第2話 真実を超えて

「...ここは...?」

知らない天井を写した私の視界が少しづつ鮮明に、広がっていく。

そして自身がベッドの上で寝かされていることに気がついた。

これほど寝心地のいいベッドは産まれて初めてだ。メリアがいつも使っているベッドだってここまでフカフカではない。

そこまで考えた私は慌てて飛び起きた。

「っ!メリアっ!」

辺りを見渡すと幸い私のすぐそばのベッドでメリアは寝息を立てていた。

それを見た私は心底安心して、改めて辺りを見渡した。

私達がいる部屋は恐らく休憩室のようなものなのだろう。私達以外のベッドがいくつか置かれていて、腰掛けれる程度の椅子も無造作に置かれていた。

「目を覚ましたのね。」

突然扉の方から声が聞こえた。

声の方へ振り向くと、そこには穏やかな雰囲気を纏った女性が立っていた。

私は少し警戒を強めて、その女性に問いかける。

「誰だあんた?」

すると女性は落ち着かせるようにこちらに語りかけてきた。

「そう、警戒しないで。私の名前はカレナよ。ここでは怪我人のお世話をしている者よ。あなたは自分がどうしてここに運び出されたか思い出せる?」

そう言われた私は、確かに自分達が何故こんな所にいるのかと疑問に思い、自分の記憶を呼び起こしていった。

確か...私はいつものように仕事に行って...そこで...兵士がメリアを狙っているかもしれないことを知って...その後...私達は貴族に見つかって...メリアを守るために戦ったんだ。

「そういえばその後、得体の知れないローブの奴に助けられて...意識を失ったんだ。」

それを聞いたカレナは安心したように頷き、

「うん、記憶の方は問題なさそうね。受け答えもしっかりしているから順調に回復してきているわね。」

と私の容態をメモしていく。

「そうだ...私達を助けた奴は自分がレイリアの一員だと言っていた。つまりここは...レイリアのアジトなのか?」

私の言葉にカレナは大きく頷いた。

「ええ、間違いないわ。正真正銘ここはレイリアのアジトの一つよ。まあ、アジトでもあり、本部でもあるのだけど。」

つまり、ローブの者は嘘をついていなかったということか。しかし、まだ知りたいことは山ほどある。

「なあ、答えてくれないか。何故あんたたちは私たちを保護したんだ?そもそもなんでメリアは国から狙われているんだ?」

するとカレナは少し困ったように笑った。

「そうよね。知りたいことがたくさんあるわよね。でもその前に、まずは自分の妹ちゃんを安心させてあげて。」

次の瞬間に私の背中から悲鳴のような声が響いた。

「姉さん!大丈夫なの!?」

こちらに飛びついて来る勢いで私の手をメリアが握ってくる。

その姿に私は思わず苦笑し、頭を撫でる。

「ああ、大丈夫だよ。心配かけてごめん。」

私の声を聴いてようやくメリア安心したようだった。

「良かった...本当に...」

そして再び私はカレナの方へ振り向き、言葉を投げかける。

「それで、しっかり話して貰えるんだろうな?」

カレナは私達の様子を微笑んで眺めながら私の問いに答えた。

「ええ、しっかり話すわ。だけど、大事な事だから私の方からじゃなくて、組織のリーダーから直々に話して貰うわ。」

そうカレナが話した直後、部屋の扉が開かれ一人の少女が姿を表した。

「目が覚めたのですね。本当に良かったです。」

その声に私は聞き覚えがあった。

「あんた...まさか私達を助けたあのローブの奴か?」

私の言葉に少女は頷いた。

「はい、その通りです。かなり消耗していた様子だったので、回復したようで何よりです。」

そして少女はスカートの裾を持ち上げ、頭を下げた。

「改めて名乗らせていただきます。私はリリーと申します。今から私がお二人をリーダーの元までご案内いたします。」

私達はリリーに奥の部屋の前まで案内された。

「先程リーダーの元まで案内するといいましたが、他にも私達の仲間も一緒にいます。重要なお話ですので、同席させていただきます。ご理解をお願いします。」

「ああ、分かった。」

扉を開けると、そこには8つの影があった。

「二人とも待っていたわ。どうぞ楽に腰掛けて。」

すると、その中の一人の桃色の髪の女性が私達に声をかけてきた。

「あんたが、ここのリーダーか?」

すると女性は少し困ったように頷いた。

「正確には私はリーダーではなく、リーダー代理なの。だけど、一応今のこの組織を一時的にまとめているわ。」

その女性は立ち上がり、

「わたしの名前はメグ。私の方から二人に今回のことについて話させて貰うわ。」

「私はセラ。こっちは妹のメリアだ。」

「セラとメリアね。よろしく。」

そう言うとメグはゆっくり話し始めた。

「さて、まずあなた達が...いえ、妹さんが狙われている理由を話すにはこの国と王族・貴族について話さなくちゃいけない。」

「王族について?」

私は思わず眉をひそめる。

「ええ、そもそも現在のネスタ王国自体は、長い長い内戦の果てに統一された国なの。

そしてそれはたった一人の英雄によって成された。」

「たった一人の英雄...」

「それが現在の王族の祖先にあたるネスタ・カーラルよ。彼は戦士としてだけでなく、王としての素質もあった、多くの国民にも慕われていて、まさに英雄と呼ばれるに相応しい人物だったの。」

