旅勃ち⑤

「ここがあの男のハウスね」


 村の広場に新たに現れたメスガキ。

 彼女は、まるで高貴な戦士のような気品と威圧感を纏っていた。


 ━━タイトなジャケット。

 ━━細く引き締まったウエストを強調するベルト。

 ━━短すぎるスカートから伸びる、挑発的な脚線美。

 ━━胸元のボタンを一つ開け、わずかに見える白いシャツの隙間。

 ━━サイズが合っていない眼鏡を、手のひらでクイッと押し上げる仕草。


 村人たちは息を呑んだ。


「め、メスガキが喋った!?」

「知性のあるメスガキだと!」

「何その服!? どこで売ってるんだ!?」

(ワ◯ピースの序盤に、こんな感じで眼鏡のズレを直す敵いたなぁ……。ワン◯ースの正体って結局何だったんだろ?)


 村人たちが動揺する中、ティンコは前世で好きだった漫画のことを懐かしむのだった……。


 彼女はジャケットの裾をひるがえすと、余裕の笑みを浮かべる。


「私はメスガキ四天王のひとり、オフィスレディー。さあ、予言の勇者を出しなさい。さもなくば、うちの職場の同僚の、似てない物真似を延々とするわ」


 村人たちはざわめいた。


「予言の勇者!?」

「知らない人の、しかも似てない物真似をずっと見せられるの、地味に嫌過ぎる……!」

「だから、その服は何なんだよ!? 俺も着たい!」


 オフィスレディーは眼鏡をクイッと動かし、不敵に笑う。


「隠しても無駄よ。私の眼鏡はすべてを見通す力を持っている。あなたたちの服も透けて見えるわ」


 村人たちは皆、胸を隠す動作をする。ち◯ちんを隠せ。


「……あなたたち、本当に何も知らないようね。いいわ、勇者が現れるまで、お姉さんがレッスンをしてあげる」


 次の瞬間、オフィスレディーの目が妖しく光った。


 村人たちは次々と膝をつき、頭を押さえる。


「うっ……こ、これは…!?」

「嫌だ、残業は嫌だ!」

「仕事を早く終わらせたら、次から仕事の量が多くなるという罠……」

「お茶汲みが女の仕事なんてパワハラよ!」

「同僚の結婚マウントがウザすぎる!」

「私も仕事で疲れてるのに、夫が家事育児を手伝ってくれない……!」


 オフィスレディーのマインドコントロールが発動し、男たちは次々と『自分がOLである』という錯覚に陥り、次々に存在しない記憶を叫び始めた。

 地球の男の十割は自分が美少女だと思いこんで美少女アバターでSNSや配信など行っているが、これはそれとはまったくの別物だ。村が社畜の巣窟と化していく。


「精神を操るのなんて、四天王の三人目くらいが使うやつじゃないか!? ていうか、この世界に会社とかないだろ!」


 ティンコがツッコむ中(これは下ネタではない)、フワリが一歩前に出た。


「たいへんだ、ぼくがなんとかしなきゃ」


 あまり大変そうに見えないが、本人は慌てているらしい。

 すると、「えいっ☆」と可愛く手を振っただけで、オフィスレディーのメスガキ軍団が突然キャットファイトをおっぱじめたのだった。


「ざ〜こ!(怒)」

「ざこ、ざ〜こ!(激おこ)」


 オフィスレディーが目を見開く。


「マインドコントロール!?  こんな攻撃手段、主人公サイドが持ってるなんて……! 持ってるやつが仲間になるとしても、もうちょっと後の方でしょ!?」

「おまいう」


 焦りを見せるオフィスレディーにツッコみを入れた後、ティンコはフワリのほうを見た。


「フワリ、こんなすごい力を持ってたんだな……!」

「えへへ、ぼく、なにかやっちゃいましたぁ……?」


 オフィスレディーは焦りながらも、すぐに態勢を立て直した。


「この私に勝るとも劣らないキンタマキラキラギンギン力……。このままでは千日経っても決着がつかないわ(ここ聖闘士☆矢)。ここは一旦引いたほうがよさそうね。ほな、また!」


 彼女が自転車を漕いで村を後にすると、洗脳されていた村の男たちがOL人格から解放され、メスガキ軍も撤退を始めた。


「チャリで来てたのか……。ていうか、この世界にも自転車あるんだな……」


 安堵の空気が広がる中、村の長老が物陰から顔を出した。


「危ないところじゃったな」


 村人たちは一斉に長老の方を向く。


「長老!」

「ひよって隠れてた長老!」


 長老は「うっ」と言葉を詰まらせ、無言で空を仰いだ。

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