第40話 王子閃さんは無自覚に誑す
「でも、王子さんは無理じゃないわけですし」
「体力を持った人間が、持たない人間に合わせるのは当たり前だろう?」
王子さんの言葉に、目から鱗が落ちる。
「……逆かと思ってました」
「逆だと、相手に無理を強いることになる。さっきも言ったけど、それは良くない。もちろん、身体を鍛えるとか、そういう状況だったらまた別だけど」
それだって無理は禁物だから、そのときは別々のメニューにしたりすればいいわけで。
と王子さんが続けた。
「自分は、南雲さんと一緒に秋聲先生の足跡たどりがしたい。それは、体力を付けたいとか、身体を鍛えたいとかと、また別の欲求だから。合わせるなら、南雲さんに合わせるよ。二人とも楽しいのが良い」
「……っ!」
『一緒に』『二人とも楽しいのが良い』
こんな素敵な言葉が、さらりと飛び出してくる。
王子さんは、誑しだ。天然の誑し。ぐう、と咽喉の奥から声にならない呻きが漏れた。
「……駄目だろうか?」
少し眉を寄せそう問う王子さんに、私は首を振った。
「駄目じゃないです」
「良かった」
彼女の眉間に寄った皺がパッと晴れる。ほっと笑みを零す。その笑顔に、こっちまで嬉しくなってしまう。本当に、この人は。
「では、その。またご迷惑をおかけしますが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます