第25話 苦しみの冒険者
「でもさ、リディア。俺たち、行方不明の冒険者も探さなきゃいけないんだよな?」
リディアが真剣な表情で頷いた。
「そうよ。依頼の目的の一つだもの」
俺は少し間を置いてから、冷静に尋ねた。
「でもさ、冒険者が行方不明になったのって、いつ頃の話なんだ?」
セリーナが答える。
「確か、2週間前って話だったわ」
「2週間か……生存者なんているか? あんな化け物がいたんだぜ。俺だったら発狂してるな。こんなところに2週間も閉じ込められるなんて、地獄すぎるだろ」
俺の言葉にリディアが一瞬黙り込んだが、すぐにきっぱりと言い返した。
「そうかもしれないけど、万が一ってことがあるから探さなきゃ。生きてる可能性が少しでもあるなら、見捨てるわけにはいかない!」
セリーナも頷く。
「その通りね。どんな状況でも、希望を捨てるべきじゃないわ」
「じゃあさ、冒険者全員、さっきのシャドウゴーレムにみんななっちゃった事にして、もう帰るってのはどうだ?」
軽い冗談のつもりで言った俺だったが、リディアとセリーナの視線が一斉に冷たく突き刺さった。
「悠斗、それ、本気で言ってるの?」
リディアが怒りを抑えた声で睨んでくる。
「冗談よね? 冗談だと言ってちょうだい」
セリーナも呆れたように言う。
「ごめんなさい…冗談です。場を和ませようと思って…(ちょっと本気でした…もう帰りたい)」
俺は苦笑しながら肩をすくめた。
二人は俺を無視して進んでいく。
広間を抜ける扉を開けると、広い廊下に出た。そこには一定間隔ごとに石像が並んでいる。その数は10体
――じっくり見ると、妙にリアルな表情をしていることに気づいた。
「なんだこれ……昔の石像の技術ってすげーんだな。表情がめちゃくちゃリアルじゃん。特にこの苦しそうな顔とかさ。よくできてるわ」
俺が石像を指差しながら言うと、リディアが顔をしかめた。
「ちょっと……怖いこと言わないでよ。想像しちゃうじゃない!」
「なんか恐ろしい物でも見て、そのまま石化したみたいだよな。こんなリアルに作れるのすごいよな。こんな不気味な芸術置くなんて、だいぶ趣味の悪い王様だったんだな」
さらに言うと、リディアが溜息をつきながら手を振った。
「悠斗、もう黙ってて!」
俺は笑いながら肩をすくめたが、ふと気になるものが目に入った。石像の一つの首元に、何かがかかっている。
「ん? なんだこれ? あれ? これ……冒険者証じゃないか?」
俺が手に取ると、確かにそれは冒険者証だった。
「昔から冒険者っていたんだな……じゃあこれは『苦しみの冒険者』ってタイトルの石像ってイメージ?」
その言葉にセリーナが眉間に
「何ですって? そんなわけないわ。冒険者ギルドが発足したのは今から百年くらい前よ」
「ってことは……」
俺が言葉を詰まらせると、セリーナが石像をじっと見つめ、さらに真剣な表情になった。
「これ、行方不明の冒険者たちだわ。おそらく十人が全員ここにいる……」
俺は考え込みながら、ふと思い立った。
「石化か。俺にいい考えがある。金の針とか持ってないか?」
リディアが呆れた顔で言う。
「なんでそんなものが必要なのよ?」
「いや、俺の世界では金の針で石化が解除できるんだ(ゲームの話だけど…)」
リディアは顔をしかめながらため息をつく。
「そんなもの持ってるわけないじゃない。それに、そんな話、聞いたこともないわ」
するとセリーナが杖を構えながら言った。
「もしこれが状態異常の一種なら、私の魔法で解けるはず。試してみるわ」
セリーナが静かに詠唱を始めると、杖の先端に青白い光が宿る。そして、最も近い石像に向かってその光が降り注いだ。
「
光が石像を包み込むと、石の表面にひびが入り、やがて崩れ落ちる。中から一人の冒険者が膝をつきながら現れた。
「解けた……!」
リディアが驚きの声を上げる。
セリーナは息をつきながら微笑んだ。
「どうやら成功したみたいね。他の石像も同じように試すわ」
セリーナが順番に石像に魔法をかけていき、10人全員の石化を解除することに成功した。
「大丈夫、みんな無事よ」
リディアが柔らかい声で冒険者たちに話しかける。その声には、恐怖を和らげるような優しさがあった。
一人の冒険者が震える声で答えた。
「ここは……どこなんだ? 俺たちは……何が……」
リディアが彼の一人の冒険者の肩に手を置き、目線を合わせて落ち着かせる。
「あなたたちは石化されていたの。でも、私たちが助け出したからもう大丈夫。ゆっくりでいいから、何があったのか教えてくれる?」
その優しい言葉に、冒険者は息をつきながら少しずつ話し始めた。
「……正直、なぜ俺たちがここにいるのか、わからないんだ。俺たちは古城の入り口に辿り着いて、扉を開けようとしたんだ。でもその後の記憶がなくて……気がついたら、ここにいた」
他の冒険者たちも、彼の言葉に頷く。
「俺も同じだ。扉に触れた瞬間、目の前が真っ暗になって……それから何も覚えていない」
「そう……扉を開けようとして、ね」
リディアが小さく頷きながら、目線をセリーナに送る。セリーナもその言葉を受け止めながら、考え込むような表情を浮かべていた。
「なるほどな……」
俺は腕を組みながら真剣に考え込んだふりをしてから、ぽつりと言った。
「やっぱり俺たちが石化しなかったのは五円玉のおかげか……ご縁があったんだな」
リディアとセリーナが呆れたように俺を見つめたが、俺はそんな視線を気にせず、満足げに頷いたのだった。
セリーナが冒険者達に伝える。
「あなたたちはここにいて。私達は先に進むわ」
「いや、俺たちも戦える。連れていってくれ」
そうか。君たちが行ってくれるんなら俺はここで留守番していよう。
「それは…いい考え…」
俺の言葉を遮ってセリーナは冒険者達に厳しく伝える。
「この先に強力な魔物が出た場合、悠斗もいる中であなた達の事まで気が回らない。危険な状況になった時に邪魔になるだけだわ」
冒険者の一人が食い下がる。
「でも、俺たちだって戦えるんだ! 力になりたい!」
セリーナは一瞬黙り込んだ後、冷静に答えた。
「その気持ちはありがたい。でも、今は生き延びることを最優先にして。ここで安全を確保していてくれれば、私たちも安心して先に進めるわ」
冒険者たちは悔しそうに顔を見合わせたが、最終的には頷いた。
「……わかった。気をつけてくれ」
「えっ、それじゃ俺もここで安全確保を……」
俺が期待を込めて言うと、セリーナが容赦なく一言放つ。
「悠斗は戦力外でも、少しは役に立つわ。ついてきなさい」
「ちょっとセリーナさん、それちょっと傷つくんですけど……」
リディアが苦笑しながら俺の背中を軽く叩いた。
廊下の先に、いっそう豪華な扉が見える。ほとんど廃墟なのにそこだけ時が止まっているように鮮やかなままの姿を保っていた。
「あの扉の先、嫌な予感しかしないんですけど」
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