第9話 休息から始まる未来

 優奈は、あれから少しずつ変わり始めていた。初めて真に「休んでいい」と言われたあの日から、彼女の心の中に変化の兆しが見え始めた。最初は疑問を抱きながらも、真の言葉に従い、自分のペースで休息を取ることを決めた。それから数週間、優奈は心身の疲れを少しずつ解消し、穏やかな表情を取り戻していた。




 「こんなに楽になったのは初めてです。」


 優奈は真にそう告げた。その言葉には、これまで感じたことのない安堵の色が滲んでいた。


 「本当に、少し前の私は、こんなに気持ちが軽くなるとは思いませんでした。ずっと、自分に厳しくして、頑張らなければならないって思っていました。」


 真はその言葉を静かに聞きながら、自分の中でも何かが変わりつつあることに気づいていた。優奈の言葉が、ただのクライアントからの感謝の表現以上の意味を持っていることを感じた。




 優奈が休息を取ることで回復を実感し始めたことは、真にとっても大きな学びだった。最初は無理にでも成長を促すべきだと感じていた自分が、いまや優奈のペースを尊重し、彼女自身の回復力を信じることの大切さを学んでいた。


 「優奈さん、これからはどうしたいですか?」


 真が尋ねると、優奈は少し考えた後に答えた。


 「今は、無理せずに自分のペースで進んでいきたいです。仕事や人間関係も、少しずつ見直していけたらいいなと思っています。」


 その答えに、真は温かい気持ちを抱いた。優奈が、自分の回復を確信し、前に進む準備を整えていることが、真にとって何よりも嬉しいことだった。




 その日のセッションが終わると、真は瑞穂にその報告をした。瑞穂は真の成長を優しく認め、こう言った。


 「良かったね。君が優奈さんの回復に寄り添ったことで、彼女も自分のペースで前に進む力を見つけたんだ。」


 「でも、まだ迷いがあるんです。休むことを大切にしながら、どうしても成長を促さなければならない場面が来ると思うんです。どこまで休ませるべきか、その判断が難しくて…。」


 瑞穂は少し考えた後、穏やかに答えた。


 「その迷いこそが、君の成長だよ。全てが『正解』というわけではないけれど、君がクライアントの気持ちに寄り添いながら、最適な方法を見つけることが大切だ。それが、カウンセラーとしての成長に繋がるんだよ。」


真はその言葉を胸に刻み込んだ。自分の役割は、クライアントの心の声に耳を傾け、その時々に最も必要なサポートを提供することだと、改めて感じた。




 数日後、優奈は再び真にこう告げた。


 「私は、少しずつではありますが、自分に対して優しくなれた気がします。今までは、何かを頑張り続けなければ価値がないと感じていたけれど、今はそうではないって気づきました。」


 その言葉を聞いた瞬間、真は心から安堵を感じた。優奈は本当に、自分のペースで進んでいる。そして、真もまた、自分のペースで成長していることを感じていた。




 「休むことは、決して後退ではない。」


 それは、真がこれからも大切にしていく考え方だった。優奈とのセッションを通じて、休息と努力のバランスの大切さを学んだ真は、次にどんなクライアントと出会っても、その教訓を忘れないだろう。


 心の回復には時間がかかることもあるが、回復した後の未来には、きっと新たな可能性が広がっている。真はそのことを、これからもクライアントに伝え続けていくことを決意した。




 そして、真は次のセッションを迎える準備をしながら、自分の成長に少しの誇りを感じていた。心の回復から始まる未来は、優奈だけでなく、真自身にも新たな道を開いてくれるに違いない。

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