6-3 連携の力ー新たな決意
レヴァン、ゼフィア、ナディアの3人は、周囲の星喰いを撃退しながら前進していた。
ゼフィアの炎が巨大な星喰いの群れを焼き払い、ナディアの蔦が追撃を試みる敵を足止めしていた。
しかし、それだけではなかった。彼女の植物属性の星紋術は、その場に生い茂る根や茎を自在に操り、星喰いを絡め取った後に鋭く尖らせた枝を突き立て、次々と撃破していく。
「左側の敵は私に任せて!」
ナディアが叫ぶと同時に、地面から伸びた太い蔦が螺旋状に巻き上がり、敵の動きを封じた。そのまま鋭利な枝が敵の装甲を貫き、悲鳴にも似た星喰いの断末魔が響き渡る。
「助かる、ナディア!」
レヴァンが声をかけながら、目の前に立ちはだかる大型の星喰いに剣を振り下ろした。
風を纏った刃が敵の表面を切り裂き、巨体が大きく揺らぐ。
ゼフィアも負けじと、「火焔輪舞(かえんりんぶ)」を放ちながら、燃え盛る炎で複数の敵を焼き払った。
だが、星喰いの群れは絶えることなく押し寄せてくる。
「ナディア、後方の敵を頼む!」
レヴァンが指示すると、ナディアは矢筒から素早く矢を抜き、弓を引き絞った。
星紋術の力が込められた矢が、蔦によって拘束された敵に正確に命中する。次々と撃破されていく星喰いの群れに一瞬の隙間が生まれた。
「これで少しは進めるわ!」
ナディアが息を切らしながら言う。その間も彼女は攻撃の手を緩めない。
蔦で足元の敵を縛りつけた後、巨大な根を持ち上げるようにして敵を空中に投げ飛ばし、遠くの岩に叩きつけて粉砕する。
「俺も負けてられない!」
ゼフィアが炎を纏わせた槍を振り抜きながら言った。
彼の攻撃が大群を一掃する一方、ナディアがその隙を見逃さずに追撃の矢を放つ。
蔦で拘束し、矢で仕留める動きはまさに一糸乱れぬ連携だった。
「カイエンたちはこの先のはずだ!」
レヴァンが声を上げる。
全員の視線が次第に開けた空間へと向けられた。
5人が合流すると、カイエンは状況を的確に把握し、素早く指示を出した。
「ゼフィアとレヴァン、右側を押さえろ! ナディア、左を援護しろ! タリス、砂で中心を抑えてくれ!」
カイエンの声に全員が頷き、それぞれの位置に散開した。
その瞬間、星喰いの群れが一斉に襲いかかる。
レヴァンは剣を構え、突進してきた大型星喰いを迎え撃つ。
足音が大地を震わせ、空気が切迫感で満たされる中、風の刃を纏った剣を振り下ろしながら流れるように周りの星喰いも倒していく。
強烈な一撃が大型の星喰いの前足を切り裂き、鋭い風圧が敵の装甲を削り取っていた。
「ゼフィア、援護を頼む!」
「任せろ!」
ゼフィアが応じ、火焔輪舞かえんりんぶを発動。炎が渦を巻いて大型星喰いを包み込み、その体内を焼き尽くす。
焦げた皮膚から煙が立ち上り、星喰いは苦悶くもんの声を上げながら後退した。
「次が来るぞ!」
レヴァンが叫ぶと、ゼフィアは短槍を構え直し、次の敵に向けて一気に踏み込む。
「焔穿破(えんせんは)!」
ゼフィアが槍を突き出すと、炎の軌跡が空を切り裂き、中型星喰いの胸部を貫き破った。
その隙を見逃さず、レヴァンは風を纏まとった剣で敵の背後から一閃。
「やるじゃないか!」
ゼフィアが軽く笑みを浮かべながら、レヴァンと共に次の敵へと向かって行く。
一方、左側ではナディアが植物の根を地面から一斉に伸ばし、星喰いを絡め取っていた。
「これで少しは動きを止められる!」
ナディアの声と共に、星喰いが根の力に引きずられて動きを封じられる。
だが、次々と押し寄せる敵に、彼女は弓を構え、連続して矢を放った。
「天矢乱舞(てんやらんぶ)!」
天から降るように圧倒的な量の矢が乱れ飛ぶ。敵を次々と撃破していく。
その様を見ていたレヴァンとゼフィアは、口々に叫ぶ。
「そんな大技を持っていたとはな、流石だ!」
「やるな、ナディア!前衛の俺たちより倒してるんじゃないか!?負けてられないなレヴァン!」
「ナディア、助かる!そのまま左側を抑え込んでくれ!」
カイエンが指示を飛ばすと、ナディアは手を素早く動かしながら弓を引き続けた。
「任せて!」
根で足止めしつつ、遠距離攻撃で敵を排除するナディアの動きは洗練されており、左翼の安定を保っていた。
中央では、カイエンが光の剣を振るい、飛行型の星喰いを次々と撃ち落としていた。
