人体反顚計画

有馬千年

第1回取り調べ

 はい、はい、そうです、私がやったことに間違いありません。


 全て現場検証のときに刑事さんたちがご覧になった通りです。


 現場となった廃工場、あそこは少なくとも10年前からは誰も立ち入っている様子がありませんでした。


 不法侵入の罪にも問われますか?


 今回の件に比べれば、些細なものでしょう。

 そういうわけで、私はあの場所をステージとして選びました。


 自宅からそこそこ離れてはいるものの、私の計画を実行するのにこの上なく好都合だったんです。

 だって、あの工場のそばには人家もないし、滅多に人も通らないでしょう。

 それになにより、実行に必要な装置や環境が大方揃っていましたから。


 現場は凄惨だったみたいですね。

 みたい、というか、実際私も見たし、やったのは私ですが。


 コンクリートの地面一帯が、ニス塗りしたこげ茶のフローリングみたいになっていました。

 血というのはやはり、乾くと鮮やかな赤ではなく、黒に限りなく近いチョコレート色になるのだなぁと感激したものでした。


 それにしても刑事さん、血液というのは、あんなにもたくさん人体を満たして流れているものなのですね。

 平均的に1人あたり4〜6リットルというのが相場だそうですが、それが一面に広がると、バケツ1杯分とは侮れない量なのだなぁと嘆息いたしました。


 それから、においです。

 血の臭いというのは想定外に濃厚で強烈で、今でも鼻の奥に残っている気がします。

 当初危惧していた腐敗臭なんかよりも、血のほうがずっと手強かったです。

血腥ちなまぐさい」という表現を作った人は、実際に嗅いだことがある人だと思いますね。

 刑事さんも嗅いだでしょう。

 もっとも、嗅ぎ慣れて、飽きてすらいるかもしれませんけど。

 そういうのが仕事でしょうから。ふふ。


 なぜあのような事件を起こしたか、作業の手順、被害者との関係、途中で起きた予期せぬトラブルに至るまで、追々全てお話しますから、今日のところはもう休ませてくださいませ。

 それではまた明日。ごきげんよう。

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