そしてメグは静かにこちらを見つめ、再び口を開いた。

「彼が生きていた時代、つまり彼が玉座にいた時代はとてもよい国だったそうよ。

だけど、彼には王として一つだけ重大な欠点があった。」

「欠点?」


「レジスタよ。」


私には訳が分からなかった。

「どうしてだ?王として国に立つなら、レジスタという力はあって困らないはずだ。」

メグは私の問いに頷きながら言葉を続けた。

「そう、彼自身の力として持つなら全く問題は無い。問題はレジスタの性質の一つ。」

「レジスタの性質?」


「それは...ということ。」

「...?それの何が問題なんだ?」

するとメグは逆にこちらに問いかけてきた。

「二人はそもそもレジスタとはなんだと思う?」

その言葉に私達は困惑した。

「何って...王族と貴族だけが持つ不思議な力だろ。」

「えっと...確かその能力の種類も多くに渡っているだとか...」

私もメリアもレジスタについては路地裏で流れる噂程度しか知らない。

「ええ、世間一般的に言われているレジスタとは概ねその通りよ。けれど、一つだけ世間一般の認識では大きく間違っている点があるわ。」

「...?それは何だ?」


「レジスタは...。」


「っ!?何だって!?」

私は思わず立ち上がった。

「本来レジスタとは素質ある者ならその血縁に限らず発現する異能なの。だけど、レジスタの発現には一つの条件がある。」

「条件...?」

「それは...その者にとっての強大な敵に抗う強い反逆の心。」

するとメグ私の方を向き言った。

「セラ、あなたは覚えがあるはずよ。あなたは既にレジスタに目覚めているから。」

「っ!?私がレジスタに目覚めているって!?」

そんなまさか。私は生まれてこの方そんな力なんて...

「あ...あの時の...貴族と戦った時の...」

あの時の私は無我夢中だったから正直あまり覚えてない。するとメリアも私を見て言葉をかけた。

「確かに、あの時の姉さんは明らかにいつもと違う様子だった。」

その言葉にメグは頷き、言葉を続けた。

「そう、あなたに目覚めたように、レジスタという力は王族・貴族以外にも発現しうる

高潔な精神を持つ者の反逆の刃...のはずだった。」

そこで私は気づいた。

「っ!...なるほどな。レジスタの欠点っていうのはそういう事か。」

「ええ、高潔な精神を持たない者が無条件に他者より強い力を持ってしまった。その力に溺れて傲慢な人格が形成される者が出てしまうのも必然ね。」

確かにいくら高潔な精神を持った者が先祖であったとしても、その子供が生まれながらに圧倒的な強者であったのなら、その力に支配されてもおかしくないだろう。

「そして強い自尊心を育まれ、ましてや王族という立場的にも恵まれた者は、次第に自分達の力を特別な物だと認識させたがるようになった。」

「なんだ?その力を見せびらかしたりでもしたか?」

私の言葉にメグは首を振り、目を伏せながら言葉を続けた。

「彼らは自分達の力を特別にするために...

。」

「っ!?...嘘だろ...」

私達は驚きのあまり呆然とした。

「王族・貴族の全ての力を使いその存在を消しにかかったそうよ。当人だけでなく、その家族、友人、恋人。その力を知る全ての者を。」

なんとも胸糞の悪い話だ。そんな者達がこの国の頂点に立っているというのか。

「そして、密かに行われたその粛清によってこの国の王族・貴族以外のレジスタを持つ者はほとんど消されてしまった…

よって、残ったレジスタを持つ者は王族・貴族に限られてしまい、真実を語ることの出来る存在自体もほとんど彼らだけになった。それが現在のこの国の現状よ。」

私自身元より路地裏で育った存在だから、それほど国や王族に対して信頼があった訳ではない。しかし、真実を知った今としてはずっと信じていたものに騙された気分のようだった。

