二度目の死に戻り

 燃え盛る木の下敷きになった。

 そこからの記憶があまりない僕だったが、ゆっくりと自分の意識を覚醒させていく。


「……う、うぅん」


 そして、目を覚ました僕は判然としない意識のまま、周りを見渡して自分の状況を確認していく。


「ど、何処……ここは?」


 自分が今いる場所。

 そこはどうやら木と木の間のようで、自分の下には白い何かが張ってあった。


「くるくるくる」


 ここは……僕が疑問に思った瞬間、何処かで聞いたような鳴き声が聞こえてくる。


「……ぁ」


 嫌な予感。

 それらを自覚する僕が震えながら、視線を鳴き声のした方向に向ければ、そこにはいるのはまた、あいつだ。


「くるくるくる」


 あいつが、僕のことを殺した蜘蛛の姿があった。


「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」


 その姿を見た瞬間。

 僕はほぼ反射的に、逃亡を開始する。自分の中にあったのは恐怖だった。

 その場から僕は転げ落ちた。かなりの高さから地面に落ちた僕は当然、痛みを知覚するが、それよりも僕の中にあったのは逃げたいという気持ちだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……んぁ」


 そんな気持ちに従い、僕はただひたすらに息を切らしながら走り続けていた。


「あっ?」


 だが、その途中で僕は己の足の方で熱を感じると共に、一瞬の浮遊感を感じた後に地面へと転がる。


「あぁぁぁあああああああああああッ!?」


 激痛が足元から脳天にまで走り、僕の口から悲鳴が上がる。

 苦しい。痛い。助けて。

 激痛による激痛。心の底からの激痛を受けての叫び声。無限に続くかのように思われた、そんな激痛に苛まれる時間は……だが、すぐに終わった。


「……ァ」


 自分の首元に走った僅かな衝撃。

 それを受け、自分の首と胴体が別たれたことにより、その何もかもが消えてなくなった。


 ……。


 …………。


 終わった。

 僕がそれをはっきりと自覚したその瞬間。


「……ぁ」


 落ちていったはずの意識が再浮上し、痛みも熱も、二度無くなる。

 暗く閉ざされたはずの自分の瞳は再度光を映し、目の前にある光景を再度知覚させる。

 また、戻ってきた。


「……あぁ」


 だけど。

 僕はゆっくりと周りを見渡す。

 自分は今、高いところにいて、自分下にあるのは白い糸。両隣には森の大火事の中にあっても、燃えることなく立っている二本の大木。


「くるくるくる」


 後ろを振り返れば、そこにいるのはあの蜘蛛だ。


「はっ?」


 死に戻った。

 また、あのスキルが発動した。


「……ッ」


 で、でも何でよりにもよってここなんだっ!

 死に戻り先。

 そこは僕が燃え盛る木の下敷きになって気絶した後、蜘蛛のいた場所で目を覚ましたところだった。


「……クソっ」


 逃げ出したい。


「……あぁぁぁ」

 

 だけど、ここで逃げたら殺される。

 先ほどの、先ほどの痛みが、恐怖が、残り続けている僕はそこから動けなくなるのだった。

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