月が導くTS道中
ネカマプレイにご用心
・・・・
今日 21:10
うなどん「し・ご・お・わ」
MM「乙」
半月「おつー」
うなどん「今からBBインするけどだれかゆるぼ」
楽夫「うなニキ今どこだっけ?アクアジョトル?」
うなどん「いやちょうどそこ昨日終わったわ、回廊ボスの寒ブリタイラントきもすぎね?BBの嗅覚再現がまじで要らなかった」
楽夫「おーおつ、あそこは俺嗅覚フィルターONにしたわwwwww」
うなどん「真剣に魚介系PN引退を決意したよね」
半月「アクアジョトルっていうと……ちょっと前の最前線?」
うなどんが攻略した、と言うのは、Ver.3.0の第18回廊。
第18エリアのメイン拠点、「水の都」アクアジョトルはBBサービス開始以来の美麗都市マップとして、ゲーム情報雑誌「BB OFFLINE」の最新号にも掲載されていた。
しかし拠点の壮麗さとは裏腹に、プレイヤーの生理的嫌悪感を誘発したのが当該エリアの回廊ボス、「寒ブリタイラント」。
頭部はブリの頭、それ以外の体は筋骨隆々な巨人の肉体と、ちぐはぐな容姿の大ボスである。
そのいびつな容姿のみならず、フルダイブVR世界において忠実に再現された嗅覚機能を活用(?)した、魚特有の潮臭と裸の巨人の肉体の汗臭さのマリアージュ………
当時の攻略最前線のプレイヤーによれば、「一ヶ月放置された学校の掃除用雑巾の匂いに腐った牛乳をブレンドした感じ」との談である。
壮麗な拠点の高評価とは裏腹に、史上最低評価と名高い回廊ボスであった。
楽夫「そ、だいたい二ヶ月前とかだっけな~俺もレイド一応いたけど全然近づけなかったわw
LAST ATTACKは余裕で征竜のロリっ子に奪られちゃったよね」
MM「オイ楽お前、それあいつの目の前で言ったら殺されるぞ……所持品全ロスは覚悟しろ」
LAST ATTACK DROP 。回廊ボスを始めとする、レイドボスや大ボスに対してのトドメの一撃を与えたプレイヤーにもたらされる、レアリティと希少性の高いドロップアイテム。特に回廊ボスの初回攻略時の緊急レイドではほぼほぼユニーク同然なレアアイテムやレア装備がドロップすることが鉄板なため、数多くの攻略プレイヤーがそれを求めるわけだが………
MM「にしても、確かにあの『天斧』は最近やべぇな。18だけじゃなくて前回の19も
楽夫「あれはァ、まじで麻痺のスタンがなけりゃ確実に俺だったの!!!未だに征竜の意図的
半月「『天斧』っていうと、大手ギルドの二番隊隊長………」
攻略の最前線など、目立つ位置で活躍するプレイヤーは、その名前と共に世間的にも有名になる。
特に攻略最前線の大手ギルド、『征竜遊団』の二番隊隊長……先日の「BB OFFLINE」でも特集が組まれていた、<疾すぎるロリっ子>こと、 『天斧』のリルカ。(なお、この記事執筆者は公開以後BBのマップ内にログインしている様子を見た者がいない、という怪奇現象に見舞われている)
推定レベルは74。戦闘スタイルは
楽夫「ゲーム開始一ヶ月で征竜入り、加えて三ヶ月で二番隊隊長に就任。チートを疑った前線のベテランプレイヤーとは決闘場の3本勝負で余裕のストレート……」
MM「唐突すぎる英雄の登場、あまりにも疾すぎるその天賦の才に、その戦斧を称賛して付けられた異名が『天斧』。いやぁ、あまりに主人公過ぎて肩身が狭いね」
楽夫「逆産したら今まだ始めて半年行くかいかないかってとこでしょ!?それでLAD獲られたなんておじさん泣いちゃう」
それまでにフルダイブVRMMOの経験があったのか、どうなのか。
いずれにせよ、あまりにも疾すぎるその活躍と最前線への到達に、上級者初級者問わず、畏怖の感情を多く集めている。
MM「『天斧』のLADと言えば、そういえばあの辺りから言われてみれば……Liesayのやつ、見てねえな~」
