4−2

「おい、下僕。何かいい案はないか?」

「下僕言うな。聖女自称すんなら自分で考えやがれ」

「さぁ、聖女よ!!」

「うっせぇ、ナルー! 黙っとれ!」


 キレた高坂がナルーさんに食ってかかる。逆ギレじゃん……。しかしナルーさんは大人だ。ここは穏便に済まそうとしてくれるようだ。


「仕方ありませんね。異世界から召喚されたばかりで、いきなり『聖女』と言われて困るというのもわかります。ですが!! ワタシタチ、ピンチ!! ジブンノウツクシサ、ミラレナクナル!!」

「なんで片言なん? ナルーさん。あんた魔法でオレたちの言葉ペラペラだったよね?」

「こほん。ともかくこの村の鏡石は我々にとって命と同じくらい大事なモノなんですよ」

「そうか? 鏡なんて見なくても特に平気じゃね?」

「高坂、おめぇはもう少し『身だしなみ』とか考えろよ」

「ともかく……ハァン……自分たちのこの美しさが見られなくなってしまったら……それこそ死んだと同意義!! 自分たちの美しさを見ることがこの村の唯一の娯楽かつ、村人たちの生きる糧なのです!!」


 ナルーさんは鏡石の前で身もだえながら訴える。さっき自己紹介してきた5人の戦士たちも鏡石の前でポージングしているし、村人たちはそんな戦士たちの美しさに惚れ惚れしているようだ。なんだ、このカオス。さっきから多少ネジのぶっ飛んでいる高坂も、頬を紅潮させハァハァしている村人たちを見て、ドン引いている。


「つ、つまり、私が聖女として鍛えればいいのか? その……魔法が効かない相手に勝てるように」

「あたしたちを鍛える? 美しくなぁ~い」


 ネオ(もうこいつらは顔と年齢が見合っていないから敬称は省く)が指を頬に当てて不満げな表情を見せる。だが、その顔の向きはオレたちの方ではなく、鏡石を向いている。


「鍛えるの……? ボク、そんなに力ないよぉ……。魔法のほうが手っ取り早いし……」


 泣いているのかと思ったら、泣き真似だった。シュンもチラチラと鏡石を見ている。自分のかわいさでも気にかけているんだろう。あざといナルシストだ。


このふたりは自分たちを鍛えることに不満なようだが、他の3人は案外乗り気っぽい。


「私は賛成ですよ。聖女・ユナ様に従います。最年少ですし、このままだと戦力どころか弱点になってしまうからね」


 そう言ったのはディディ。見た目は大人、中身は最年少だが、言っていることは外見と相応なのかもしれない。案外しっかりしている。先ほどシュンさんを「おじちゃん」と呼んでいたときは引いたけど。


「俺たちも賛成だぜっ! 美しい筋肉! 肉体美! サイコーだねっ!」

「ウィンが言うなら……僕はしなやかに美しくなれればいい。でもゴリマッチョは嫌だよ?」


 赤髪短髪のウィンと便乗するヴィーナ。ヴィーナが言うように、ゴリマッチョというのは少し見苦しいな。ただでさえこのナルシストたちは若干ウザいのに。


「これで決まりですね。それでは明日の朝から5人の戦士たちを鍛え上げてください! じゃあっ!!」


「ちょっと待てっ! 『じゃあっ!』って……今夜寝る場所は?」


 高坂が退散しようとしていたナルーさんたちを止める。グッジョブだ。まさか異世界から来た聖女をほったらかして野宿させるなんてこと……。


「いくら聖女だからと言え、私たちよりも美しくないものを部屋に上げるなんてできません! なので、その辺で寝てください! ではっ!」

「うぉぉいっ! 『では!』じゃねぇっ!! 聖女を野宿させるなんて前代未聞だぞ!? 誰か屋根と布団のある場所に泊めやがれ!!」


 ……うん、高坂がまともなこと言ってる。聖女として異世界から来たのにも関わらず野宿なんてあり得ん。オレも村まで来たのに地面にそのまま寝転ぶなんて嫌だ。


「ディディ、あんたが一番最年少なんだろ? オレたちをどこか部屋に案内しろ。そうじゃなければ明日から『聖女の訓練』はなしだ」

「えぇ!? そんなぁ……」


 名指しされたディディが、心底失望した顔でナルーさんを見つめる。ナルーさんは静かに首を横に振った。「諦めろ」という意味だろう。


「わかったよ。寝床に案内する」


 そうして向かった先は――

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