第35話:純粋な真実の愛と背徳の口づけ(後編)
魔王討伐の冒険の間、ムーンはローランと何度もキスをした。
あの頃から、さほど年月が経っているわけでもない。しかし、当時のムーンが求めていたものは、情熱的で刺激的なキスだった。
特に忘れられないのは、ある夜のことだった。
それは、野営中にサマルが寝ている目の前でしたキスだった。
焚き火の明かりが揺れる静寂の夜。サマルの寝息が響く中、ムーンはローランと二人、焚き火の向こう側でそっと見つめ合っていた。
「ムーン……」
ローランが低く囁くと、ムーンの心臓が跳ねた。サマルが起きてしまうかもしれない。それなのに、彼女の胸は期待と興奮で高鳴っていた。
彼がそっと手を伸ばし、ムーンの頬に触れる。熱を帯びた指先が滑るように動くと、ムーンは抗うことなく目を閉じた。
「……っ、ん……」
静寂の中で触れ合う唇。
最初は軽い口づけ。しかし、ムーンが唇を開いた瞬間、ローランは遠慮のない情熱をぶつけるように、彼女の唇を深く貪った。
「んっ……ふぁ……っ、ん……」
舌と舌が絡み合い、熱い吐息が交わる。サマルがすぐそばにいる――その背徳感が、ムーンの感覚をさらに敏感にさせた。
ローランの舌が彼女の口内を激しく探り、甘く吸い上げる。
「……っん、んぅ……っ」
ムーンはローランの肩をぎゅっと掴んだ。彼の舌が何度も絡みつき、彼女の奥を刺激する。
それだけではない。彼は意識的にムーンの上あごを擦るように舌を動かした。
「っ……んぁ……!」
身体が震え、膝が力を失う。口内をなぞる舌の感触が、ムーンの全身を痺れさせる。彼女は無意識にさらに深く求め、ローランの唇を吸い返した。
焚き火がぱちぱちと弾ける音の合間に、かすかな水音が響く。
「……もっと……」
ムーンは息を乱しながら、掠れる声で囁いた。
背徳の夜の中、サマルがいつ起きるかわからない状況で、彼女はローランとの情熱的なキスに完全に溺れていた――。
焚き火の炎が揺れる静寂の夜。ムーンとローランの唇が深く重なり、熱い息遣いが交わる。彼の舌が上あごをなぞるたびに、ムーンの身体は敏感に震えた。
「ん……っ、ふぁ……」
背徳感に背中を押され、より深く、激しく求め合う。誰かに見られているかもしれないという緊張感が、ムーンの感覚をさらに研ぎ澄ませていく。
そんな時だった。
ローランが唇を離し、ムーンの耳元で囁く。
「……ほら、サマルを見てみろ」
ムーンは一瞬、困惑した。ローランの視線の先を追うと、すぐそばで寝ているはずのサマルの身体が目に入る。暗がりの中でもわかる。彼の呼吸は深く、まるで熟睡しているように見えた。
だが――ムーンの目は、一点に釘付けになった。
「……っ!?」
サマルの寝姿に違和感を覚えたのだ。シーツの下でわずかに動いたように見える身体。ズボンの布地が、不自然に盛り上がっている。
息が止まる。
彼は、本当に寝ているのだろうか?
ムーンの胸がドクンと大きく跳ねた。まさか……起きている? ずっと、このやり取りを聞いていた?
急に冷静になりかけた彼女は、ローランから少し身を引き、震える声で囁く。
「ローラン……もう……やめたほうが……」
しかし、彼の手がそっとムーンの頬を包む。
「やめられるのか?」
低く囁かれるその声に、ムーンの身体がびくっと反応する。
そう――彼の言う通りだった。確かにサマルが起きていると気づいた。羞恥に顔が熱くなる。しかし、一度火がついてしまった身体は、簡単には冷めてくれなかった。
唇を離したまま、ムーンは荒い息を吐く。胸の内側が熱を持ち、むず痒い感覚が広がる。
サマルが起きている。彼に知られている。
その事実が、なぜか彼女の心を激しく揺さぶり、逆に感覚を研ぎ澄ませていく。
自分でも抑えられない衝動が込み上げ、ムーンは再びローランに顔を寄せる。
「……もう、わからない……」
そう呟いた次の瞬間、彼女の唇は再びローランのものを求めていた。
サマルの気配を意識しながら、なおも深く、激しく求め合うキス。羞恥と興奮が絡み合い、ムーンの身体は今までにないほど敏感になっていくのだった。
ムーンは、ローランとの関係を、サマルには隠しているつもりだった。
たとえどれだけローランが激しく求めようとも、サマルの目に入る場所では決してそれに応えなかった。サマルへの罪悪感が、彼女の中に確かに存在していたからだ。
だが――
今、サマルは目を覚ましている。少なくとも、ムーンにはそう確信できた。
心臓が跳ねる。血の気が引く。だが、それ以上に彼女の内側に広がっていくものがあった。
「……もう、バレてるのね……」
その事実が、ムーンの理性を決壊させた。
これまでは罪の意識があった。だからこそ、どんなにローランに求められても、ギリギリの一線で踏みとどまっていた。
けれど、今――
もうすでに知られてしまっているのなら、隠す必要もないのではないか?