そういえば、と。
ちょうど同じ時期、二ヶ月前くらいのチャットを皮切りに、Liesayが浮上していないことを指摘するMM。
楽夫「あれからそんなに経つのか。オンライン履歴は近いからなんらかのゲームをやってんだろうけど―――一体今はどのタイトルをやり込んでるのやら」
うなどん「案外BBにハマりすぎてて全然浮上してなかったりしてww」
MM「いやぁ、あのLiesayがVRMMO?そんなんあるわけ」
――――ない、ない。
それは、満場一致の見解だった。
半月「Lニキ……もしやってるとしたら、進度同じくらいかな」
MM「あー、半月もそろそろBB始めて二ヶ月ってところか。今どのへん?3.0は既存バージョンよりだいぶ難易度上がってるから、ボス攻略とか厄介だと思うけど」
半月「第5エリアの回廊前で止まってる。ボスに行くまでの道中が普通に一苦労……」
うなどん「5っていうとあの和風な感じのところだっけか。懐かし~」
MM「
楽夫「確かに、攻略組もあそこで混成パーティ作ってたもんな、懐かしい。BBビギナーもよく5で詰まるって最近聞くし、割と最適解かも」
半月「なるほど、試してみるか…。今から行ってみるよ」
楽夫「おうおう、またなんかあったら言ってな~おじさん最前線もう飽きちゃったし」
MM「泣き言言ってる暇があるなら、第20回廊の攻略考えるぞ。次も『天斧』にLAD奪られたくないだろ?」
楽夫「まぁそれはそうだけどさッ!ほんなら半月、落ちるわ~」
MM「俺も。第5回廊、頑張れな」
半月「う、うん。ありがとう。俺も落ちる………」
・・・・・
「ふぅ……。」
そこに無造作に置かれているのはエニグマ社製最新VRヘッドセット、「レインカーン」。黎明期に各社から多く出たプロトタイプがヘッドギア型の無骨なフォルムであったのに対し、エニグマはスタイリッシュな洗練されたヘッドセットを数多く展開している。特に最新の「レインカーン」はプレイヤーへの身体的負荷も極めて少ない高性能品でありながら、現実的な値段で購入が可能な優良品だ。
机の上に置いていた水筒の水を飲み、しっかりと水分を蓄える。
また、学校帰りから身の着のままにしていた制服を脱ぎ、ハンガーにかけてドアにひっかけておく。
衣替えで冬服仕様になった都立日々野谷高校のブレザーは、紅茶色の渋い暖色が瑠奈にとってのお気に入りだ。
下着一枚の身軽な装備になって、ベッドに横になる。部屋の証明を遠隔操作で消すと、そのまま足元に転がっていたレインカーンを取り付ける。
目をゆっくりと閉じると、自動的にレインカーンの起動音が響き……脳裏に直接、ゲーム画面が映し出されていく。
(起動ソフトウェア――BB、選択)
瑠奈のお目当ては、やはりVRMMOの頂点をゆくモンスタータイトル、BB。
起動プログラムの選択が確認されると、レインカーンの駆動音が大きくなり、次第に瑠奈の意識も暗転していく。
幽闇の中に意識が吸い込まれていく中、瑠奈は独り思考する―――
(
・・・
「ん………」
起動時のしばしの暗転の後、瑠奈の意識は覚醒する。
周囲を見渡すと、そこは木造の一室。
前回ログアウトした際に利用していた、宿屋の一室であろう、と推察する。
瑠奈はそのままステータス画面を呼び出し、現状を確認する。
Player:ルナ
Sex:F
Player Lv.:24
Job:魔剣士
Main Weapon:片手剣
Main Magic:ホーリー・フォース
Fate:月輪
Stats:
HP体力:101
AMP攻撃魔力:94
SMP補助魔力:72
STR筋力:103
DUR耐久:78
CONスタミナ:98
AGI敏捷:96
POW精神力:71
DEX器用:58
LUC幸運:54
Skill:
