3−2

 エルフたちを追っていくと、ついたのは村の広場のような場所だった。


「集会でもするのかな? 私たちがよくやるような」

「エルフはヤンキーじゃねぇだろ。どちらかというと町内会のおっさんたちが集まって神社とかでやる、アレじゃね?」


 バケツをかぶったオレたちは、大きいダイヤモンドの裏に隠れながら、2、30人ほど集まっているエルフたちを覗き見る。


しかし――見事に男しかいないな。いや、アレは女……違うか。なんか違う。胸がなさそうだし。胸のない女のいるかもしれないが、体つきが微妙に違う。

女だったらそうだな、胸はCカップくらいあって、ウエストもきゅっとしているのが好みだ。そうそう、目の前にいる、こんな感じ……って。


「のわぁっ!」

「るせぇよ、サキ! でけぇ声出したらバレるだろ!」

「わ、わりぃ……」


 目の前にいるのは高坂じゃねぇかよ! くそっ、こんなクソ女の体が理想って、オレマジかよ! 異世界来たから感覚が鈍ってんのか? やばい。


 自己嫌悪に陥っていると、前に村の長のような美形エルフが出てきた。顔は整っているが、線はやはり細い。そして美しい。Not CAWAII。彫刻みたいな男だ。


「○×△※□×○……!!」


「なんか言ってるな」


 高坂がつぶやく。相変わらず、言っている言語は謎だ。


「『これから集会を始めます』的な開会宣言じゃね?」


 オレの言った通りだったのか、5人ほど男たちが前に出てくる。5人ともやはり美形だが、個性豊かだ。昔でいうビジュアルオタク厨二系のエルフ、ダンディでひげを生やしたエルフ、少年みたいなエルフ、ホストみたいなエルフ、さわやかそうなエルフなど、バリエーション豊富なのがどことなくウケる。


 5人のエルフが横並びになると、何やら演奏が始まる。牛か何かの角みたいな笛をボォォ~ッと吹くと、ズンドコズンドコと太鼓の音が鳴り始める。


「ホォォ~ィ、ヨホホ~ィ、ウゴラベタレンゲオ~ダ~……♪」

「歌……か?」

「歌だな」


 オレと高坂は怪しげな歌を聞きながら5人の動向をうかがう。他の大勢のエルフたちも、5人の動きを真剣な表情で見つめる。やっぱりこれは何らかの儀式……。


 そう思っていると、5人は1枚1枚着ている服をいやらしい踊りをしながら脱ぎ始める。

し、知ってるぞ! これは……。


「いい男のストリップ……」

「おいっ、高坂! 鼻血出てるぞ!」

「え?」


 高坂はいい笑顔を浮かべながら、両方の鼻の穴から流血している。器用なやつだ。バケツをかぶって男の裸に興奮しながら鼻血を出す女子高生ヤンキー……か。


「おめぇ、男の裸なんかで興奮すんなよ。だせぇぞ」

「うるせぇな。だが、おかしい。普段はアイドルや俳優の裸を見てもどうも思わんのに……ハッ! まさか、アレがチャームの魔法とか!?」

「おめぇ、変なところだけネット小説読んでそうだな……。とりあえず、鼻拭けよ」

「ありがと」


 先ほどオレに差し出したティッシュをちぎって、鼻の穴に詰める高坂。こんな女が西東京トップだったとは情けねぇ。このバカ女に勝てなかったオレたちって、一体……。


「ボォノォ~ソンマレタケラァソカナァ~アッスウッ↑↑♪」

「な、なんか歌のテンション上がって来たぞ」

「ここからが真骨頂ってこった。いいぞ……」

「いいぞって、高坂……」


 5人のエルフたちはいよいよ股間に巻いている布だけになった。何がいいぞだ、高坂。おめぇは本質的には変態なのか?


 よだれをたらしている高坂を呆れながら見ていると、プウンとよい香りが漂った。何の香りだ?


 香りの漂うほうへ視線を移すと、頭にバンダナを巻いたエルフたちが、何やら料理のようなものを持って歩いてくる。


「お、おい! 高坂! 食いもんだぞ!」

「ほへ? あっ、本当だ! メシだっ!!」


 オレたちは、いい香りのする料理に目が釘付けになる。本当に腹がへった。オレはさっきからずっと腹がへっている!!!


「なぁ、高坂。こっそり果物くらい1個、くすねられねぇかな?」

「くすねるだぁ? ここは正々堂々と奪いに行こうじゃねぇか……なぁに、メシを食ったら速攻逃げりゃあ問題ねぇだろ……」


 さっきエルフを見ながらよだれを流していた高坂も料理を目の前にして理性を失っている。こいつも腹がへっていたのか。


「だけど、いきなり村を襲撃するのはやべぇんじゃねぇか? 相手がどのくらい強いかもわからねぇ」

「ビビってんのか? シャバ僧が」

「あぁ? 誰がシャバ僧だ、コラァ?」

「あんだコラァ、やんのか? あ?」


 メンチの切り合いになったそのとき。


 グウウウウ……。


「×○※△□○×※!!」

「○※□×○△!!」


 エルフたちがこちらに気づき、急に集会場がざわつく。これは――。


「お前のせいでやるしかなくなったな?」

「くそっ、上等だっ!! これもメシのため――!!」


 オレたちふたりは、バケツをかぶったままエルフたちの前に姿をゆっくり見せた。

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