第51話 王子閃さんは朱くなる

「いえ。秋聲先生の、物語の凄さを、実感していただけです」

 過去作られた作品が、私に想像もしていなかった現在いまをくれた。

 それは、こんなにも嬉しいことなのか。

「?」

 首を傾げる王子さんに、きちんと説明する。

「こちらのお店に並んでいる酒瓶に圧倒されまして。それぞれ美しいなあと感動していたんです」

「確かに、改めて見ると圧巻だな」

「はい。……それで、お酒が呑めるようになったら呑んでみたい、と自然に思いまして」

 今まで、そんなことを思ったことも考えたことも無かったのだ、と私は言った。

「だから、新しい夢が出来て、世界が広がったのが、嬉しくて。切欠きっかけは、王子さんと出逢えたことでしょう? そして、その王子さんとこうしてお話出来るようになった切欠は、卯辰山登山……秋聲先生の足跡たどりですから」

 私は、王子さんがこの間言ってくれたことをなぞるように言った。

「王子さんに出逢えて良かった」

「!」

「出逢わせてくれた先生に、感謝ですね」

 王子さんの頬が、朱に染まる。刷毛で、さっと掃いたみたく鮮やかに。

「……自分も、感謝したい」

 王子さんの言葉に、今度は私の頬が朱くなった気がした。

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