片手剣スキル II
レイピアスキル I
ホーリー・フォース II
料理 II
魔導技巧(Job Skill)
月光 (Fate Bond)
Passive:
詠唱短縮 I
魔力効率 II
月輪駆動 (Fate Bond)
瑠奈……ルナはココ数週間、今いる街、フジモトに
ルナの現行のレベルは24。これは第5回廊であるフジヤマの推奨レベルの23を超える数値であるが、数字5つ毎に移り変わる
基本的にソロでの攻略をしていたルナにとっては、パーティプレイ前提の難易度の第5回廊を前にして、手詰まり以外の何者でもない状況に陥ってしまったのである。
「せめて夜なら……と思ったけど、第5回廊は洞窟ダンジョン。天候の概念がない以上、それも無理か……」
ルナの運命は『月輪』。紐づけられたユニークパッシブは『月輪駆動』。これはフィールドに月光が差し込んでいる状況に限り、ルナのステータス全てにバフがかかるというもの。
平原マップの第3回廊では、挑戦する時間帯を調整することでこのパッシブの効果を十二分に発揮し、難なく攻略を行ったが、月光の差し込む隙間のない第5回廊では、この作戦は機能しない。
「フジモトの酒場とかに行けば、似たような境遇のビギナーがいいるんじゃない?」
先ほどのMMの助言が脳裏をよぎる。
確かに、これだけの難易度差がある状況だ。それまでソロで攻略していたプレイヤーも、同じ状況に陥っていたとしてもなんら不自然ではない。
とすれば、彼らを探し当て臨時でもパーティを組んでしまえば、回廊の攻略も現実的というもの。
「善は急げ、ね」
そう言うと、装備欄からフル装備のプリセットを呼び出し、ルナは装着する。
女剣士用の軽装で、第4層で購入したレザーがベースの革鎧だ。
腰には第3層回廊ボスのソロ討伐報酬の金属の腰当てをつけ、スカートを補強する。
Sex:F。
半月=望月瑠奈=ルナ。
数ヶ月前にBBの世界の戸を開いた女剣士が、第5回廊直前の街……フジモトの市街へと歩き出す。
・・・・
「そこのお嬢ちゃん!一緒にパーティ組んで回廊攻略いかないかい!?」
「クーーールなお姉さん、ぜひ僕とともに蜜月のパーティ編成をッ!」
「お願い!お願いだから一瞬だけでも!先っちょだけ!先っちょだけパーティ組んでもらえればいいからッ!!」
MMの予想は当たっていた。
フジモトの酒場には、彼の予想通り高難易度の第5回廊を攻略するためにパーティメンバーを募集しているプレイヤーが数多くたむろしていた。
同一
それゆえ、第6エリア以降の区域に突入するためには、どう足掻いてもまずこの第5回廊を突破するほかに手段はなく、それゆえにこそ。ここの酒場はそういった回廊攻略目当てのプレイヤーが数多く溜まっていた。
しかし、MMに誤算があったかといえば唯一つ。
それは、半月=ルナが女性プレイヤーであるという事実を知らなかったということ。
そして、それによって付随して起こる問題………
端的に言って、
「最っ悪………下心丸見えの人たちしかいない………そりゃあ女性プレイヤーが珍しいのはわかるけど、何をそんなに躍起になってるんだか」
これもまた、ルナが頑なにここまでソロでの攻略を続けていた理由の一つである。
BBがMMOという形式を取る以上、どうしてもそれを構成するプレイヤー群は、ネットゲーム界隈の男女比のソレを踏襲する。
加えて、大前提、根本的に現実世界の性別とは異なるアバターを使えないフルダイブVRMMOの都合上、ゲームフィールドに存在する女性プレイヤーの数は、限りなく少ない……と言って良い。
そんな状況にあるからか、というより、そんな状況だからこそ、とでも言うべきか。
いまルナが受けたような扱いは、BBのマップのいたるところで散見される。
