第十三話

「キス、しちゃったね。」


唯菜が小さくつぶやいた。その言葉に悠斗の胸は高鳴り、どう返事をしたらいいのか分からず、顔が熱くなるのを感じた。


「え、あ…その、すみません!」


思わず謝ってしまった悠斗に、唯菜は吹き出すように笑った。


「悠斗君、なんで謝るの?私、嫌だったなんて言ってないよ。」


唯菜の笑顔がさらに眩しく感じられ、悠斗はますます言葉を失った。彼女の言葉には、どこか優しさと温かさがあった。


「ご、ごめんなさい…じゃなくて、ありがとうございます、っていうべきですかね。」


悠斗がなんとか言葉を紡ぐと、唯菜は少しだけ目を細めて彼を見つめた。


「悠斗君さ、もう敬語やめない?」


「え?」


突然の提案に、悠斗は驚いて彼女を見た。唯菜はいたずらっぽく笑いながら続けた。


「だって、恋人なんだから、もっと自然に話したいじゃない。それに…私のことも、名前で呼んでほしいな。」


「えっ、先輩を、名前で?」


「そう。『唯菜』って。」


彼女のまっすぐな目に見つめられ、悠斗は動揺しながらもなんとか答えようとした。


「い、いいんですか?その…先輩なのに。」


「いいの。むしろそのほうが嬉しい。」


唯菜の微笑みには、確かな信頼と期待が込められていた。それを感じた悠斗は、少しだけ勇気を振り絞る。


「じゃあ…唯菜。」


名前を呼んだ瞬間、悠斗の顔はさらに赤く染まった。それを見た唯菜も少し照れたように笑う。


「うん、それでいいよ。これからも、そう呼んでね。"悠斗"。」


「…わかった。」


二人は照れくさそうにしながらも、確かに関係が一歩進んだことを感じていた。


その後も二人は水族館を楽しみ、クリスマスの江の島を満喫した。イルミネーションに彩られた街並みを歩きながら、何気ない会話を交わす。


「なんか、今日すごく特別な日になったね。」


唯菜が言うと、悠斗は頷きながら答えた。


「うん。こんな日がずっと続けばいいのに、って思う。」


「でも、受験が終わったらまたいっぱい一緒にいられるよ。その時はもっといろんな場所に行こうね。」


「そうだね。それまで、頑張ろう。」


二人は互いに微笑み合い、手をつないで歩き出した。夜の冷たい風が頬を撫でる中、その温もりだけは確かに彼らを繋いでいた。


こうして、初めてのクリスマスデートは成功に終わった。二人の心には新しい絆が芽生えたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る