、後に激昂した父親を狙うというというもの。

事実、彼女のイベントに関連するもので彼女が命を落とすと、父親もあっさり退場する。冷静さに欠いた敵を屠るのは然程難しくはない。

彼等を狙う理由も恨みがあるとかそういうものではなく、ただ"居るより居ないほうが都合の良い"というエロゲーにしては極めて理不尽な理由なのだ。


このイベントではテキスト上死ぬことはなかったが、現実的な問題としては彼女と行動を共にして万が一彼女が命を落とすと自分が彼女の父親に殺されるかもしれない。

彼女と寝たことがバレてもなにも怒らずに「孫が楽しみだな〜」と笑って認めたのにこの差は何なのだろうか?


しかしながらこの世界はゲームではなく現実の世界なのだ。傷一つつけることなく家に帰さないと何が起こるかわからない。

俺はゆっくりと呼吸をして静かに集中的を研ぎ澄ませる。


「な、何事ですの!?」


どうやらイベントが始まったようだ。






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