そう考えた瞬間、ムーンの心はふっと軽くなった。そして、代わりに身体が熱を帯びていくのを感じる。
「……ムーン?」
ローランが、彼女の様子の変化を察したように、そっと顔を覗き込む。ムーンはその瞳をじっと見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
「……ローラン……」
そのまま、彼に身を寄せる。
もう、引き返すつもりはなかった。
サマルが見ているかもしれない。サマルが知っているかもしれない。
それを意識すればするほど、ムーンの身体は敏感になり、理性はどこか遠くへと消えていった。
焚き火の揺れる明かりの中、静かな夜の帳に包まれながら――ムーンは、ローランの腕の中に身を委ねていった。
焚き火の赤い揺らめきが、静寂の夜を幻想的に照らしていた。
サマルがすぐそばで寝息を立てている――そう思っていたムーンは、ローランに求められても、これまでは静かに応じるだけだった。サマルに悟られないように、できる限り息を潜めていた。
しかし、もう違う。
彼は起きている。
そう確信した瞬間、ムーンの中の何かが変わった。
今さら隠す意味などない。バレてしまったのなら、もう遠慮する必要もない。
「んっ……ぁ……っ」
抑えようとしていた声が、自然と零れ落ちる。夜の帳の中、誰にも遠慮する必要がないかのように、甘い吐息が闇に溶けていった。
「ムーン……」
ローランの低い囁きが耳元をくすぐる。彼の手が自分を求めるたびに、ムーンの身体は敏感に反応し、熱を増していく。
「んっ、はぁ……あ……ん……っ」
まるで焚き火の炎のように、熱が高まる。
「ふぁっ……あ、あぁ……っ、ローラン……っ……」
今まで抑えていた感情が、音になって解き放たれる。
これまでは必死に抑えていた。サマルの目があるから、声を漏らさないように、必死で耐えていた。けれど、今は違う。
「んぁっ……っ、だめ……っ、もっと……もっと……ぁ、あっ……!」
羞恥心と快感がない交ぜになり、抑えきれない声が響く。
どこまで声を上げても、もうサマルには知られているのだから、隠す必要もない。
「ローランっ……ぁ、あぁ……も、っと……んんっ……っ、あ……んぁっ、あっ……!」
甘く蕩けるような吐息が次々にこぼれ、身体が熱を帯びていく。
いつしか、ムーンの声は震え、呼吸は浅くなり、身体の芯がじんわりと熱くなっていく。
「……っ、ふぁぁ……んぁっ、んっ……っ、あっ……んぁぁ……! も、もう……っ……ふぁぁ……!」
一瞬、視界が揺れたような感覚がする。全身に波のような熱が広がり、何も考えられなくなる。
「……あっ……あぁ……んぁぁっ……! ローランっ……んっ、ぁぁぁ……っ!」
ローランの手が自分を包む中、ムーンはただ、その余韻に身を委ねていた。
焚き火が、ぱちりと弾ける音がする。
闇の中、熱を帯びた呼吸だけが、静かに響いていた――。
********************
サマルティアの城の寝室の中、二人の若い夫婦は長い間キスを続けていた。
静寂の中、唇が重なり合う音と、湿った吐息の混じる音、そしてムーンの甘く柔らかい声だけが、夜の帳に響いていた。
サマルは、腕の中の妻を優しく抱き寄せながら、ゆっくりとその唇を貪る。ムーンもまた、愛しい夫の温もりに身を委ね、求めるように口づけを返した。
だが――ふいに、ムーンの動きが止まった。
唐突な変化に、サマルは眉をひそめ、そっと妻の顔を覗き込んだ。
ムーンは、泣いていた。
頬を伝う涙が、唇を濡らし、サマルの肌に落ちる。
「……ムーン?」
穏やかなはずの夜に、突如落ちた一滴の悲しみ。サマルの言葉に反応することなく、ムーンはただ震えながら、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めた。
「……ほんとうに、ほんとうに……あなたのことが好きなの、サマル……あなたが、わたしの……すべてなの……」
しゃくり上げる声が、部屋の静けさの中に滲んでいく。
「でも……でもダメなの……っ」
ムーンは両手で顔を覆い、首を振る。サマルの手がそっと彼女の肩に触れるが、ムーンはその手を振り払うように、さらに身を縮めた。
「どうしても……どうしてもローランのことが、頭から離れないの……」
その名が口からこぼれた瞬間、サマルの胸がわずかに痛んだ。しかし、それを表に出すことなく、彼は静かにムーンの言葉を待った。
「あなたと……こうして幸せなキスをしているときも……目を閉じれば……あいつの笑顔が浮かんでくるの……」
涙が後を絶たず、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「……冒険の時にしたキスの記憶が……消えないの……」
サマルは何も言えなかった。ムーンの言葉は、彼に対する裏切りではなく、彼女自身の苦しみの吐露だった。
「……っ、下半身がうずくの……」
震える声で呟くムーン。
「ローランが……欲しくなるの……どうして、どうしてなの……っ」
彼女の身体は小刻みに震え、崩れ落ちそうになっていた。
「……ごめんなさい……ごめんなさいサマル……」
嗚咽混じりの声が、寝室の空気を震わせる。
「すきよ、すきよ……サマル……信じて……っ」
叫ぶように、縋るように、ムーンはサマルにしがみついた。
サマルは何も言えず、ただその震える身体を抱きしめるしかなかった。彼女の涙が、彼の肩にしみ込んでいく。
愛している。
愛しているのに、どうして――
ムーンの心に満ちるのは、後悔と混乱、そして消せない過去の亡霊だった。
サマルの腕の中で、ムーンは泣き続けた。
彼女の絶望は、どこまでも深かった。
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