超希少な女性プレイヤーの存在と、それらにお近づきになろうとする男性プレイヤーという醜い構図。
「こうなるのが嫌で、ソロを貫いてたんだけど………」
……早くも心が折れそうなルナ。
ひとまず酒場の奥のカウンターへと向かうと、バーテンのNPCに通貨を支払って飲み物を要求する。ここではフジモトの特産品である米を用いた清酒が名物だ。
現実世界ではまだ嗜めない酒などの嗜好品の類を、身体的侵害なく楽しめるのもまたフルダイブVRの利点だ。注文の品が届くまで、ぼんやりと入口の方を眺めながら思索に耽る。
――――と、その時。
ぎぎぃ、と酒場のドアが開いたかと思えば、そこには誰もが目を奪われる光景が広がっていた。
無骨な木製の酒場のドアから出てきたのは、艶がかった銀髪を華麗になびかせる美少女。
少し華奢な体格をしているが、そのくびれた腰、長い手足、そして宝玉のように透き通った肌は、ここがVR世界であるという事実を差し置いても、現実離れした妖艶さを醸し出していた。
それでいて、顔立ちは少し童顔チックな風貌で、少々ツリ目がちな瞳と、あどけなさが残る目鼻の配置、そしてはにかんだ笑顔が可愛らしい、まさしく正統派な美少女と呼んで然るべき存在だった。
(か、かわいい………!)
自惚れるわけではないが、BBを始めて以来何度も男性プレイヤーに声をかけられていたルナは、多少は自身と、自身のアバターの容姿に自信を持っていた。
持っていたが―――さすがにこの子は、可愛すぎる。
(は、ハーフの女の子とかなのかな……顔立ちからして日本人離れしてる……すっごいかわいいっ!)
気づけば、周囲の男どもも先程の喧騒を忘れ、いまや全員が固唾を飲んで静かに美少女の言動を見守っている。
中にはシャッター音を極小に抑えて、隠れて写真を取っている者も。
――――っておい、盗撮はマナー違反だろうが!
「あのー………」
ごくり。
わかりやすく、酒場中の人間がつばを飲み込んだのが反響した。
皆が皆、いまやこの美少女の一挙手一投足を見守っている。
「第5回廊を攻略したいんですけど、誰かパーティに入れてくれませんか…?♡」
きゃるーん。
そんな擬音が背景に出てきたようで、思わずルナも目を覆う。
(あ、あざとかわいい……しかしそれが良いッ!!……って、おっさんかわたしはっ!)
そしてその言葉が成すところの意味を、周囲の男性プレイヤーたちが認識したところで、
「「「「「「「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!」」」」」」」
BBサービス開始以来の、雄々しき「歓喜の歌」が、第5エリアじゅうに響き渡った。
◇◇◇◇◇◇
小ネタ(と言う名の設定メモコーナー)開設。
気が向いたら大事な設定も書くかもしれません。
・
BB世界における、5つのエリアの集合。
第1~5エリアが世界区域 I、6~10が世界区域 II…といった形で存在する。現在のBB Ver.3.0の最前線は第20回廊直前のため、世界区域 IVまでが開放されているということとなる。
各世界区域ごとにコンセプトが存在し、通例世界区域 Iは王道和製ファンタジーの風景で各バージョン共通。世界区域 II以降は各バージョンで様相を異にし、またその代わり様も、それまでの世界区域とガラリと雰囲気が変わる。
・半月=望月瑠奈
都立日々野谷高校二年。現在はA組で、一年生の時に御面理成と同級生だった。
サーバーで男口調を貫いていたのは、ある人物に素性をあまり明かしたくなかったから。ソレに加えて、単純に昨今のネットゲーム界隈では(隠しようのないVRアバターは除き)女バレはあまり好ましくない、とは本人の談。
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