第25話 南雲瑞穂さんは行き止まる

「……自分も」

 屈託のないその笑みが眩しくて、自分の頬も緩む。

 この胸で跳ねる気持ちをもし外に出せたら、きっと自分は彼女の手を掴んで駆け出してしまっただろう。

「そろそろ端が見えてきましたが……」

「それっぽい駐車場は、全然見当たらなかったような」

 だが、我々のわくわくも虚しく、道は無情にも行き止まる。

「見落とした……?」

「通りが違うんでしょうか? いえ、でもこの書き方だと」

 南雲さんが本を取り出し(本当に持ち歩いているのだ)、確認した。

「やはり、この通りっぽいんですよね……」

「ブログを確認しても、そんな感じだし」

 振り返る。今まで歩いてきたはずの道なのに、まるで知らない道のように見えてドキリとした。

「……ますます、小説の中に迷い込んだみたいです」

 南雲さんが、口角をぐっと上げて言う。

「楽しいですねっ」

 若干自棄の入っている口調だったが、強気な気配が心地好い。

「だな!」

 自分も、力強く頷いてみせた。

「秋聲さんと、お揃いだ」

「はい、再現ですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る