「聖光乱刃(せいこうらんじん)!」
剣から放たれた光の刃が空中で輝き、飛行型の星喰いをまとめて切り裂く。
その背後では、タリスが砂嵐を発動させて地上の敵を撹乱(かくらん)・撃破していた。
「流砂壁(りゅうさへき)!」
タリスの周囲に砂が巻き上がり、強固な盾となって仲間たちを機動的に守る。
「流砂槍撃(りゅうさそうげき)!」
盾の裏側から槍を突き出し、中型星喰いの胴体を突き刺す。
防御と攻撃を上手く切り替えながら、確実に星喰いを倒していく。
「カイエン、次はあの大型の星喰いだ!」
タリスが指さす方向には、異常に巨大な星喰いが突進してきていた。
カイエンは即座に光の壁を形成し、その衝撃を受け止める。
「ここが耐えどころだ……!」
カイエンが戦場全体を見渡す中、右側のレヴァンとゼフィアの連携が大きな効果を上げていることを確認した。
(右側が一番星喰いの動きが怪しかった。激戦を予想していたが、二人の勢いに星喰い側が戦術を展開できていない。)
「ゼフィア、レヴァン!そのまま押し切れ!」
カイエンの指示に応じ、レヴァンが風と火を融合させた星紋術を発動。
「灼嵐旋(しゃくらんせん)!」
放たれた風と強力な火が相乗効果で威力を増しながら螺旋状に融合し、その爆発的な威力は一気に右側の前線を押し返した。
その隙にゼフィアが突撃。
槍による連続の高速突きが、敵の中心を突き崩す。
「全員、最後の力を振り絞れ!」
カイエンが全体に声を響かせ、戦場はさらなる激戦へと突入していく。
彼は、素早く戦況を分析しながら指示を飛ばした。
全員がカイエンの指示に応じ、それぞれの役割を全うしながら連携を強化した。
「ゼフィア、レヴァン、今だ!右側を完全に突破しろ!」
ゼフィアが短槍を構え直し、火属性の星紋術を発動。
「火焔輪舞(かえんりんぶ)!」
炎の渦がさらに広がり、星喰いの群れを丸ごと包み込む。
その中でレヴァンが剣を振るい、高速の剣技で追撃。
刃が風と炎を纏いながら敵を切り裂いていき、右側の前線が一気に崩壊した。
「左も続け!ナディア、頼む!」
「分かったわ、天矢乱舞てんやらんぶ!」
ナディアが放った大量の矢が星喰いを正確に射抜き、左側の敵が次々と倒れていった。
「中央も決めるぞ、タリス!」
「了解!」
カイエンが叫び、二人が同時に星紋術を発動。
「聖光刃覇(せいこうじんは)!」
「砂槍嵐撃(さそうらんげき)!」
光と砂の一撃が同時に中心を突き抜け、大型の星喰い諸共もろとも、敵の隊列を完全に崩壊させた。
星喰いの群れが次第に壊滅していく中、戦場には静寂が訪れた。
全員が息を切らしながらも、勝利の余韻に浸っていた。
「やったな……!」
ゼフィアが安堵の息を漏らす。
レヴァンは剣を鞘に収めながら、戦場を見渡していた。
「俺たちの連携が効いたな。」
カイエンはその様子を見ながら微笑んだ。
「そうだ。この経験を次に活かせ。」
そして、全員が次の戦いに備え、再び歩み始める準備を整えた。
その背中には、それぞれの成長と新たな決意が浮かんでいた。
戦闘が終わり、静寂が訪れる中、レヴァンは剣を見つめながら思案にふけった。
「一人ではここまで来れなかった……仲間との連携が、これほどまでに重要だとは……。」
カイエンが近寄り、肩に手を置いた。
「よくやった、レヴァン。これからもその才能を磨け。」
全員が互いの無事を喜び合いながら、次の戦いへの準備を誓った。
戦闘が終了し、安否を確認し合っていると伝令が近寄ってきた。
「報告!各地の戦闘が終了し、ヴァルストラ共和国一帯の星喰いの群れは討伐されました。ここも戦闘が終わったとお見受けします。カイエン部隊は、学園へ帰還し報告をお願いします。私はこれにて失礼します。」
「ありがとうございます。道中お気をつけて。」
伝令役とカイエンの短いやり取りを終えると、全員顔を合わせ移動に向けて準備を整え始めた。
「ふぅ、まともな休憩は帰還後か...」
「仕方ないわよ。まだ星喰いがいるかもしれない中でゆっくり休めないわ。」
「すみません。大規模展開が続いていたから、武器で戦えるくらいしかマナが残っていない。」
ゼフィアとナディア、タリスが口々に呟く中、カイエンが口を開いた。