「ふざけた話だ...。だけど...だけどアイツらがメリアを狙う理由はなんだ?今の話だとむしろ狙われるのは私の方じゃないか?」

メグは一層真剣な眼差しでこちらを見つめ、私の問いに答えた。

「そうね、本来なら狙われるのはメリアではなくセラのはずよ。ここからがこの話の本題なの。メリアが国から狙われる理由...それはメリアが《呪血の少女》だからよ。」

「...?呪血の少女?何だそれは?」

そんな名称聞いたこともない。

「無理もないわ。この名は王族・貴族の中でも限られた者だけに伝わっていくはずのものだから。」

メグはメリアの方へ顔を向けて言葉を続けた。

「呪血の少女とは、王族・貴族の...いや、レジスタを持つ者との間に生まれる白髪に真紅の瞳を持つ少女のことよ。」

それを聞き私は思わず声を挟んだ。

「ちょっと待て!その話が本当ならメリアは王族か貴族の間に生まれたってことか?」

私の言葉にメグは首を振った。

「いいえ、確かなことは言えないけれどその線は低いと思われるわ。もし、王族か貴族の間に呪血の少女が生まれていたなら、すぐに始末されていただろうから。」

「っ!始末だって!?」

「そう。それほど王族・貴族にとって呪血の少女とは忌むべき存在なの。その理由は、

。」

「なっ!?」

「っ!?」

私もメリアも今日何度目かの驚きの声を上げた。

「そしてそれはその子供だけにとどまらず、その子供、そのまた子供と輪を広げていく。おまけにその子どたちは呪血の少女の血縁だという見分けがつかないそうよ。」

「...なるほどな。王族からすると自分達の絶対的な支配の源であるレジスタの存在が危ぶまれるって訳か。」

「まさにその通りよ。過去に産まれた呪血の少女は例外無く、その存在を消されてきたわ。」

「...じゃあ、メリアはこれまでに無い始末されずに生き残った呪血の少女ってことか?」

「ええ、だから国を総動員して消しにかかってきているの。」

王族・貴族の力の源。そんなものを守るためにメリアは消されようとしているってのか。

「クソッ!!ふざけやがって。」

「そう、彼らはどこまでも利己的な存在なの。国の人々のことなんて何も考えてないわ。」

メグは同情するように言い、立ち上がった。

「だから...私達はそれに抗わなくちゃいけない。理不尽に奪われる悲劇を終わらせなくちゃいけない。それが...私達レイリアよ!」

「そうだ...あんた達は反逆者集団だったな。あんた達は具体的に何を目的として動いているんだ?」

私はメグの方を見つめ問いた。

「私達は主にレジスタに目覚めた者そしてその家族や存在を知る者の保護を行っているわ。そして、最終的にはこの国で革命を起こして王族・貴族の制度を破壊する。それが私達の目的よ。」

私の問いに答えメグはこちらに手を差し伸べてきた。

「私達はあなた達を歓迎するわ。そして責任を持ってメリアを守ると約束しましょう。だから、セラ。あなたも一緒に戦って欲しいの。」

「戦う?」

「私達レイリアは少数精鋭で動いているの。あなたのようなレジスタに目覚めた者でね。そうすれば情報漏洩のリスクも下げれるし、万が一でも何とかなりやすいわ。」

メグは頭を下げ再び私に言った。

「私達の力になって欲しい。どうか一緒に戦って!」

「...」

私は...ただメリアと穏やかに暮らしたいだけだ。そんな大義を掲げて戦うことなど私にできるのだろうか。けど...

「姉さん...」

心配そうに私の方をメリアは見つめている。

きっと私の身を案じているのだろう。自分自信が狙われていると分かっているにも関わらず。

「分かった。その話受けよう。」

「っ!?本当に!?ありがとう!」

メグは私の言葉に顔を綻ばせて喜んだ。

「大丈夫なの?」

メリアが私に問いかけてくる。

「ああ。どうせ狙われることは防げないんだ。なら少しでも安全な方に乗った方がいい。」

「そうじゃなくて!姉さんが危ない目に...」

「それこそ心配無いよ。私はそう簡単にやられたりはしない。メリアを残してはいけないからな。」

微笑みながらメリアの頭を撫でる。

するとメグが再びこちらに手を差し伸べ言った。

「改めてようこそレイリアへ。」

「ああ、よろしく。」

私は改めてメリアを守り抜くことを誓いながらその手を握った。





「まだ見つからないのか。呪血の少女は。」

「ハッ!申し訳ございません!私達の全力を持って再び見つけて見せますので!」

言葉一つで背筋が凍る程の圧を持つその存在に怯えながら、ユーガリアは慎重に言葉を選んだ。

「再び?はなからお前が始末に失敗しなければ、今頃こんなことにはならなかったはずではないか。」

「ハッ!その通りでございます!ですが、レジスタを持った小娘に邪魔をされ...っが!?」

「誰が貴様に口答えする事を許した?レジスタを持つ小娘だと?所詮死に際に偶然発言させただけの痴れ者だろう。だがそんなゴミに貴様は負けたのだ。」

突然目に見えないとてつもない質量がユーガリアの上から乗せられたように、ユーガリアは地面に押し潰された。

「貴様を生かしておく価値は最早ない。今ここで...死にな。」

非常な声がユーガリアにかけられたが最後、必死の断末魔を上げながらユーガリアの体はおよそ人のかたちとは程遠い姿となり押し潰され、その命を散らした。


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ここまで読んでいただきありがとうございます。本当はもうちょっと説明以外の場面も書きたかったのですが、とても長くなりそうだったので断念しました。次回はしっかりと物語が進んでいくのでどうか気長に更新を待っていただけたら幸いです。


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