「みんな助かった。全員、マナ消費が激しいはずだ。道中は俺が先頭でみんなを先導する。」
カイエンの心強い申し出に、レヴァンも安堵の表情を浮かべる。
彼自身もマナ消費が激しく、疲労が溜まっていた。
「途中、休憩を挟みながら帰還する。安全を考慮し、今日は野営をする。」
カイエン達一行は、帰還に向けてその場を後にした。
――数日後、激戦を終えたレヴァンたちは、数日ぶりに学園の門をくぐった。
疲労が色濃く表れた表情と傷だらけの体が、それぞれの激闘を物語っていた。
しかし、その足取りには確かな達成感が宿っていた。
学園の中央ホールには、すべての参戦者が集められていた。
そこには学園総帥と各ギルドの責任者たちが並んでいた。彼らの顔には安堵の色が浮かんでいる。
「諸君、本当にありがとう。」
総帥の穏やかな声がホールに響いた。その言葉と共に、誰もが自然と背筋を伸ばす。
「この度の防衛戦は、君たち一人一人の勇気と力によって達成できた。この街も無傷だ。犠牲が出たことは痛ましいが、未来に向けて進むための大きな一歩となっただろう。」
総帥の視線がレヴァンたちを含む選抜メンバーに注がれる。
その眼差しには、感謝とともに、次世代への期待が込められていた。
「特に選抜されたメンバーの諸君、君たちの連携と戦術には目を見張るものがあった。皆が一丸となって戦った結果、我々はこの地を守ることができた。これからも互いを信じ、力を合わせて歩んでいってほしい。」
総帥の言葉が終わると、ギルド責任者たちがそれぞれ前に出て参戦者たちを労った。
星の光のグラハム支部長が一歩前に出て、レヴァンに視線を向けた。
「レヴァン、お前はよくやった。星の光の名に恥じぬ働きだったぞ。」
その一言が、これまで以上に彼の胸に響いた。
学園への帰還から数日が経過し、レヴァンは宿でしっかりと休息を取った後、学園の図書館を訪れた。
広大な書架の間を歩きながら、彼は「連携戦術」と書かれた本を探し始めた。
「これだ。」
棚の奥から取り出した厚い本を手に、彼は静かな読書席に腰を下ろした。
そこには戦術や部隊指揮に関する専門書が並べられており、レヴァンは次々にページをめくっていく。書かれている内容は複雑で、部隊の編成や連携のパターン、特殊な状況下での対応策が詳細に記されていた。
「こういう配置だと、前衛が孤立しやすいのか……。連携を考えるなら、後衛からの支援が重要になるな。」
彼は自らの戦闘を振り返りつつ、記憶と照らし合わせながら一つ一つの項目を頭に叩き込んでいった。
――その日の午後、レヴァンは星の光でカイエンを見つけ、実戦形式の指導を嘆願した。
ギルドの訓練場で、二人は向かい合っていた。
「戦場ではよく動いていたな。だが、まだ細かい部分での連携が甘い。特に仲間との距離感の取り方だ。」
カイエンの言葉は厳しいが、その声には指導者としての温かみが感じられた。
レヴァンは剣を構え、彼の指示に従った。
「例えばこの場面だ。前衛が突き進む時、後衛との間にどれだけの距離を保つべきか考えろ。」
カイエンは砂を使って簡易的な戦場図を描き、具体的な動き方を説明した。
「なるほど。これなら、後衛からの援護射撃が届きやすくなる...」
「その通りだ。加えて、敵の動きを見ながら隊列を変えることも忘れるな。」
カイエンの指導の中で、レヴァンは実践的な知識を深めていった。
図書館と訓練場を行き来しながら、レヴァンは確実に成長していった。
その姿は、周囲から見ても明らかな変化であった。
「レヴァン、最近はランキング戦より知識を深めることに忙しそうね。」
セリーネが軽く笑みを浮かべて言った。
「あぁ。今回の討伐作戦で、連携や戦術の大切さをヒシヒシと学んだんだ。約束の地を探すのも大事だが、仲間を失わないように、俺にできることはすべてやりたいんだ。」
その言葉には、これまで孤独な戦士として生きてきた彼の新たな決意が込められていた。
「私も個の力に頼りすぎていたから、今回の討伐作戦はいい機会になったわ。私も負けてられない。いずれランキング戦で戦うことになると思うけど、その時が楽しみね。」
セリーネもまた、今回の討伐作戦で新たな決意を固めていた。
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